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絵画解説:クロード・モネ「睡蓮」

 先日、100円ショップ・セリアに、「睡蓮」と「モナ・リザ」のジグソーパズルが売っていたのでさっそく作ってみた。それをきっかけに、今回はモネの睡蓮について軽く解説してみたい。
 「モナ・リザ」については案外、基本的なことは多くの人が知っているであろうし。映画でも大ヒットだったミステリ『ダヴィンチ・コード』シリーズの影響もあるのかもしれない。

 さて、モネの睡蓮と言われて、あなたが想像するのはどのようなものだろうか。というのも、モネは様々な「睡蓮」を描いているのだ。
 試みにWikipediaを見てみると、有名な日本風の太鼓橋のかかったもの、水面を描いたものに大別されるが、様々な情景を描いていたことに気づかされる。

Wikipediaより。
ジグソーパズルになっているのは、
縮尺上、この絵の一部と思われる。

 クロード・モネの代表作のひとつがこの睡蓮を描いた作品群であるが、その他にも、『印象・日の出』(1872年)なども有名だ。この作品によって、彼のような作風を、「印象派」と呼ぶようになったとされる。

 では、19世紀後半に登場した印象派というのは、西洋美術史において、具体的にどういった存在だったのか。
 多々描かれた内容は、パリ郊外や北西海岸の行楽地の風景である。
 長らく西洋美術の世界では、宗教画や王侯貴族の肖像画を、題材におけるヒエラルキーの頂点としていた。
 その中で印象派の少し前に、バルビゾン派やウィリアム・ターナーといった画家による風景画の地位が台頭してきたのである。

 そういった時代の流れの中で登場した印象派の画家の多くも、風景画を描いている。
 だが、美術アカデミーは各国に存続している。むしろ、帝国主義の芽生えを目前として、より権威を強めていたとも言えるのでは。
 印象派の彼らは、それまでの貴族的サロンやアカデミーとしてではなく、個展を催したり、画商に売ってもらうことで活動していた。
 言わば、同人活動のような雰囲気に近い。なので、印象派画家がその当時、貧乏であるのも珍しくない。

 もうひとつ、印象派の画家が、それまでの画家と異なっているのは、戸外での油彩スケッチへの扱いだ。
 無論、彼ら以前にも戸外でのスケッチはなされていたが、それらはあくまでも「習作」であり、「完成品」となる絵はアトリエで仕上げられるのが通例である。
 だが、印象派の画家は、その過程を分けず、むしろ戸外で完成させることを良しとした。
 それはなぜか。
 細部への緻密な工夫を施すためにアトリエで時間をかけるのではなく、戸外で感じた“印象”を短時間で絵にしてしまう為である。
 印象派が研究しこだわったのは、色彩と筆触
 その日その時その瞬間の光の加減をキャンバスに落とし込むことを目指したわけだ。「新印象派」とも呼ばれるジョルジュ・スーラの点描も、その追究の末に生み出されたといえるだろう。

 この説明を踏まえれば、なぜモネが何作も睡蓮を描いたかがようやく分かってくる。単に題材として好みであっただけでなく、光の移ろい、水や睡蓮の様子をその時々で切り取っていたというわけだ。
 ちなみに、色にこだわったのが印象派であるのに対して、形や視点を追究したのが、ピカソなどが分類される「キュビズム(立体派)」である。

 今回、ジグソーパズルを組み立てて改めて感じたことは、やはりこの色の使い方の巧みさだろう。
 奇しくも数週間前、僕もほぼ毎回YouTubeを視聴している美術解説の先達・山田五郎氏が、水彩画や鉛筆画で知られる柴崎春通氏とコラボしていた。
 その回はクレヨンでモネの睡蓮を描くというもの。これまた話が面白い。

 ここで改めて、冒頭に貼っておいたモネの「睡蓮」を見てもらいたい。

 青や緑にも様々な色味があって、藻などの様子がわかる上に、紫を用いて陰影をしっかりと認識させられるのだ。
 絶えず変化する光と大気などのニュアンスを、戸外で“完成”させることで彼らは、それまでの画風(アカデミズムやサロンの流行)とは異なった作品を自主的に発表し、示してみせた。

 ちなみに、僕の好きなゴッホ、その他にも先述したスーラやセザンヌ、ゴーギャンなどを「新印象派」や「後期印象派」とも呼ぶ。
 例えばだが、確かにゴッホとゴーギャンは交流があり、それどころかジャポニズムを表現しつつ同居もしたことがある。
 けれど、後に仲違いしている(ゴッホが片耳を切った事件はこれがきっかけとされる)など、必ずしも画風として同じようにカウントできるかは微妙である。
 
 やがて時代は、19世紀から20世紀初頭という世界が大きなうねりをみせた時代へと進む。ゴシック小説の時代であり、「世紀末芸術」とも呼ばれる「象徴主義」もこの頃に登場する。
 このように、何かと言えば、西洋絵画の代表例として「印象派」を思い浮かべがちだが、西洋美術史の中では、ある意味では一時期の動きであり、むしろ世界中で着目されだしたのは20世紀半ばから昨今にかけてであろう。

 200ピースとはいえ、ジグソーパズルとなった「睡蓮」に翻弄された僕ではあるが、打ちのめされまいと、今回、選ばせてもらった次第である。

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