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音楽というアート|坂本龍一氏のトリビュート展

 坂本龍一氏はミュージシャンとして知られている。代表曲である「Merry Christmas Mr.Lawrence(戦場のメリークリスマス)」(1983)や「energy flow」(1999)のピアノの旋律を聴いたことがない人は少ないだろう。実際、東京藝術大学で作曲を学び、大学院で修めた氏はいわゆる正統な音楽家である。一方でその活躍は音楽の枠に収まっていない。映画『戦場のメリークリスマス』、『ラストエンペラー』(1987)への俳優としての出演は傍に置いたとしても、レコード

Mr. CHEESECAKEに救われて

なかなか買うことのできない幻のチーズケーキ「Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)」がセブンイレブンとのコラボレーションによって、チョコレートとアイスクリームという形ではありますが、全国に広がることになりました。ここには食の安全も含め、単なる売買を超えた新しい消費の形があると思うのです。  わが子は小麦アレルギーである。生まれた時から小麦を口にすることができない。これはなかなか酷なことであって、うどんも、パスタも、パンも、スナック菓子も食べられない。どれもこれ

ジャズをつなぐ理由|Roy Hargroveのドキュメンタリー映画『人生最期の音楽の旅』

 2018年に49歳の若さでこの世を去ったトランペット奏者、ロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove)。長年の友人でもあったエリアン・アンリ(Eliane Henri)が撮影したドキュメンタリー映画が、いよいよ日本でも公開された。結果的に最後となってしまったツアー中のハーグローヴを追った作品は、氏の才能と苦悩を、美しくも儚く描き出している。イタリアの町を歩くシーン。足を引きずる様子からは、晩年の病状の悪化が見て取れる。それでもステージに立てば、笑ってしまうほどの軽快なグル

敢えて多くを物語らない|ソール・ライター展

 2017年、2020年と3年おきに開かれている写真家ソール・ライター(Saul Leiter)の企画展が、今年も渋谷で始まった。とは言え、主催する東急・Bunkamuraが主要施設を長期休館しているために、いつもとは場所を変えての開催だ。今回の会場となるヒカリエの8階、ヒカリエホールはより渋谷駅に近いこともあってか、平日日中にもかかわらず結構混み合っている。回を重ねるごとに人気を高めているようにも感じられる。シリーズも3回目を数え、ソール・ライターの生誕100周年を祝う今年

時代に流されないために|イヴ・サンローラン展

 「ファッションは廃れるけれど、スタイルは永遠だ(Fashion fades, style is eternal)」。イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)氏の有名なこの言葉は、今の時代にこそ重宝される。毎年のトレンドを追いかけて、鮮やかな青色やシースルーの服を買ってみても、果たして何回着ることができるのか。本来「流行」を意味するファッションは、当然に時代遅れをも連れてくる。去年のものと一目でわかるデザインは定番よりもずっと気恥ずかしくて、メルカリやラクマ

東京はいま|TOKYO NODE開館記念企画『Syn:身体感覚の新たな地平』

 この秋に新しく開業した東京・虎ノ門ヒルズ ステーションタワーは、その最上層を「TOKYO NODE」という複合施設が占める。新しい街の一等地ともいうべきこの場所に、レストランや空中庭園だけではなく、ホールとギャラリーを設ける遊び心が今の東京を表している。オフィスやホテルはもう十分。こけら落としを担ったのはPerfumeの演出でお馴染みのRhizomatiks x ELEVENPLAYのコラボレーションだ。世界中を魅了するテクノロジーとアートの組み合わせが、東京の街に再び発信

動き続ける音楽|Robert Glasper来日公演

埼玉・秩父ミューズパークで開催された「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022」。大トリを務めるべく来日したロバート・グラスパーの単独公演を観れば、ただ一つのアフリカン・アメリカン・ミュージックに昇華されようと動き続ける『Black Radio』の今に触れることができると思うのです。  5月、アメリカからはバイデン大統領だけでなく、ジャズ・R&B界の人気ミュージシャンたちが挙って来日を果たした。ロバート・グラスパー(Robert Glasp

聴くことと、弾くことと|Meshell Ndegeocelloの来日公演

 グラミー賞にて、今年から新設されたベスト・オルタナティヴ・ジャズ・アルバム部門はミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)が勝ち取った。1960年代生まれのベテランがシーンを牽引していると思うと頼もしい。8年ぶりのオリジナル盤『The Omnichord Real Book』は、老舗ブルーノートに移籍してのリリースだ。これまで様々なアーティストをサポートし、プロデュースしてきた氏の作品に相応しく、多くの話題のミュージシャンがクレジットに名を連ねる。ジ

オリジナルに想いを馳せて|ゴッホ・アライブ

 東京・品川の寺田倉庫G1ビルでは、ゴッホ・アライブ(Van Gogh Alive)が開催されている。これまで世界99都市を回り、延べ900万人もの来場者を誇るという話題の体験型インスタレーションが、いよいよ東京にやってきたのだ。そのコンセプトは至ってシンプル。運営するGrand Experience社によれば、「3,000点を超えるゴッホの巨大な画像が、壁、柱、天井、床までを埋め尽くすスリリングなディスプレイを作り出し、ゴッホ独自のスタイルを構成する鮮やかな色彩と生き生きと

フレームの外側|川内倫子氏の写真展「M/E」

 東京オペラシティ アートギャラリーでは、写真家・川内倫子氏が国内では6年ぶりとなる大きな個展を開いている。タイトルは「M/E」。Mother Earth(=母なる地球)の頭文字をとって、ME(=私)に重ねる。地球に生まれた私たちは自然はもとより、それを取り巻く物理現象から逃れることができない。氷河や火山、生物や植物、食物や道具、どれを撮っても光を際立たせる川内氏の表現が、生きることの尊さと儚さを再認識させるのだ。昨今、影ばかりが着目されがちな写真の世界において、このストレー

共感する建築と都市|ヘザウィック・スタジオ展

 この秋の開業を目指して、東京は六本木ヒルズと東京タワーの間の位置に、日本一の高さを誇る高層ビルが建ち上がった。麻布台ヒルズ。メインとなる森JPタワーは高さ330m(地上64階)にもなるとのことで、大阪・あべのハルカスを30mほど追い越した。主な用途は住居やオフィス、商業施設。六本木ヒルズに肩を並べる規模の街が生まれようとしている。古くは飯倉と呼ばれた由緒ある地も老朽化が進み、30年の時間を掛けて再開発の地盤が整えられたらしい。その継承先ともいうべき低層部の街並みを描いたのは

香りを通じて|蜷川実花氏の個展『Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠』

 東京虎ノ門・TOKYO NODEでは、開館記念企画の第二弾として、蜷川実花氏の個展『Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠』が開かれている。その人気の高さから規模が大きくなりがちな氏のエキシビジョンの中でも史上最大級と言われる今回は、11もの展示室に写真と映像と造形が組み合わさった作品が詰め込まれている。そして、そこはもちろん多彩な色に溢れている。枯れた黒や茶色、眩しい緑やピンク、瑞々しい赤や青、黄色。今の時代に一切のCGを使っていないというのは、写真家と