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論文紹介 まだ中国は米国と互角に争える超大国ではないとの研究報告

近年では中国をアメリカのライバルとする議論も増えていますが、研究者の中では中国がアメリカと同程度の能力を持つ超大国のように扱うべきではないという声も根強くあります。確かにアメリカの優位性は以前に比べて低下したかもしれませんが、その評価を誤ると中国の脅威を過度に大きなものと認識する恐れがあるためです。

Brooks, S. G., & Wohlforth, W. C. (2015). The rise and fall of the great powers in the twenty-first century: China's rise and the fate of America's global position. International Security, 40(3), 7-53. https://doi.org/10.1162/ISEC_a_00225

中国の台頭で国際社会が二極化しつつあるという議論がありますが、これはアメリカを頂点とする国際関係のあり方を一極性(unipolarity)と捉えて分析していた1990年代の議論の影響を受けたものです。この一極性とは国際社会で大国にふさわしい能力を保有する国家が1か国だけであることを意味しています。

この概念の背後にあるのは、国際社会における大国の数、つまり極性(polarity)によって国際政治の安定性が変化すると説明した政治学者ケネス・ウォルツの構造的リアリズムの理論です。ウォルツの理論によれば、多極より二極の国際社会の方が構造的により安定的とされていますが、国際社会の極性を変える能力を持つ国をどのようなルールで数えるべきなのか明確にされていないという限界がありました。

著者らは国際社会における大国の数、極性を判定するための方法論的な課題を検討しています。解決すべき課題の一つは、国際社会に影響を及ぼす国家の能力は時代によって変化する性質があることで、例えば20世紀はじめの世界における軍事力の規模の重要性は現在よりもはるかに大きなものでした。しかし、21世紀の国際社会でアメリカが超大国の地位を維持できている理由は、軍事力の規模だけでは説明することはできません。

科学技術によって軍隊が運用する装備も変化しており、またグローバル化の下で経済力の重要性も増しています。21世紀の国際政治における極性を測定するために、バランスのとれた国力の指標を組み合わせて使わなければなりません。著者らは軍事力、技術力、経済力という3種類の能力を組み合わせることで、大国としての能力を比較することを提案しています。

ここでは個別の能力判定の方法に立ち入って解説しませんが、いずれの基準においても中国はアメリカに対して劣勢であることが分析されています。

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