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谷郁雄の詩のノート32

ある日、高円寺の駅頭で見つけた可愛らしい猫のタトゥー。この猫の飼い主は「ゆい」さん。許可をもらって写真を一枚。ゆいさん、あのときはありがとう! 左腕のタトゥーといえば、レディー・ガガの左腕に彫られた詩人リルケの言葉を思い出します。「若き詩人への手紙」という本の中の言葉をガガは左腕に刻印しました。その言葉を自らの人生の指針にするために。やっと秋風が吹き始めました。今回は3つの「話」を詩にしました。皆さん、良い一日を。(詩集「詩を読みたくなる日」好評発売中)



「いい話」

いやな話は
世の中に
たくさんあるけど

その陰に
ひっそり
隠れている
いい話

思わず
顔が
ほころぶ話

両手で
大切に
包んで

他の人の
ところへ
持っていきたく
なるような
いい話

ほら
見つけたよと
小さな宝石を
見せるように
包んだ両手をひらく



「葉っぱと少女の話」

地に落ちて
葉っぱは
思い出していた

大きな木の
てっぺんから
世界を
眺めていた頃のこと

毎朝
木の根元の
小径を通る
一人の少女がいて
その少女が
好きだったこと

とつぜん
自分のからだが
ふわりと
持ち上げられ
やさしい声が
聞こえた

「きれいな葉っぱ」

少女よ
やっと
出会えたね



「内緒の話」

メモを
ポケットに入れて
散歩がてら
買い物に出かけた

まず
最初に
クワガタの
ゼリーを一袋

次に
メモを見ながら
サミットの店内を
うろうろ

暑さで
ぼーっとした頭で
帰宅

「ただいま」

「おかえり」

妻に内緒の
買い物が
一つある

レシートは
まるめて
捨てたから
バレる心配はない

おつりが
ちょっぴり
足りないだけさ

©Ikuo  Tani  2023


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