旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(後編)

(前編よりつづき)

4.  ドレスと口紅

時速100〜 120キロくらいで飛ばせばリグーリアからミラノまで2時間ほどで到着する。そんな道中もおかしな話は継続的にまじめに語られた。

ミラノに着いて解散した数時間後、驚くことにイゥインちゃんは大きく背中のあいたドレスを身につけ、真っ赤な口紅をつけて再登場したのだから、どこまで信じていいのか。師匠もシャワー浴びて、お気に入りのズボンに履きかえた。「

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旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(前編)

イタリア語「スケルツォ」は「冗談」という意味かつ、音楽の世界では快活で急速な三拍子の楽曲を示す。おどけた感じが「冗談」という言葉と重なる。ショパンの「スケルツォ第2番 変ロ短調」などがそのひとつ。

1. 肉眼と無限遠なレンズ

私たちはリグーリアの海にいた。
前の晩に書いた七夕の短冊を見ながら「願いは叶うのだろうか」なんて、無限遠に合わせたレンズでもって話していた。娘のように年齢が離れている中国

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旅する土鍋 2019 ミラノ「いつまでもどこまでも弟子でいい」

梅雨の曇天を家族に置き去りにするのは少しだけ心のこりだった。

タネをまきにゆく

長い旅も短い旅も、出かける朝に特別な雰囲気はない。妻であり母であるということは、サッカーのキャプテンがつける腕章のようなもので。いやいや、みんなそれぞれがアイデンティティの腕章をつけており、スポーツと違うのはみんなそれぞれキャプテンなので、誰が出かけても家族の動きはとまらない。

「旅」という字は、ふたつの文字か

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「旅する土鍋2019」魚醤をもとめ能登へ

イタリアにきて一週間。出発前ぎりぎりに飛んでいった能登への旅記録をトスカーナの景色を見ながら書いているが、どうも湿度が違ってうまく書けない。

しかしながら、なぜ毎年イタリアに毎年足を運び、すぐに答えが出ない、もっとダイレクトに言ってしまえば、すぐにビジネスに結びつかない活動をしているのか。その答えが分かりやすく感じた国内の旅であったので、イタリア紀行をはじめる前に書きとめておこうと思う。

イタ

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ヨーグルトがピンク色にそまるときの味

白いまちと白いヨーグルト

春の気配がないままに3月のビリニュス(リトアニア)には真白な世界が広がっていた。そんななか、朝食に眼前の景色のような真白なヨーグルトをたっぷりいただく。

リトアニアは酪農国。そして古くから日本同様に発酵文化をもつ国。

ヨーグルトといえばギリシアと思われるが、ご多聞にもれず東欧もヨーグルト国家なのだ。そのひとつにヤギ皮の袋に乳と菌を入れて発酵させていたケフィアヨーグル

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迷宮からうまれた「旅する土鍋」

あるとき土鍋をかかえてイタリアの広場に座ってまどろんでいたら、自分がどんどん小さくなって土鍋のなかに入りこんでしまった。かれこれ30年も時がながれた陶歴のなかで、うつわの迷宮にはいりこんだのは2回目だった。

1回目は30年前の学生時代、冷たいろくろ引きのうつわの中で水没しそうに慌てふためいていたが、2回目は妙に肝がすわっていた。

「このまま旅したい」

そうそう、みなさんにこれを説明すると驚か

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旅する土鍋 リトアニア⑦「謎めく食材」

「これはなんですか?」

目の前の食材をゆびさして、英語教科書の最初のページのような会話をする。「ネー」「ニェ」「ニエット」など、NOにあたる音が聞こえてきたら、もうどうしようもないのだ。「(英語が)わからない」という意味。それなのに彼らのはにかんだ笑顔をみると、あきらめられない。好奇心のボルテージが上がってきて寒さにふるえる足を意味もなくばたばたさせる。

リトアニアの首都ビリニュスという町のお

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旅する土鍋「リトアニア⑥」東京で見つけた瓶のなかのリトアニア

舌のうえにのこる記憶

旅先にご縁がのこる場合は、意識していなくとも、帰国後もかの地のあれこれが舞い込んでくるもので。

写真の瓶づめインスタント「ボルシチ」は、徒歩3分のところにあるスーパーで家族がみつけて買ってきてくれた。旅した者の余韻が、家族にも興味関心として伝わることはとてもうれしいことだ。

ボルシチ:ロシアの伝統的な料理で、鮮やかな深紅色をした煮込みスープで、ベラルーシ、ポーラン

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「旅する土鍋 リトアニア⑤」ライ麦パンのスープに想う

静かな誇り

彼らの顔はもはや満足気であり、静かな誇りに満ちている。

陶、籐、鉄、木、麻、綿、毛など、素朴な素材をつかった工芸品・民芸品が数えられないほどのテント下にならぶ3日間。リトアニアの守護人カジミエラスの命日を祝うためのカジューカス祭り。

厳しい冬のあいだに職人やアーティストがつくり溜めた工芸品や伝統食材のお披露目の3日間であり、寄せる復活祭の飾りを入手する機会でもあるようだ。

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「旅する土鍋 リトアニア④」屋台料理を食べながら

前回は独立国家の成り立ちについてかいつまんだが、同時にナチスによる悲劇も忘れてはならない。そんな歴史があるのに、人々はおだやかな歩みで未来を見ている。

リトアニアの首都ビリニュスの街中いっぱいに華やかな工芸品がならぶマーケット(カジューカスのお祭り)を歩きながら、さまざまな歴史が人間性をつくるのかとふと思う。静かで穏やかな人々。そして日本人以上にシャイである印象を受けた。アジア人であるわたしの顔

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