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ヨーグルトがピンク色にそまるときの味

白いまちと白いヨーグルト

春の気配がないままに3月のビリニュス(リトアニア)には真白な世界が広がっていた。そんななか、朝食に眼前の景色のような真白なヨーグルトをたっぷりいただく。

リトアニアは酪農国。そして古くから日本同様に発酵文化をもつ国。

ヨーグルトといえばギリシアと思われるが、ご多聞にもれず東欧もヨーグルト国家なのだ。そのひとつにヤギ皮の袋に乳と菌を入れて発酵させていたケフィアヨーグルトが挙げられる。キリッとした酸味が特徴で、もちろんジャムなど入れてもおいしいが、黒パンにニシンの酢漬けをのせ、ケフィアヨーグルトをひとさじ、黒オリーブのオイル漬けをちょんとのせて食べるのが好き。塩味でいただく可能性を広げる酸っぱさなのだ。

静かな路地にあるレストラン

正午をすぎたころだというのに気温はマイナスのまま、そして小さな通りStikliuは静まりかえっている。

15世紀末リトアニアの大公爵が職人をあつめた工房や酒場が並び、16世紀には、この先のさらに狭い路地Zyduにはユダヤ人が住みはじめたのだという。そんなエリアには、古く哀しい歴史がラビリンス感をあおりながらも、今やシックで洒落た店が並ぶ。

建物の小さな窓をのぞく。

窓のむこう側にスプーンを動かしている人がいる。ひとさじすくって口に運んではパンをかじり、それをくり返している。あたたかいスープがさぞおいしいのだろう、硬い雪の粒が窓ガラスにあたって跳ねかえる外の寒さなんかまったく気にしていない。

今夜はここにおいしいスープをのみにこよう、そう決めて店の入り口を探し席を予約した。

白いまちがピンク色にそまる時

白い息は手に取れるほどで、鼻先と口元が少し凍る。店の中に入ると、偶然にもあの窓の席に通される。厚いコートを脱ぎ、手袋とマフラーをポケットにしまい席に座るころにはすっかり頬がほてっているくらい室内はあたたかい。伝統的なレストランだけれど、セルフな雰囲気と静かすぎるくらいの空気が妙に落ち着いた。

メニューについて親切に説明してくれる店の女性。流暢に英語を話すのだけれど、どこかにリトアニア語の発音が「ぴりゅりゅ〜」と混ざる感じで愛らしい。リトアニアに着いてから食べたスープを述べて「それ以外のスープが食べたい」とたずねると「夏のスープなんですが室内はあたたかいですからシャルティバルシチャイはいかがですか」と、ぴりゅりゅ〜な発音で難しいスープ名を告げた。

夏のメニューだとばかり思っていて今回はあきらめていたスープ。即答でその難しい名のスープに決めた。そう、それはピンク色のスープ。

外はまだ白い雪が降っているのだろうか。オレンジ色の街灯が、かつてのユダヤ人の哀しみを少しだけ映す。しかしそれは、とてつもなく明るいピンク色のスープがやってきたとき、消えていった。

塩味でいただくヨーグルト

リトアニアのビーツ(赤カブ)のスープをシャルティバルシチャイという。「冷たい=シャルティ」「スープ=バルシェ」。赤かぶとケフィアヨーグルトが混ざって発色する色は、わたしの作品に使う色にもどこか似ていて、不思議と親近感がある。

冒頭で書いた「塩味でいただくヨーグルト」そのものであり、刻んだきゅうりやディルが入っていて爽やかさを倍増させる。冷製ということだけでなく、たっぷり野菜感とハーブ感がスペインのガスパチョにも少し似ている。

「最初はスープだけを味わってくださいね、そのあとジャガイモをつぶして入れて食べてみてください」とアドバイスされた通りにいただく。白いジャガイモまでピンク色にそまる。

少しだけあなたに近づいた

読んで知り得ることが難しかったリトアニアの歴史や伝統、そしてまだ知っておくべきことが残る東欧諸国。ミニ土鍋に入れたらおいしいだろうなあとひとりごとを言ったら、小さな声で「少しだけあなたに近づけた」スープがそう言ったような気がした。

夏がはじまる前に、もう一度あのピンク色のケフィアヨーグルトをピンク色にそめてみよう。

ミニ土鍋
冷製スープなどを入れて冷蔵庫で冷やすと、土の保冷効果が発揮されます。蓋を閉めて冷やせば上下から冷やせてより効果的です。

ケフィアヨーグルト
我が家はふたつのヨーグルトをホームメイドしています。ひとつスーパーで入手したケフィア菌と牛乳で「ケフィアヨーグルト」、もうひとつは乳酸菌と豆乳でつくる「豆乳ヨーグルト」の。どちらもフルーツやフレークと食べるだけでなく、マヨネーズやドレッシングのように調味料がわりに。または紹介したスープなど料理にも使っています。

リトアニア酪農事情 参照記事
ナショナルジオグラフィック




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tamamiazuma

書く陶芸家。7年のイタリア修行を経て帰国後アトリエCocciorino設立。2013年ライターわらじ職ぬいで陶芸一本、土鍋を持ちあるきイタリア周遊「旅する土鍋」プロジェクト同時期よりスタート。WEB: tamamiazuma.com

旅 中東欧

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コメント1件

はじめまして。30年ほど前に旧東ドイツの学生食堂で、こんなピンク色のスープが出てました。ビックリしたのですが、日本人は誰も質問できずでした。
今やっとビーツだとわかり、長年の謎が解けました❗。
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