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『HHhH——プラハ、1942年』

 気分転換も兼ねて、先週は意図的にアップするのを控えたのですが、今週に入ると今進行中の翻訳が佳境というか胸突き八丁というか、切羽詰まった状況に追い込まれて、どうにもnote の投稿まで手が回りません。
 念頭にあったのは、過去に訳した作品で、今も売れ読まれている本をピックアップして紹介していくというものです。でも、今週はとても無理です。
 そこで苦肉の策として、最初に取り上げる作品の書影(単行本)とタイトルの説明だけに留めておくということを考えてみました。
 この本はけっこう出回っているので、ご存知の方もいるかもしれませんが、この面妖なタイトルは、ドイツ語のHimmlers Hirn heißt Heydrich の頭文字を取った略語で、訳せば「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」という意味です。
 で、よく尋ねられるのは発音です。
「どう読むんですか?」
 で、たいていはこう答えています。
「英語でエイチ・エイチ・エイチ・エイチと言ってもいいし、原書がフランス語だからアッシュ・アッシュ・アッシュ・アッシュでもいいし、そもそもがドイツ語なのだから、ハー・ハー・ハー・ハーでもいいですよ」
 でも、それじゃ無責任かもしれませんね。
 著者のローラン・ビネとは——相手がフランス人だから当たり前ですが——「アッシュ・アッシュ・アッシュ・アッシュ」とできるだけ早口で、ちゃんと四回「アッシュ」を繰り返して呼び合っています。
 単行本は十年前(2013年)に出ました。12刷まで版を重ねました。今年の四月には文庫にもなり、すでに増刷しています(電子本もさまざまなプラットフォームで出回っています)。
 ベストセラーとまでは言えません。でも、還暦を過ぎてからの生活を支えてきてくれた本であることは間違いありません。
 わが子のようにかわいい、大切な本です。
 原書に出会い、レジュメを書き、翻訳し、本が書店に並び、さまざまなイベントに顔を出し、さまざまな人と出会わせてくれた本です。
 エピソードにはこと欠きません。
 次回はこの本との出会いのことを書きましょう。
 今日は、言ってみれば予告編のようなものです。

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