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【テスカトリポカ】極上のノワール小説

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜「面白い」以外の言葉が思いつかない〜

本当に良いものに出会うと「良い」という言葉以外に思いつかなくなるのと同じように、本当に面白いものに出会うと「面白い」以外の言葉が思いつかない。

そして、この小説は「面白い」。

裏社会、アステカ文明、麻薬カルテル、臓器ビジネス、、、。
もともとクライムサスペンスやノワールが好きな僕にとっては、あらすじを見ただけでワクワクした作品だった。
そして、いざ読み始めると、その手が止まらなくなる。
正直、かなり残酷なシーンがあり、登場人物も倫理観や道徳観が著しく欠けた人間ばかりなので、人によっては、読むに耐えない小説だ。
万人が楽しめる小説では無いが、暴力表現に耐性のある人や犯罪モノが好きな人なら間違いなく楽しめる一作である。


〜血の資本主義〜

さて、「面白い」だけでは書評にはならないので、もう少し感想を書いていく。

本作で度々出てくる言葉が「血の資本主義」という言葉。
最近、「民衆暴力」や「暴力の人類史」などで人の暴力に関する本を読み、「人新世の『資本論』」や「実力も運のうち」で資本主義の限界や問題点に関する本を読んだ。
本作はこの二つに関する総則のようなものだった。

作中における、以下のようなセリフがある。

「金を稼げるのなら手段を選ばない」という結論、その単純な信念には平然と到達するのさ。鼻垂れの大学生でもだ。その信念こそが「邪魔者はみな殺しにする」と同じ意味なのだとは気づきもしない。だが同じことなんだよ。それが資本主義というものだ。

資本主義社会では、何よりも合理的であることが正しいとされる。そして、合理的な選択の行きつく先は「得をすること」、つまりは「金儲け」である。
資本主義では合理的であれば、その行いは正当化される。善悪は関係ないし、世の中の賛否も関係ない。理屈が通っていればそれでいいのだ。

そして、そんな資本主義の行きつく先が本作で語られるような麻薬や臓器売買の裏ビジネスなのだ、と著者はとあるインタビューで語っていた。物語の中で行われる暴力には全て理屈がある。神々への捧げ物であり、ビジネスを成功させるための手段であり、すべての行いに理屈があり合理的なのである。感情や道徳は関係ない。全ては合理的かどうかなのである。
感情のない合理主義的な人間たちの理屈がこの物語の恐ろしさを際立てているのだと思う。

分厚い本であるが、合う人にとっては一気読み出来てしまうほど読みやすく面白い。
こんな世界はごめんだが、裏社会をこっそり覗いているような感覚にもなれる。
このようなテーマが好きな人にはぜひオススメしたい一冊だ。

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