絵本論

住むこと 生きること 働くこと|絵本よみきかせノート はじめに&目次

noteのマガジン「絵本よみきかせノート」や「子育て観察ノート」に書き散らしていた文章たちを再編成して目次化してみました(うち5編は下書き段階)。ふたりの娘とのやりとりや、絵本を読み聞かせたりする時間がキカッケになって、住宅や生活や労働について考えた雑文たち。そんな架空書籍の目次とその前書きになります。

改訂:2019年7月15日

はじめに ――こわいゆめをみませんように

いつも眠る前に娘6歳はおまじないをします。「どうかこわいゆめをみませんように。おねがいします」と。「パパもおねがいしたほうがいいよ」とすすめてくれます。

あるとき、そんな娘がひょんなことからママもパパも自分より先に寿命がくることを理解してしまいました。

しばらくのあいだ号泣した娘。気を紛らわせようと絵本3冊、ギャグ混じりに読み聞かせを敢行しました。ようやく気持ちも落ち着いて、ひとしきり笑ったので「さぁ、それじゃあ、ねんねしようか」と促すと、やっぱり忘れたわけではなくって「ママやパパが先に死ぬってイヤだ」と一言。そのあと、なんとか眠りに就いたものの、一体その日はどんな夢をみたんだろうなぁ。

「死ぬ」という概念を学習した娘。これまでにも曾祖父や大叔父のお葬式に列席したことあるし、保育園で仕入れてきた「死ぬ」とか「殺す」的な暴言を使っても、実際のところの「死ぬ」とはなかなかつながってはいなかったのでしょう。

ましてや、常日頃、当たり前のように一緒にいるママやパパもまた、寿命かどうかにかかわらず、唐突に「死ぬ」なんてことと決して無縁でないなんてことは、腹落ちできない残酷な事実だろうなぁ。

大人がなんとなく当たり前と了解していることが、実はそんなに単純なものでなく、そもそも確かなものでもないんじゃあ中廊下と、娘はいろんな場面で気づかせてくれます。それは、「死ぬ」とは何かといった哲学じみたお話はもちろんのこと、例えば「鼻をかむ」なんて些細なことでも契機になったりする。

カゼぎみなのに鼻のかみ方が分からない娘(当時3歳)に「鼻をフーンってしてみて」って教えるものの、娘は「フーン」って口で言うだけで、コント状態に。

父「鼻をフーンってしてみて」
娘「フーン」
父「いやいや、鼻をフーン!って」
娘「フーン!」
父「だから口で言うんじゃなくって鼻でフーン!」
娘「フーンッ!」

習得することも難しさと同時に、教えることの難しさも痛感する場面。そんなふうに、子育ての日常には、いろんな「発見」に満ちています。子どもの振るまいや言動から、自分自身の小さなころや、親とのやり取りが俄に思い出されたりもします。人は子育ての過程で、もう一度自分の人生を辿り直しているのかもしれません。

そんな数々の「発見」は、子どもの振るまいからだけでなく、絵本を読み聞かせるなんて場面でも到来します。むかし自分も読んだはずの絵本も、「あ~、こういうメッセージだったんだ~」とか、あるいは知らなかった絵本も「あれ、これって、大切なことだよなぁ」と気づかされたり。

そもそも絵本には、生きることはもちろんのこと、住むことや働くこと、そして育むことに関するエッセンスが凝縮されて表現されている。そんな風に思えることがしばしばです。

たとえば、「まちづくり」の価値をひとびとに伝える手段として「絵本」を位置づけた人物に延藤安弘がいますが、その延藤は、著書『こんなまちに住みたいナ』(晶文社、2015)でこんな風に語っています。

人は本来、生きることや住まうことやまちを育むことに向けての気持ちや行動を自由にもつ存在です。しかし、世の中ままならぬことが充満し、日常という強い惰性のもとにそれが封殺されています。そんな人間の心の「扉」を開かせるのが「絵本の力」だと、私は感じてきました。
(延藤安弘『こんなまちに住みたいナ』)

なるほど、絵本には、「生きることや住まうことやまちを育む」といった気持ちや行動を再確認させ、励ますような役割もあるんだな。実際、絵本を読み聞かせする過程で、普段、住まいについて考えていることとリンクしたり、働くことの意味を再確認する場面に出くわしたりすることしばしばです。

そんなこんなで、本書『住むこと 生きること 働くこと』はサブタイトルに「絵本よみきかせノート」とありますように、日々の娘たちとのやりとりや、絵本を読み聞かせする場面がなんらかのキッカケになった文章をまとめたものです。どうかよい夢をみられますように、という願いとともに。

なんとなく当たり前なものとなっていたり、気づかなくなっていたりする「住むこと 生きること 働くこと」について、改めて考えるキカッケになりましたら幸いです。

目次

はじめに―― こわいゆめをみませんように

part 1 生きること

chapter 1 ねんねすることの沃野
1 ねんねすること
2 家財道具との連帯

chapter 2 アンパンマンの献身とたいやきくんの反抗
1 アンパンマンという正義
2 たいやきの反抗 どらやきの覚醒

chapter 3 異なるものをつなぐ作法
1 異なるスケールをつなぐ ―『シロクマくつや』3部作
2 異なるステージをつなぐ―エレベーターの絵本を読む(準備中)
3 〈似ている〉が生み出す発想の転換―石崎なおこの絵本を読む

part 2 住むこと

chapter 4 加古里子と住まいの復興
1 家 ― 大きな暮らしの道具
2 西山夘三の嘆き/加古里子の願い

chapter 5 未来へ向けて住む/建てる
1 元・建築設計士が描いた『バーバパパ』の世界
2 建築史家・関野克が託す未来への「回路」
3 未来を育む格納庫―清家清「うさぎ幼稚園」

chapter 6 住むことの未来
1 団地に生きる ―『私は二歳』を読む(準備中)
2 酢豚の看取り―藤木良明『民家:最後の声を聞く』を読む

part 3 働くこと

chapter 7 働くのりもの
1 鉄道と労働
2 重機イメージの戦後史

chapter 8 働くことの絵本
1 パートナーシップ型「ぐるんぱ」とジョブ型「カバくん」
2 エンカレッジされるセミくんと、ケチャップマンの現実
3 うどんの「開かれ」とノラネコの「ほぐし」

chapter 9 田舎と都会
1 夏休み、実家に帰るメカニズム
2 『ちいさいおうち』と『小さな家』
3 おおきなおうちがそこにあること―本多忠次邸(準備中)

part 4 育むこと

chapter 10 育みの時間
1 呪文の効用
2 家の条件―村上慧『家をせおって歩く』を読む
3 エンガワかグンカンか―居住の在り方(準備中)

chapter 11 造ることの楽しみ
1 ノッポさん・ワクワクさん・クラフトおじさん
2 工作がひらく笑顔の社会―佐藤蕗の手作りおもちゃレシピ
3 ワクワク・物語・現象観察―studio velocityについて

chapter 12 食寝分離論というプロジェクト
1 ばばばあちゃんの就寝行為
2 コタツにミカンは封建遺制か
3 ばばばあちゃんの転用論(準備中)

おわりに ―― ごちそうさまでした、とんとん

コラム
保育園いきたくない/水道メーター探しに夢中/たどたどしさの復権/刺身とクレーム/S先生のこと/わかるようにわかる/大井川鐵道/建築をスキになった話/山本学治『木のめぐみ』を読む/経験の分岐点/プログラミング・ブーム/18年たって伝わることもある

付録
1 建築好きのための「たくさんのふしぎ」と「かがくのとも」
2 父娘問答―ディズニー&ジブリ編
3 父娘問答―イベント編

(おわり)

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