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【ウミサチビコとヤマサチビコ】釣り針がきっかけでケンカした兄を3年間海に潜ってからギャフンと言わせた弟の話【日本神話】

どーも、たかしーのです。

今回は、日本の神話に登場する『ウミサチビコ』と『ヤマサチビコ』について、書いていきたいと思います!

前回の『コノハナノサクヤビメ』の続きとなる話で、ニニギとサクヤビメの長男ホデリ火照命)が『ウミサチビコ』(海幸彦)、三男ホオリ火遠理命)が『ヤマサチビコ』(山幸彦)となって、登場します。


ウミサチビコとヤマサチビコ

※今回も「古事記」をベースに書いていきます。

ヤマサチビコ「兄さん、道具を交換しようぜ!」

ニニギとサクヤビメの長男であるウミサチビコは、すくすくと成長し、漁師となって、大小さまざまな魚を獲って、平穏に暮らしていました。

一方、三男であるヤマサチビコも、すくすくと成長し、猟師となって、大小さまざまな獣を獲って、平穏に暮らしていました。

ヤマサチビコ こと ホオリ(wikipedia)

ある日、ヤマサチビコは、山を下って、兄であるウミサチビコのもとへと向かって、こう提案しました。

ヤマサチビコ「なぁ兄さん、ウチらの道具を取り換えてみまへんか?」

この提案に困ったウミサチビコは、三度も断りをいれますが、それでもヤマサチビコは引き下がらないので、仕方なくお互いの道具を交換することにしました。

ヤマサチビコ「兄さん、道具を失くしたぜ!」

ウミサチビコから道具を借りたヤマサチビコは、早速海に出て、借りた釣り竿を使って、魚釣りを始めました。

しかしながら、一向に魚はかかりません。
諦めかけたその時、ようやく魚がかかり、竿を引き上げますが、魚は逃げてしまい、釣り針までなくなってしまいました。(あーあ)

一方、ウミサチビコも、ヤマサチビコの借りた道具で、山に狩りへと出かけていきましたが、一頭の獣を獲ることもできず、山から下りてきました。

なので、ウミサチビコは、

ウミサチビコ「山のもんは、お前が道具を使わんと上手く獲れんし、海のもんは、ワイが道具を使わんと上手く獲れんってことやな。せやから、道具を返してもらうで!」

と、ヤマサチビコに言いました。

これに、ヤマサチビコは、

ヤマサチビコ「すまへん、兄さんの釣り針を海で失くしてもうた…この通りや…」

と打ち明け、平謝りして、許しを請おうとしました。

ですが、ウミサチビコは…

ウミサチビコ「なんやて!失くしたやと!ちゃんと返せ!返さないと、承知せーへんで!!!」

と、激昂し、ヤマサチビコを責め立てたのです。

そこで、ヤマサチビコは、釣り針を弁償するために、自分の腰にさしていた十拳剣から500本の釣り針をトンテンカンテンして作り、献上しようとしますが、

ウミサチビコ「そんなもんいらん!ワイの釣り針を返さんかい!

と、突き返されてしまったのです。

ヤマサチビコ「(これは困ったぜ…)」

兄に突き返されたヤマサチビコは困り果て、海辺で泣き悲しんでいると、そこにシオツチ(塩椎神)という神様が訪ねてきました。
シオツチノカミは、潮の流れを司る神とされ、また人に製塩の方法を授けたという話もあることから、製塩業の神ともされています。

ヤマサチビコが、これまでの事情を話すと、シオツチは…

シオツチ「それは大変やったなぁ。よし、どうしたかええか、ワシが教えてやろう。ワシが作る小舟に乗り、ここから押してやるから、お前は潮の流れに身を任せるがよい。そうすれば、ワタツミ(綿津見神)の宮殿にたどり着くぞい。たどり着いたら、そこにある井戸の近くの木の上で待っておくんやで。すると、ワタツミの娘がやってきて、相談に乗ってくれるやろ。」

と言って、ヤマサチビコを導きました。
こうした道案内の話から、シオツチは、海上安全の神としても、信仰されるようになります。

また、ワタツミは、海の神とされ、諸説ありますが、イザナギが禊をした際の水から産まれた神様とされています。

イザナギが禊をした話はこちらから。

ヤマサチビコ、トンデモナイ行動に出る

ヤマサチビコは小船に乗り、潮に乗って流されていると、シオツチの言う通り、ワタツミの宮殿にたどり着くことができました。

そして、小船を下り、木の上で待っていると、女性が宮殿から水を汲みに外へ出てきたではありませんか。実は、その娘はワタツミの娘であるトヨタマビメ豊玉毘売の侍女だったのです。(この子が娘ではないのか…)

侍女は井戸へと水を汲みに行くと、木の上で待っているヤマサチビコに気づきます。侍女が何者なのかと声をかけると…

ヤマサチビコ「そんなことより、水をもらえないか…?

と、ヤマサチビコは答えました。(長旅で喉が渇いていたのか…)

なので、侍女は井戸から水を汲み、器に入れてから、ヤマサチビコに差し出しました。

ところが、ヤマサチビコは、その水を飲まずに、自分が身に着けていた首飾りの玉( 勾玉まがたま)を外して、ゆっくり口に含むと、その玉を器の中に吐き出したではありませんか。(汚いぞ!ヤマサチビコ)

玉(勾玉)のイメージ

すると、その玉は、なんとピタリと器にくっつき、取れなくなってしまったのです。(これは怒られるぞ…)

この事態に、仕方なく侍女は宮殿に戻って、ヤマサチビコが吐いた玉がくっついた器をトヨタマビメに見せることにしました。(いよいよ、怒られるぞ…)

トヨタマビメ「ヤダ、イケメンだわ♡♡♡」

トヨタマヒメ(wikipedia)

侍女が持ち帰った器を不思議に思ったトヨタマビメは、このように玉を貼り付ける力を持った者が一体誰なのか、実際に見に行くことにしました。(ああもうダメだ、ついに怒られる…!)

そして、木の上で待つヤマサチビコのもとへと向かうと、視線が合うやいなや、トヨタマビメは一目惚れをしてしまったのです。(えええええええ!!!!!??????????)

トヨタマビメは、すぐさま宮殿へと戻り、父であるワタツミにウチの前に結婚したいイケメンがいることを伝えます。(展開が早すぎる…)

すると、ワタツミも、一体誰なのか、不思議がって見に行ってみると…

ワタツミ「おい!!!このお方はニニギ様の御子 虚空津日高そらつひこ様やぞ!!!」
虚空津日高そらつひこ・・・ヤマサチビコ(ホオリ)の尊称。

と言って喜び、ヤマサチビコを宮殿へと招き入れることにしました。(出自が良すぎて助かったネ)

ヤマサチビコは、ワタツミとトヨタマビメにもてなされ、そのまま2人の結婚式が執り行われました。(超展開すぎる…)

こうして、ヤマサチビコは、この海の国でトヨタマビメとともに幸せに暮らしましたとさ。めでたし。めでたし…

ヤマサチビコ「あ”!!!忘れてた!!!!!」

…というような生活が3年も続いたある夜。

ヤマサチビコ「しまった!!!釣り針のこと、忘れていた!!!!!!!」

ヤマサチビコは、あまりに結婚生活が幸せすぎたせいで、海の国にやってきた理由をすっかりと忘れてしまっていたのでした。(もう兄さんに怒られるのを通り越して、存在が忘れられているのでは…?)

ですが、ようやく思い出し、ヤマサチビコは深くため息をつくようになっていました。

この様子を心配した妻のトヨタマビメは、すぐさま父であるワタツミに相談。ワタツミが、ヤマサチビコになぜ海の国にやって来たのかを尋ねると、ヤマサチビコは「兄の釣り針をこの海で失くしたが、元の釣り針を返せと責め立てられた」ので、ここにやってきたことを明かします。

これを聞いた海の神ワタツミは、ただちにこの海じゅうに住んでいる魚たちを呼び集めて

ワタツミ「皆の者、よく聞けー!誰かこのヤマサチビコの釣り針を取った者はおらんかー??」

と大声で伝えると、ある魚から「トゲが刺さって何も食べられない」と嘆いていた赤鯛がいるという話を聞きつけ、その赤鯛のもとへ。

そして、その赤鯛の喉を探ってみると、釣り針が引っかかっているではありませんか。(3年も引っかかっていたのか…)

これを見たワタツミは、赤鯛から釣り針を丁寧に抜き取り、キレイに洗って、ヤマサチビコに渡すことにしました。

ウミサチビコを貧乏しようぜ大作戦

ワタツミは、ヤマサチビコに釣り針を渡す際、兄であるウミサチビコに返すときには、次のような呪文を唱えてから返すように、と伝えます。

『この釣り針は、おぼ(憂鬱になる針)、すす(心が落ち着かなくなる針)、 貧針まぢち(貧しくなる針)、うる(愚かになる針)』

また、この呪文を言いながら、後ろ向きになって、釣り針を返しなさいとも付け加えました。

さらに、ワタツミは、ウミサチビコが高い所に田んぼを作られたのなら、ヤマサチビコは低い所に田んぼを作るように。ウミサチビコが低い所に田んぼを作られたのなら、ヤマサチビコは高い所に田んぼを作るように、と助言を送りました。

これは、ワタツミが水を操って、ウミサチビコの田んぼに水を送らないようにするためであり、こうすることで、ウミサチビコが貧しくさせる作戦であったのです。(海の神、怖ええええ…)

また、ワタツミはその先も読んで、ウミサチビコがヤマサチビコを恨んで攻め込んできた場合の備えを、ヤマサチビコに授けます。

ワタツミは、 鹽盈珠しおみつたま 鹽乾珠しおふるたまという2つのアイテムを授けます。この2つのアイテムは、潮を操る力を持つ玉であり、兄が攻めて来たら鹽盈珠で溺れさせ、苦しんで許しを請うてきたら鹽乾珠で命を助けるように、と使い方を伝授します。

このようにして「ウミサチビコを懲らしめてきなさい」と伝えると、ワタツミは 和邇わにワニザメもしくは短い龍とも)を呼び、この和邇にヤマサチビコを乗せて、地上界である葦原中国へと送り出すのでした。

なお、この和邇は神格化され、今ではサイモチ(佐比持神)として、その名が知られるようになったそうです。

逆襲のヤマサチビコ

さて、その後のウミサチビコは、どうなったのか?

ウミサチビコは、ワタツミに教わった通りに、釣り針をウミサチビコに返しました。すると、ウミサチビコは、呪文が効き、魚が全く釣れなくなってしまいました。また、田んぼも不作続きで、狙い通り、ウミサチビコの生活はどんどんと貧しくなっていったのです。

そして、これも狙い通り、ウミサチビコはヤマサチビコを恨んで、ついに攻め込んできたので、ワタツミに教わった通り、ヤマサチビコは、鹽盈珠を使って、ウミサチビコを溺れさせ、苦しんで許しを請うてきたので、鹽乾珠で救いだしてあげました。

ウミサチビコにぎゃふんと言わされたウミサチビコは、

ウミサチビコ「ワイが悪かった。これからは、昼でも夜でも、アナタ様をお守りしますんで、どうか勘弁してください…」

と願い出るようになりました。

こうして、長きに渡った兄弟ゲンカに終止符が打たれ、ウミサチビコ、つまり三男のホオリがニニギの後継者となったのでした。

三男のホオリを後継者とした天孫ニニギ(中央)(wikipedia)

ニニギにまつわる話はこちらから。

おわりに

今回は、日本の神話に登場する『ウミサチビコ』と『ヤマサチビコ』について、書いていきました。

今後のネタバレになってしまいますが、ヤマサチビコことホオリは、初代天皇である神武天皇の祖父となります。

↓ そして神武天皇の祖母となったトヨタマビメの話はこちらから。

また、この「ウミサチビコとヤマサチビコ」と似た神話が、インドネシアのケイ諸島でも伝えられており、雲の上に住む兄弟の神話で、弟に酒をこぼされた兄が「どうしても元の酒を持ってこい!」と責め立てるので、弟が雲を掘ったところ、雲の下に世界があることに気づくという内容となっています。

おそらく、これらの話が元ネタであろうと言われてはいますが、実際のところは、よくわかっていません。
ただ、日本の場合、雲の上には、すでに神話上、最高神であるアマテラスが治めてしまっているので、天上界を地上界に、地上界を海に、酒を釣り針に変えて、日本の神話として取り込んだと考えるのが、自然のように感じました。

他にも、歴史上の人物神話などをベースに、記事を書いていく予定ですので、是非フォローなどしてもらえるとありがたいです!

それでは!

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