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おりこうな夜遊び。

生ぬるい、まだ日の暮れきらない街の、1本入った路地には明るく鮮やかな看板が並ぶ。
イタリアンバル、串カツ居酒屋、立ち呑み屋、そして韓国居酒屋。

3年半ぶりに集う今宵のメンバーは、我が家の長女の同級生のお母さんたち。もう、15年以上の付き合いの5人。年齢もバラバラ、子どもたちも男の子だったり女の子だったり、第1子だったり第2子だったり。保育園の保護者会の役員で一緒にバザーをしたり、運動会のお手伝いをしたりしたメンバーだ。
気が合い、ランチへ行ったり、飲みに行くようになった。

子どもたちや家のあれこれが、ひと通り片付いた夜9時すぎ、誰かの家に集まっての宅飲みをよくしていた。
子育ての、夫への、義父母への、仕事への、不安や不満や愚痴やなんかを吐き出し、寄り添い、「わかるー!」とみんなで笑い飛ばすパワフルな集い。
それは長女たちが「ぞう組さん」だった頃からという由来で『子象の会』と称している。

コロナで人に会いにくくなり、子どもたちが高校を卒業し、受験や新生活に忙しくしながらパタリと途絶え、3年半が過ぎていた。

「久しぶり〜、みんな元気?そろそろ『子象の会』しませんかー?」

とグループラインに招集がかかった。
(例のごとく、私たちは普段から連絡をこまめに取り合うことはない)

「韓国居酒屋へ行きたい!」と決まり、
「じゃー18時に順番に迎えに行きまーす」と飲まない子が車を出してくれる(神!)。

もう、車に乗るや否や「元気だった!?」を皮切りに、みんなで3年半を埋めはじめた。

ブルーやピンクのネオン管の、スチールテーブルや回る椅子。奥へ細い店内は、チャミスルや美酢の瓶の並ぶカウンター、さらに奥のボックス席へと通される。店内は、すでに若い男の子や女の子、同世代くらいの女性たちで賑わい、おしゃべりと笑い声に溢れて。
2時間飲み放題のサムギョプサルと3種のメインのコースがはじまる。

「かんぱーい!」

それぞれの子どもたちの「今」を。
広島にいたり、金沢にいたり、名古屋へ通ったり、2年目浪人で勉強していたり、料理を作っていたり、イラストを描いていたり。
上の子が、就職をして彼女と同棲していたり、就活がはじまっていたり、新米看護師で奮闘していたり。

小さな頃から知っている子どもたち。
だからこそ、どこか「今の彼ら」が想像できてしまう。あの青色のぞう組さん帽子をかぶっていた〇〇くん、〇〇ちゃんの面影を、どこかに不思議と感じるのだ。

店員さんが分厚いサムギョプサルをジュージューと鉄板で焼く。手際よくハサミで切り分ける間にも、首からさげた紙エプロンの私たちは話続ける。

Twitterを駆使してアグレッシブに推し活をしているフミちゃん(仮)の話を、ほぇ〜と聞く。アクスタだの、ファンサうちわだの、の専門用語と、彼女の行動力に、ほぇ〜と。

レモンサワー2つと、ジンジャーハイボールと、美酢サイダーのグレフルとザクロを追加しながら。

ミディアムトマトの苗をもらったから、ちょうどいい鉢と土と支柱を買ってきて、育て始めたチーちゃん(仮)は、我が子のように毎日お水をあげていて。

「楽しいの、ほーんと」

ほんのり頬が赤らんで、酔い始めているチーちゃんは、笑い上戸だ。

隣の母屋でおばあちゃん(姑)がいつも少しだけ戸を開けっぱなしにするせいで、飼っているナツ(猫)がちょくちょく外へ出て行く話。近所の野良猫が、ナツのエサを食べていることを、きっとおばあちゃんは知っているけれど、特に咎めないこと。そして、ヤッちゃん(仮)は、そのナツを自分だけ「にゃー子」と呼んでいること。

カリッと揚げたカニチップスに、「辛い方」のたれをちょんとつけたのを、パリパリしながら。

広島で口腔学の勉強をしている息子が、医学部へ転向したいと、そして「ルーマニア」へ行きたいと言い出して、とりあえずこれを見てくれと「オンライン動画」を1時間みせられたセイちゃん(仮)は、「ルーマニアってどこよ」から離れられずに、全然内容が入ってこなかった話に、

「ルーマニアて!!」

と全員が声を揃えて笑った。いかにも〇〇くんらしかったのだ。

デザートのイチゴのアイスクリームのスプーンを持ったまま。

18年乗っていたオレンジ色の車から、赤色のRockyに変えた話。うさぎをみんなで看取ったあと、7kgにもなる黒猫を、夫がまさに猫可愛がりしている話。毎月京都へ日帰り出張へいく夫の話をしていると、

「それ、みんなで便乗して京都いこーよ」
と盛り上がる。
「よし!来月はいつか聞いておいて」
といい色に、いい感じに酔ったヤッちゃんはノリノリだ。

気がつけば23時をまわり、それでも若い男の子たちが「うぇーい」と入ってくる。きっと彼らの夜は、まだまだこれからなのだ。

私たちは、店を出て、
「よーし、朝までボーリングいくぞー」
「そーだ、オールだ」
「2軒目は串カツ屋いく?」
「えー、〆のラーメンじゃない?」
とか言いながら、ケラケラ笑いながら、まだ生ぬるい街を車まで歩く。

「まったく、ルーマニアってどこよ」

とまた再び、笑いこけながら。


24時。
カチャン。
そぉっと、「ただいま」を言う。

寝ぼけた黒猫が「ナァ~」と鳴いた。

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