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あどけない話(夜のエッセイ)

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日々の暮らしから、あどけない話を綴ります。
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2019年4月の記事一覧

平成の一コマ

平成の一コマ

20年前、母と電車に乗っていたら、隣りにいた男性が何やらこちらをチラチラ見ながら、手元のスケッチブックに鉛筆を走らせ始めた。
何してるのかなぁ…とやや訝りながら体の向きを変えたところ、その男性は初めに描いていたページを捲り、新しいページにまた何かを描いている。

しばらくすると男性はそのページを切り取り、「はい、どうぞ」と、ニコッと笑いながらそれをこちらに差し出してきた。
見ると、電車のシートに座

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置いていくもの・持っていくもの

置いていくもの・持っていくもの

私などが言うまでもなく、今日は平成最後の日。
「昭和最後の4月30日」に生まれた身としては、「平成最後の日」が4月30日であることに対してやや感慨深いものがある。「平成の申し子」などと言うつもりはないけれど、平成という時代の影響を色濃く受けた人生だったことは間違いない。

終わりゆく平成に置いていきたいものは「弱い自分」かもしれない。
どうにも昔から臆病で、何かをするのになかなか踏ん切りがつかない

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「言葉は星に似ている」

「言葉は星に似ている」

昨日、NHKのEテレ(つい、「NHK教育」と言ってしまいそうになる)で「ドキュランドへようこそ『星の王子さまの世界旅』」という番組を観た。

ドキュメンタリー番組好きの私は、いつの間にか始まっていたこのシリーズも好きでとりあえず録画しておいて気になったものを観ているのだが、この回は特に素晴らしかった。

小説「星の王子さま」を翻訳し、失われゆく希少言語を次世代に伝えようというサハラ砂漠や北極圏、中

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コートの袖元

コートの袖元

4月というのにとんでもなく寒い一日だった。月並みな表現だがまるで冬に戻ったかのような寒さで、桜もびっくりしたことだろう。

さて、会社から帰る電車の中でふと横を見ると、吊り革を持つ男性のコートの袖元が目に入ってきた。そこには、紛う方なきクリーニング屋さんのタグが付いていた。

このタグを見て、色々なことが頭をよぎる。
「冬が終わったからコートをクリーニングに出したものの、今朝慌てて引っ張り出してき

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