秋茜

豊葦原の瑞穂の国
かつてそう呼ばれていた
秋茜の飛来と共に
豊穣を歓び、子を成し
神に祈りを捧げた者たちは
深い深い記憶の底に

豊葦原の瑞穂の国
もう存在しない桃源郷
綿津見神も天照大御神も
祈りの対象ではなくなり
遠い遠い記憶の果てに

欲と嫉妬に取り憑かれ
強奪と殺戮に明け暮れ
文明を築き上げてきた
国造りのそれが定め

悠久の時を経てなお
繰り返される愚かさを
毎年伝えに来てくれる
秋茜のそれが役目

豊葦原の瑞穂の国
かつてそう呼ばれていた
一度も存在したこのとのない
誰かの単なる桃源郷










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