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【新規事業担当者に効く】気になるスタートアップ企業の「キモ」解説:ジャパンワランティサポート(住宅設備機器の延長保証)

こんにちは!NEWhで新規事業の伴走支援をしている谷口です。

気になるスタートアップ企業について、新規事業担当者が参考になったり、ヒントを得るために、ビジネスの肝(キモ)は何か、新規事業に必要な要素を整理するためのフレームワーク「バリューデザイン・シンタックス」を使いながら解きほぐすシリーズ企画、今回は住宅設備機器の延長保証事業を行うジャパンワランティサポートを分析しました。

こちらの企業に注目した理由としては、大きく3つあります。
・非常に高い営業利益率(42.8%/24年9月期1Q実績)
・差別化が難しい住宅設備保証事業
・異業種出身社長の起業
どのような経緯から生まれた企業なのか、どう差別化しているのか、そしてなぜ同業のなかでも突出した高い営業利益を確保しているのか、探っていきたいと思います。


JWSはどんな会社?

ジャパンワランティサポート(JWS)は、住宅設備機器のメーカー保証期間を超えて10年間までの延長保証事業をBtoBtoC形態で展開しています。具体的には、給湯器、システムキッチン、システムバス、洗面化粧台、トイレ、エアコンなどの住宅設備機器に故障や不具合が発生した場合、その修理業務に関わる一連の作業を提携企業に代わって行っています。

JWSに業務を委託する主な企業は住宅メーカー、家電量販店、ホームセンターなどです。

ビジネスモデルは?

シンプルに表すと、先に挙げた企業がエンドユーザに住宅設備機器を販売する際に、将来の故障リスクに備えてメーカー保証(通常は1~2年のみ)を超える5年~最長10年の延長保証を行ったあと、そのすべての業務を代行する代わりに、業務委託料を得るというものです。

住宅設備延長保証市場試算‐2022年9月期通期決算説明資料より

どこからどこまでを保証するのか?という疑問がすぐに湧く方もいらっしゃると思いますが、文字通り「その後のすべて」というイメージで、住宅設備機器を実際に利用するエンドユーザからの問い合わせや故障時のサポート、修理を行う業者の手配に至るまで、委託元の機器販売者に代わって行います。

延長保証に加入したエンドユーザについては、24時間365日間の対応と、対象機器に関して修理が必要になっても、保証期間内であれば何回修理を行っても、延長保証料のほかに追加の負担が一切生じません。

2024年9月期 第1四半期決算説明資料より
2024年9月期 第1四半期決算説明資料より

なるほどと思ったのが2点ありました。
ひとつは、上記図の「損害保険会社」との繋がり。実際に機器の修理が必要な状況となった場合、当然ながらその一切はJWSが業務の代行をするだけでなく、実際の修理費も負担することになりますが、特にリスクの高い新規の取引先や一部の機器などについては、保証期間分の損害保険を締結してヘッジを行っている点です。

もう一つはこの「10年」という保証期限。これには明確な理由があり、10年以上経過すると故障発生リスクが急激に高まり、修理コスト(もしくは相応の損害保険料)がかさんでしまうから、ということでした。

事業セグメントは?

現状では延長保証事業が大半ですが、周辺領域としてBPOの受託を始められています。

・延長保証事業
会員数1600万件、提携企業2400社規模で、住宅設備機器の延長保証業務を行うもの。
BPO事業
他社のコールセンターや営業業務など、住宅設備機器販売会社の業務アウトソーシング受託、契約社数は60社弱。

競合は?競合優位性は?

東証グロースに上場している日本リビング保証や、SOMPOワランティが、ほぼ同内容のサービスを行っている競合にあたります。ただし、営業利益率は半分程度にとどまります。この違いはどこから生まれるのでしょうか?

両社2022年通期決算説明書より、筆者試算

売上原価の主なものは先の保険料支払い、保険対象外部分の修理費用になり、ここに大きな差別化の要素はなさそうに見えます。

資料や社長のインタビューを紐解いていくと、その源泉はコールセンターの運用にありそうで、圧倒的に少ない人数でコールセンター業務を効率よく運用することで、対応する顧客数が増えても無為にスタッフを増やすことがないこと、またすべての不具合を一様に修理対応するのではなくオペレーターのサポートでの解決や、保障対象の厳密な判定を行うことでコスト低減を図っていることがありました。サポート一人当たりの対応顧客数の多さ、その効率運営のノウハウが他社ではマネできないものなのだと想像します。

バリューデザイン・シンタックス(VDS)でみてみると

今回のケースをフレームワークに落とし込んでみると、こうなりました。
コンセプトと戦略、収益と、それぞれ分けてみていきたいと思います。

JWSのVDS記入例(筆者作成)

コンセプト

超具体的なターゲットは給湯器やトイレ、システムキッチンなどを販売するホームセンターや大型家電量販店でトータルリフォームを提案している販売員です。新しい住まいの購入や、老朽化した住まいのリフォームのタイミングで、決して高くない買い物をしようとしている一般消費者(ユーザー)に契約書にサインしてもらうための、「10年間の長期保証」「24h365日対応」「期間内は何度対応してもらっても、今回の保証料以外一切かかりません」という押し文句を堂々と言ってもらえる、ということになるでしょう。

戦略

先に挙げたように長期保証それ自体は競合が存在しており、一般消費者が支払う保証料と受けられるサービス/安心、また自社に代わってアフターケアを丸ごと委託できる、ということには大きな違いはありません。その違いは住宅設備の販売側の期待により良く応えられるか、他社より自社を積極的に一般消費者に薦めてもらえるか、ということになります。

その要因として挙げられそうなのが「保証できる住宅設備や機器の範囲が広い(選り好みされない)」「業務委託料の安さ」「まるで販売会社がアフターケアを手厚く行っているように見せてくれるか」の3点です。安くて、丸ごとお願いできて、でも細かいわがままにも対応してもらえることで、ファーストチョイスの座を勝ち取っていくわけですね。

ここで重要なキーワードがユーザとのチャネルとなる「コールセンター」です。ユーザがコールセンターに連絡している状況はライフライン周りに不都合や危険が生じている、切迫した状況。この時にいかにユーザを素早く、そのピンチから脱出させ、安心を与えられるかが重要になります。

しかしこれは一方で手厚い対応、個社に合わせたカスタマイズが必要になり、リソースとコストを圧迫し、業務を複雑にします。この課題をいかにミニマムに、効率よくこなしながら解消するかが戦略の肝になっていそうです。

収益

収益構造はとてもシンプルで、住宅設備の長期保証を売りっぱなしで丸投げしたい販売会社の業務委託料を収入として、支出はアフターケアを担当するコールセンタースタッフの人件費と、リスクヘッジのための損害保険料になります。この差し引きが突出して多い構造をつくり出しているのが、JWSの大きな特徴といえるでしょう。

今後の成長戦略は?

一般消費者に積極的に長期保証を提案してくれる業務提携先数の拡大と比例して、目下7期連続の増収で順調に成長を続けている同社ですが、今後さらなる成長を見据えた戦略は大きく3段階を計画していました。

・保証対応設備
住宅設備の保証対応範囲を拡大し、保証料のアップセル/クロスセルを達成する。
・BPO事業の拡大
培ったコールセンターの効率運用ノウハウを活用し、他社のコールセンターの受託業務へ進出する。
・海外展開
同様のサービスを国外にも展開する。

2024年9月期 第1四半期決算説明資料より
2024年9月期 第1四半期決算説明資料より

さいごに

改めてJWS社の事業を分析して気づいたことが、誰もが嫌がり、面倒がるアフターサービスそのものがビジネス機会であり、差別化の源泉であるということでした。

アフターサービスやコールセンターというと、顧客ひとりひとりからの問い合わせやクレームにひとつひとつ丁寧に、誠意を持って対応しなければならないというどちらかというとネガティブで、コストセンターのイメージを持つ方の方が多いのではないでしょうか。しかしここには顧客が抱える課題や、潜在的な期待が含まれていて、顧客理解が深められる絶好の機会でもあります。

今回は住宅設備機器の延長保証でしたが、顧客が切迫したトラブルを抱え、誰かに緊急に助けを求めるシーンは他の製品、サービスでも間違いなく起きているはず。このコールセンター業務の効率化、アウトソーシング、また顧客データの統合と活用といったビジネス機会はまだまだ残されているように感じました。

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