見出し画像

【サスペリア(2018)】「これはアートではない」【映画感想文】

4年ぶりにリメイク版サスペリアを観ました。

映画館で何度か見たけど、そのときは魔女がもたらす残酷な描写を直視するのにやっとで、物語の細かい演出に目を向けてる余裕がなかった。


あらすじ

1977年、ベルリンを拠点とする世界的に有名な舞踊団<マルコス・ダンス・カンパニー>に入団するため、スージー・バニヨンは夢と希望を胸にアメリカからやってきた。

初のオーディションでカリスマ振付師マダム・ブランの目に留まり、すぐに大事な演目のセンターに抜擢される。

そんな中、マダム・ブラン直々のレッスンを続ける彼女のまわりで不可解な出来事が頻発、ダンサーが次々と失踪を遂げる。
一方、心理療法士クレンペラー博士は、患者であった若きダンサーの行方を捜すうち、舞踊団の闇に近づいていく。やがて、舞踊団に隠された恐ろしい秘密が明らかになり、スージーの身にも危険が及んでいた。

https://gaga.ne.jp/suspiria/


表面的には「アメリカからやってきた少女がドイツの舞踏団に入団し、そこで才能を開花させていくうち、奇怪な出来事に巻き込まれる」というストーリーなんですが、
本質的には当時のファシズムが引き起こした混乱を、魔女達が支配する舞踏団と重ねて描いた作品となっています。

さすが『君の名前で僕を呼んで』の監督というか、ただのホラーで終わらせずに、抽象的なアートを装いながら史実や哲学を交えつつ、最終的に愛の物語として完結させてるのがにくかった。


トムヨークの音楽

楽曲はトムヨークが担当しているのですが、この作品が初めて手がけた映画音楽だったというのだから驚きです。
「トムヨークらしさ」を感じられる楽曲が多く、彼の音楽が映画をよりアートの高みへ引き上げているように感じました。


彼はのちにANIMAというアルバムを制作し、短編映画の主演も担います。

サスペリアを考察するときに必要になってくるのがユングの心理学なのですが、同じくANIMAでも題材にされていたことを思い出しました。

15分という短い映画なのですがどの曲も本当に素晴らしく、こちらも不気味な雰囲気があって、感情が揺り動かされます。


「これはアートではない!」

物語の終盤でマルコスが叫ぶ台詞です。

美しい女性たち。解釈の余地を与える断片的な映像。
そして何より、バレエの演目は恐ろしくも素晴らしい映像美ですし、地獄のような儀式でさえも一種の芸術に見えてくるなかで言い放たれるこの台詞は衝撃的でした。

あれは私達に言っている。

表面上でしか見ていない観客を選別しているような気さえしてくるのです。

今作は当時の政治や宗教が複雑に絡んでいる作品となっていますが、劇中では多く語られずに進行されていきます。
頭がついていかないなかでショッキングな映像が多く差し込まれるので、「???」となるシーンが多いことと思います。

それを「なんか不思議な作品だったな」で終わらせてしまうのは勿体なさすぎる…

こちらの方の記事で文字通り徹底的に解説されていますので、時間があれば是非ご覧いただきたいです。
というのも、8パートで構成されているのですがどれもなかなかのボリュームで、すべて読んだら2時間以上経っていてびっくりしました。すごい満足感です…

興味深い考察が広がるなかで、個人的にずっと不可解だった幕の題名についても語られていて感動しました。


あらためて、「アートではない」という台詞にこの映画のすべてが集約されているような気がしてくるのです。全てが見せかけの芸術かというと、そうではない。

昔の絵画って、考察していくうちに当時の情勢や宗教や、作者の願いが込められていたと明らかになることがありますよね。今作もそれに似ていて、文章で示さずに映像で訴える。意味のない演出なんて無いんだという製作側の思いがこめられている映画だと感じました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?