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谷郁雄の詩のノート34

ずっと昔の話。新宿駅で詩集を売っている女の子がいました。首から「わたしの詩集を買ってください」という言葉を手書きした小さなプラカードをぶらさげて。近づいて声をかける人は誰もいない様子でした。今日、ふとその娘のことを思い出しました。詩集、買ってあげればよかったな。もう遅いけど。いまの新宿駅には詩集を売る女の子なんかいません。みんなどこかへ急いでいるだけ。街も時代とともに変わっていきます。今日の風に吹かれて歩くのがいいのでしょう。(詩集「詩を読みたくなる日」他、好評発売中)


「曲がり角」

もう
たくさん
生きてきたと
思う自分

もっと
生きたいと
思う
もう一人の自分

はじめての
曲がり角を
二人で曲がり
先へと急ぐ


「提案」

ただ一人の
自分を
生きるより

ただの一人の
自分を
生きるほうが

笑顔が
多い人生を
送れるのでは
ないでしょうか?


「ゴソゴソ」

妻が
ゴソゴソ
やっている

探し物
だろうか
片付け
だろうか

跡形もなく
消えてしまう
日々の出来事が
たまらなく愛おしい


「ヘリコプター」

パタパタと
音だけで
飛ぶ
ヘリコプター

やがて
音は
小さくなり
ヘリコプターは
いなくなる

母の
子宮の中で
逆さまになって
聴いていた
ヘリコプターの音を
なつかしく思い出す

©Ikuo  Tani  2023


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