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書評 彩図社文芸部『文豪たちの悪口本』

「文豪」と呼ばれる大作家たちも、意外と直球勝負で生きていた。
彩図社文芸部から出ている『文豪たちの悪口本』をご紹介しよう。

SNSで話題になって、なんと4万部以上を売り上げているという話題の1冊だ。夏目漱石、太宰治、志賀直哉、菊池寛、谷崎潤一郎…といった文豪たちが、相手を罵倒する時に使った悪口がまとめられている。
言葉選びの最高のプロが放つ悪口。いわば究極の悪口だと言える。

トップバッターは太宰治!一番の感想は「太宰治らしいなぁ」。
芥川賞をどうしても欲しかった太宰治だったが、選考委員だった川端康成が「彼は人間的に問題が…」という理由で反対し、受賞に至らなかった。
それを知って怒った太宰治は川端康成に手紙を送る。
内容を簡単に言うと「私生活と作品は関係ない!刺すぞ、この大悪党。」
怖すぎる。

そんな太宰治も、中原中也にはタジタジだったそうだ。
「幾時代かがありまして 茶色い戦争がありました」の天才詩人、中原中也。太宰治は中原中也に大変憧れていて、初めて会った時にも太宰治は緊張してうまく喋れなかったそうだ。
初対面の時に中原中也が太宰治を見て言った言葉が…
「なんだおめぇは。青サバが空に浮かんだみてえな顔をしやがって!」詩人の発想力、怖い。
たぶん一生、だれかに言う機会の無い言葉だろう。
そして中原中也が好きな花は何かと尋ねた時に太宰治は「モ、モモノハナです」と答えると「チッ!これだからおめぇはよ!」
中原先生、どう答えれば宜しいのだろうか。

別の本で読んだのだが、酒に酔った中原中也が夜中に太宰治の家に押しかけて、家の外から「バーカ!バーカ!」と怒鳴り散らし、太宰治は怖くて布団を被って怯えていたというエピソードが、私は何となく好きだ。

太宰治は、面と向かって言い返せない分、日記に中原中也の悪口を書いている。「ナメクジみたいにテラテラしたヤツで、とてもじゃないが付き合うに耐えない」。テラテラ!

他には、夏目漱石のモラハラっぷりが酷い!
とにかく短気な人物だったようだ。
一番の被害者は奥様。奥様が何か失敗すると「おまえはオタンチンノパレオラガスだよ!」と夏目先生は怒る。
これは、間抜けを意味する「オタンチン」と、東ローマ皇帝「コンスタンチン・パレオロガス」を合わせた洒落で、「吾輩は猫である」にも登場するが、人格否定も良いところである。

あとは、直木三十五が作った「文壇諸家価値調査票」も性格が悪い!
各作家さんの学歴、才能や容姿、腕力など100点満点で評価し、好みの女性まで勝手に書いている。

日本を代表する大作家たちも、私たちと同じように人間関係に悩み、
文壇という狭い世界で苦しみながら作品を生み出していたということだろう。
同時代の作家同士のつながりなんて考えたこともなかったので、興味深かった。登場する先生方も、まさかこんな本が後世に発売されるとはと
…苦笑いしていらっしゃることだろう。
彩図社文芸部『文豪たちの悪口本』面白い本だったが…
悪口を言うのはやっぱり良くないなぁ~。

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