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(2)大奥化? チーム再編の動きアリ。 (2023.9改)

大手の菓子会社、製麺企業のそれなりの役職の人物が毎日のように経産省を訪れ、小麦取引中止の要請をしてゆく。9月の北米産小麦を発注したあとだけに、在庫の余剰と合わせてどう扱うのか、処分するのかが何れ問題となるだろう。

「総理、大統領に直訴して発注のキャンセルをしていただけないでしょうか」経産大臣が言う。

「できるわけ無いだろう。大統領選前のナーバスな時期に余計なトラブルに巻き込まれてしまう」

「しかし、無駄になってしまうのもどうかと(マスク以上の騒ぎになる・・)。では、アメリカ大使に打診してみてはどうでしょう?何かしら助言もいただけるかもしれません」

「そのアメリカ大使ですが、横田基地からタイに向けて出発したと報告を受けています。CIAの幹部達らしい人物も一緒だと報告が来ています」 
経産省から出向中の新井内閣秘書官が言う。
この報告を受け取った時は新井も驚いた。この内閣はアメリカに嫌われているのではないか、と新井は思った。 

「タイで誰に会うんだね?」
首相も懸念を抱いたか?と新井は思った。血の気が引いたように青い顔をしているからだ。

「おそらく東京都議員のモリ氏だと思われます。間もなく外務省が用意した専用機で羽田を飛び立ちます」

「なぜ、そんな地方の議員に専用機を貸し出すんだ!」

「モリ氏の発案が元となったODA案件の視察が目的です。タイを始め東南アジアの国々は今年二度目の田植えの時期なのですが、コロナのために田植え人足が十分に集まらないのです・・」

「外務省発案のODA案件、自動で田植え、稲刈りっていう、あれ?」

「そうです。コロナで全く動けなくなった外務省には渡りの船となりました。
無人で田植えができるのですから、システムを供与される側は歓迎します。コロナを気にせずに食料生産を継続し、タイのように主要輸出品であるコメを安定供給できるのですから」
新井が言うと元上司で経産省OBの芝山内閣顧問が引き取った。

「このモリという男は実に狡猾ですな。富山県議会と都議会では我が党を手足の様に使って成功し、対外的には獣害対策や農作業の自動化で各国を支援する・・抜け目がないというか、あざといというか」

「我が党にしてみれば味方と言ってもいいのではないでしょうか、富山と都内では党の支持率が上がっています」
なだらかに支持率を落としてきた現政権では異例だと官房長官が告げる。

「しかし小麦では政府政策の敵対者だ。石油業界でもプルシアンブルーから調達を求める企業が出てくるかもしらんぞ。大手は別としても中小の石油会社なら、ワザワザ中東まで買いに行かずに済むからな。モリという男、こいつは本物だ。アメリカが気に入るのも当然かもしれん」
芝山内閣顧問が笑う。

「石油はまずい。中東からの仕入れ配分量が崩れると中東の外交政策に支障が出かねません」

「配分を維持するなら、イランを切る判断をする必要が出てくるな・・」
自分が関係を悪化させた事実を隠蔽したいのか、首相がニヤけながら言うので新井は嫌悪感を抱いた。

「そうなったら、モリがイランに近づくかもしれん。そこまで先を読んでいるなら、コイツは早々に取り込む必要があるな・・アメリカに取られる前に」

アメリカに既に出し抜かれようとしているのだが、遅れを取っていても何とかなると思っているとすれば、愚かな連中だ。アホの「マスクで民意を得る」と錯覚するような連中なので仕方がないのだが。
新井首相補佐官だけが違った。「自分で事業を立ち上げて成功させる」それだけの才覚のある人物を囲うのは到底無理だと見ていた。
首相や顧問、そして官房長官が囲ってきた経済人や著名人は、官房機密費を投じた程度の額でも縋るような失敗者や雑魚ばかりだ。そんな連中とモリを同一視しているのだろう。
間違いなく、政府の支援などモリは期待してもいないだろう・・。

「新井くん、この男が帰国したら会って貰いたい。彼が欲する物を考える必要があるがね。例えば、在庫の小麦だ。オーストラリアよりも価格を下げて提示する。赤字分は官房機密費で補填して問題にならないようにするとか」

芝山顧問に言われて頭を下げる。

「かしこまりました・・」まずは会ってみよう。話が聞きたかったのは事実なのだから。

ーーーー

ワゴン車の荷室にに5人分のキャリーバッグとスーツバッグとシューバッグを積んで、大森の家を出発する。翔子と玲子の母娘、志乃とサチの叔母、姪っ子の2ペアと運転手のモリだ。

羽田から台北経由バンコク北部のドンムアン空港へ、30年ぶりの訪タイとなるモリは、この空港しか知らない。ドンムアン空港でタイ政府の用意したバスでアユタヤへ向かう。そんな行程となる。今日は移動で終わりとなる。

環状7号線に新しくオープンしたガソリンスタンドは賑わっていた。ベトナムで一緒だった志木さんがミニスーパーの店頭でバインミーを作っている。信号待ちに合わせて窓を開けて手を振ってみるが気が付かない。

「分かりませんよ。この距離ですし」翔子が言うが、他人じゃなくなったからこそ、変化があると思ったのだが錯覚だったようだ。

「ロジ部門の人たちだって直ぐに分かるね。応援は4人かな?スタイルが全然違うね」
サチが言うが、信号が変わったので発進する。

「新たに40人採用するそうですね」里子常務から聞いたのだろう。翔子に尋ねられる。

「ええ、来月も40名で元アテンダントさんが110名になります。コロナの恩恵と言ったら、彼女たちに怒られてしまいますが・・」

「皆さん喜んでますよ。条件がいいし、社員食堂は充実してるし」玲子が言う。

「食堂はお母さんのお陰だし、採用は里子さんに一任してるし、2人の活躍があるからね」

「今回の2人は壮絶な抽選会になったみたいですよ。先生の愛人の座を巡る争いみたいだったって、杏ちゃんが言ってました」
後席の志乃が余計な話をする。

「どんな方なんです?」翔子が聞いてくるが、「すいません、どなたがお見えになるのか分かりません」としか言えない。

国道15号と産業道路を越えると羽田へ向かう車両は急減する。凄い事だと改めて思う。新種のウィルス1つで世界に混乱と停滞をもたらしたのだから。
それでも駐車場に入ると車両が思ったより停まっているので驚いた。Gotoキャンペーンの影響だろうか。車から歩きだして、幸と玲子に「メガネ!」とハモられる。移動中は丸レンズで、被写体になる可能性の時は角レンズ、休日は丸めの薄茶のサングラスにベースボールキャップと、娘たちに決められたが未だに覚えられない。南国の日差しよけのサングラスも持ってきたので4種類もショルダーバッグに入っている。

国際線ターミナルはガラガラで、居るのは今回の関係者だろう。「昔のタイのコ()コーラロゴのTシャツを着た、ハーレム状態の男性」と里子がメールしたそうだが、直ぐにPB ロジスティクス社の河合さん、橘さんを玲子が見つけて、近寄ってゆく。玲子が大井ふ頭の事務所に出掛けたときに事前に里子から紹介されたらしい。ならば、あの時なぜ言わなかったのか・・美人だから、のようだ・・。

「ハーレム状態って表現、誤解を招きますよね?」

「でも、あの2人を除けば、全員とやることやってるのは事実です。他所様から見ると否定できないのも事実です・・」

翔子に言われて動揺する。あの2人も対象になっているのかしら?と。

「ちょっとトイレに行ってきます・・」

キャリーバッグを残したままトイレに向かう。他に利用客がいないのだ。

「やることやってる、かぁ・・」放熱しながら口ずさんでいると、水を流す音が。誰もトイレに居ないと思ったのに。

ガチャリと戸が開く音がして「あれ?、イッセイじゃん」と言いながら紗佳が近づいてくる。

「お前あんで、男性用にいんだよ!」

「あっちは混んでてな、誰もいないだろうと思ったんだ・・あーほんとだ。デッカイもん持ってんなぁ」紗佳が横から覗いている。

「おま・・なにみてんだよ!」

「楽しみにしてるよ〜ん」と、おざなりに洗った手から飛沫を飛ばしながら出ていった。
今の話を要約すると、夕夏が人の身体的特徴を紗佳と由布子に話している可能性がある。
・・楽しみだと?まあいいや、忘れよう。

客がいなくても清掃はやってるんだなと、きれいな洗面台に少しの汚れもない鏡に驚く。日本だからなのか、空港だから徹底しているのか、我が家の鏡より圧倒的にキレイだ。鏡の中の自分が別人に見えるのはなぜだろう?

「イッセイ!」
由布子が声をかけて、手を振っている。紗佳はさっき会ったから良しとしても、夕夏はいつものように黙っている、無反応。ベッドの上では違ったよな、確か・・。
エンジニア5名も到着しており、幸と話している。

「ほんじゃ、行きますかぁ・・」

「おいデカちん、役所の連中が居ないぞ」
口の悪さは何年立っても治らんな、紗佳は・・

「いいんだよ!」と言いながら志乃が持ってきたキャリーバッグを受取る。
「あの人とも寝たんですか?」並んで歩きだした志乃がボソッと言う。
「あー、ありえません。あれは、身長のことですよ・・」

「私が台北まで隣の席になります。宜しくお願いします」

「こちらこそです・・」黒のノースリーブのTシャツで志乃の胸が強調されている。歩く度に揺れる・・ワザとだろ、この演出・・

「今夜の部屋割ですが、私と幸でお邪魔します」そういう関係になった後で志乃に聞くと、実は彼女は未婚の母だった。娘は男性の家に引き取られているという。古い由緒ある家の人物といっていたが・・。

「そうですか・・あれ?今日って、祇園の最終日じゃなかったでしたっけ?」

「31日まであります。今日は神輿洗と言って、蔵に収納する前に神輿を清める儀式が行われます。八坂神社から四条大橋まで大松明で照らしながら移動して、松明の火で神輿の前後を囲みます。寂しげな行事ですけど私は好きでした。お神輿さん、また来年よろしゅうって思いながら、姉とべっ甲アメを舐めてる時間が好きでした」

不意に出る京都弁のイントネーションが堪らない。日本の男が都の女性に弱いのは、DNA的な要素が強いと思う。

「来年は宵山、絶対に行きますので!」

「楽しみにしています。でも、先生は京都をよくご存知ですから、もてなし方に悩んでます」

「宵山はほんのちょっと見ただけでした。人手の数を見て、こりゃまずいって阪急線で早めに帰りましたもの。だから、時間を忘れて、あの人の波に揉まれてみたいんです」

「そうか、そうですね。ウチにお泊りになれば時間も移動も気にせんでいいですし・・」

「そうしましょ」

「はい・・」

ーーーー

「あの2人できてるな・・」

「あのイッセイが? まさかぁ、6人もこどもいるんだよ?」 

「お子さんは5人で、一人は後ろの女の子の妹さんって聞いた」

夕夏が言うと、

「誰に?」紗佳と由布子がハモると、

「イッセイ・・・」

「おま・・、やっぱ未練にまみれてんだろ?未練タラタラなんだろ?」紗佳が攻める。

「そりゃ、亮磨の実の親だしぃ・・」

「結局、毎度おなじみちり紙交換、再びふりだしに戻る。波乱万丈、ロックな人生だよ、夕夏」

3人の前を歩いてる翔子と玲子が耳にして笑う。

「やっぱり、だね」
「そうだよね、バンド活動再開だなんて、口実なのかもしれないね」

杏が投稿した動画は欧米で話題となっている。特に年配層だ。
「古のロックの伝導者になりうるかもしれない、超絶技巧バンド現わる」
「プログレを再興してほしい」と、名無しのバンドへ期待を寄せ始めている。

「学校のママ友ファンクラブも凄いからね。PBマートを横浜に進出させて欲しい。優先的に雇ってほしいって里子と私に大量のメールが届くの」

「夫がいる人は流石にマズイよね?」

「ズレてるぞ、玲子。先生には蛍さんが居るのよ。それを未だに理解してないんじゃないの? 不順異性交遊を実践した女子高生4人は?」

「すみませんでした・・」

「ま、今となっては私達も同じ穴のムジナだけどねぇ」翔子が玲子を小突いて、笑った。

母の幸せそうな姿は、つい最近になってから見るようになった。寂しさを紛らわせるかのように働いて、育ててくれた。

母と娘は最近になって更に仲が良くなった。
玲子は、この旅行で思いっきり親孝行しようと思っていた。

(つづく)



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