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メモ 戦争が発生するメカニズムを学生にどのような方法で教えるのか?

政治学の基礎知識を持たない人々に、戦争が発生するメカニズムを分かりやすく説明しなければならない場合、大学教員はどのような教え方を採用すべきなのでしょうか。いくつかの選択肢が考えられますが、アクティブ・ラーニングの手法、特にゲーミングの方法を応用することが有効であるという見方があります。

伝統的な国際政治学の文献では、戦争の根本的な原因として無政府状態が重要だと論じられています。国際社会では国内社会のような公権力が存在せず、集団の中で武力による威嚇や武力の行使など反社会的な行動を防ぐことが難しくなります。アメリカの研究者Victor Asalは、無政府状態の下で協調を維持し、対立を回避する難しさを直感的に学習させるために、学習者をホッブズ・ゲームと呼ぶ演習に参加させることを提案しています。その提案の内容は以下のウェブサイトで公開されています。

ホッブズ・ゲームの目的は、無政府状態の中に置かれた人間の集団の中で競争的な行動をとる個人が出現した際に、協調的な行動を維持することが難しくなることを理解させることにあります。ただし、演習に参加する段階でホッブズ・ゲームの目的を明らかにしてはいけません。

学習者には1枚ずつトランプのカードを配り、教室の中で自由に動き回ることができるように立たせます。その後で教員は次のようにルールを伝えます。説明の文言は以下の通りでなければなりません。

「このゲームの目的は、生き残ることです。皆さんはこれからジャンケンをすることができます。(必要であればジャンケンのルールを説明します)ジャンケンの勝者は敗者が持っているカードをすべて手に入れ、敗者は席に座り、それ以上はゲームに参加できません。もし引き分けであれば、ジャンケンをやり直さなければなりません。自分から誰かに挑戦する必要はありませんが、挑戦されたならば、ジャンケンをすることを受け入れなければなりません」

説明が終われば、参加者はゲームを始めます。ある程度、状況が安定すれば、フィードバックを行います。このフィードバックで重要なことは、「生き残る」ということがゲームの目的であると述べたにもかかわらず、なぜ大多数の参加者がジャンケンをすることを選んだのかを問いかけ、考えさせることです。

学習者は自分の戦略を正当化するために、利益、恐怖、名誉など、さまざまな理由を自由な形式で述べますが、多くの場合で自分の安全が保証されていない状況に置かれると、集団に対する社会的認知、あるいは最適と思われる社会的行動が変わったことに気が付くはずです。もし運良くゲームに参加しようとしなかった学習者がいた場合、その理由を説明させることができれば、国際社会の無政府状態に対する反応が必ずしも画一的なものではないことを説明する手がかりとなるでしょう。

このゲームは2度繰り返して実施すると、大きく異なる均衡状態になることがあります。一部の学習者はじゃんけんを避けるという戦略の価値を理解するためです。しかし、それでも一部の学習者は積極的に勝者となろうとする場合もあります。これも無政府状態の問題を考える上で手掛かりとなる経験を学習者に与えます。

このゲームのバリエーションとしてトランプカードの数値を使ったルールを追加することができます。このルールでは、ジャンケンをする際に、自分が持っているトランプカードの値が相手の持っている1枚のトランプカードの値よりも大きいことを示せば、ジャンケンで負けたとしても、1度だけ再戦が可能です。これによって軍事的能力にばらつきがあることをホッブズ・ゲームに取り入れることが可能となります。

このルールを採用すると、多くのカードを奪った学習者は、次第に強いカードを持つ可能性が高くなるため、ますます多くのカードを手に入れて強くなるという現象が起こります。少ししかカードを持っていない人は、ジャンケンをすることもしないで降参することさえあります。私はこのルールの方が早くゲームが安定的な結果に到達するので、限りある時間を有効に活用することができると思います。

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