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そもそも、なぜ介護人材が不足するのか- 介護労働の国際化(4) 介護労働Ⅴ‐4


1. 生産年齢人口減少の衝撃

 外国人労働者が介護現場で働くようになってきています。これは、介護人材を日本国内でまかなうことができなくなってきているからです。

  介護の人材不足は、そもそも、日本の人口減、特に、生産年齢人口の減少に端を発しております。
 このままですと、2020年、1億2,615万人であった日本の人口は、2045年には1,735万人も人口が減り、1億880万人となりとなり、2056年には1億人を割って9,965万人となり、2070年には8,700万人になるものと推計されています。

 

日本の生産年齢人口推計

 生産年齢人口(15~64歳人口)は、1995年の国勢調査では8,726万人でピークに達しましたが、その後、減少局面に入り、2020年国勢調査によると7,509万人となっており、25年間で1,217万人も減少(約14%の減少)しました。
 将来の生産年齢人口は、出生中位推計の結果によれば、2032年には7,000万人、2043年には6,000万人、2062年には5,000万人を割り、2070年には4,535万人まで減少するということです。約75年間で生産年齢人口がピークの約半分(約52%)になってしまうのです。

 2024年の生産年齢人口推計は7,346.6万人ですが、10年後の2034年では6,811.1万人となり、10年間で535.5万人も生産年齢人口が減少(7.2%の減少)します。10年間でほぼ北海道の全人口と同じ生産年齢人口が失われてしまうのです。

(参照:「日本の将来推計人口(2023年)」出生中位推計:国立社会保障・人口問題研究所)

 


 実際のところ、2022年には、新たに介護に就労した人数より、介護を辞めた職員が上回り、介護労働者が前年より6.3万人(▲1.6%)減ってしまったといいます。

 生産年齢人口が急激に減少していくのですから、介護労働者が減るのは当たり前。介護労働者も自然減になるのが道理です。

2.人口減少の原因は資本主義

 大西広(京都大学名誉教授)さんによると、日本の人口減少、生産年齢人口の減少は、資本主義による格差拡大、労働者の貧困化による婚姻率の低下、合成特殊出生率の低下が原因だといいます。 

 大西広さんは人口の減少、再生産は格差拡大のせいで未婚率が上昇して子供を産み育てることができなくなったからだと次のように指摘しています。

 「実質賃金で言えば1995年のピークから2020年に至るまでに実は16%の下落となっています。」

引用:大西広2023『「人口ゼロ」の資本論』講談社+α新書 p40

 「未婚割合の推移をみると、ほんの30年前までは、特に男性の場合、50才まで結婚しないというのはほとんどありえない状況であったことがわかりまます。それがここにきて急速に広がり、いまや人口の4分の1以上を占めるに至っているということです。・・・この現象は非正規労働者においてはさらに広がり、60%以上に至っています。」

引用:大西広2023『』講談社+α新書 p38,39

「格差が拡がると下層の人々は人口再生産ができなくなる。すでに男性の25%以上、非正規労働者に限れば60%以上が結婚ができない社会になっていて、人口も再生産できなくなっている。」

引用:大西広2023『「人口ゼロ」の資本論』講談社+α新書 p114

 大西広さんは、そもそも、資本主義自体が貧困者をつくる仕組みを内在させているといいます。

 「そもそも「資本主義」そのものが社会の一方に貧困者をどうしてもつくらなければならないという本質を持っていた・・・」
『この経済システムでは2つの社会階級が必然的に生み出されます。機械と結合して生産活動を担う労働者階級とそれを企業家として担う資本家階級ですが、後者がその「成果」に応じて利潤の分け前を受け取る一方で、前者の労働条件は低ければ低いほど投資=蓄積資金としての利潤部分の確保が容易になるのでよい、とされてしまうことになります。つまり、資本主義はこうしてその始まりから本質的に低賃金で働かせる労働者群を必要としており、要するに「経済格差」は最初から必要事であったということになります。』

引用:大西広2023『「人口ゼロ」の資本論』講談社+α新書 p151,152

 資本主義体制そのものが、格差を拡大し、国民の貧困化させ、結婚できず、子供を産めないようにして、人口減少、生産年齢減少を招いており、その結果の介護人材不足なのです。 

3.外国人労働力への依存と収奪

 日本の人口及び生産年齢人口の急激な減少への対応のため、日本政府は外国人労働力への外国人技能実習制度(新名称案:育成就労制度)、特定技能制度などの外国人労働者への依存政策を推進してきています。

 日本人の労働力が不足するなら、グローバルサウス[1]の労働力でまかなえば良いということです。 

 大西広さんは、このような外国人労働力への依存政策は、国際搾取であり、日本の賃金水準をさらに切り下げ、日本の人口再生産をさらに困難にするものだと指摘しています。 

「・・・外国人労働力への依存への傾斜をどのように理解するか、という問題です。・・・私に言わせると、これはやはり、・・・安価な国際搾取であることが重要です。本来は自国の再生産システムの中で「賃金」として次世代労働力の再生産コストが支払わなければならないのに、それをやらずに安価な労働力を調達しようとの魂胆だからです。そしてまた、彼ら外国人労働者を安く使って日本の賃金水準全体を切り下げることは、日本国内での人口再生産自体をさらに困難にします。これでは労働力供給上の悪循環に陥るばかりです。」

引用:大西広2023『「人口ゼロ」の資本論』講談社+α新書 p90

 同氏はさらに、このような、外国人労働力への依存傾向は、再生産労働を蔑ろにする先進資本主義の帰結だとしています。

 「・・・自分自身の再生産ができなくなった(自分の足で立てなくなった)現在の先進資本主義が、「移民」という外部からの供給なしに接続しえない存在になっている・・・」

引用:大西広2023『「人口ゼロ」の資本論』講談社+α新書 p116

 資本主義が、経済的格差を拡大し、労働者の低賃金を促し、国内での再生産労働を蔑ろにし、人口減少・労働力不足を招来したあげく、グローバルサウスの労働力で補填し、さらなる低賃金化を進め、利益を増大しようとしているのです。

 そして、国内の低賃金の労働者たちは、外国人労働に自分の職を奪われたと思い、ナショナリズム的・国粋主義的な傾向を強め、グローバルサウスから来た外国人に対する差別を強めていくことになりやすいのです。


[1] グローバルサウス(Global south)とは、地球規模の権力関係によって生じた格差がうみだした概念。あくまで格差による負の影響や要因に着目するための概念で、グローバル化によってその被害を受ける地域や住民のこと。地理的に南にある地域を指すわけでも、地理的な線引きや国のグルーピングをするものではない。

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