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ことばを紡いでいます。 Instagram:https://instagram.com/tayutaukokoro

最近の記事

たとえば

色濃く残った君の影 冷たく震えた僕の声 ことばはいつも届かなくて こころは何度も傷ついた 色濃く残った君の影 部屋の片隅に君の服 今日が終われど夜が明けて 明日が来ると信じてた 色褪せそうな君の影 こころが褪せた今日の僕 あの頃僕らは最強で 世界に敵などいなかった 色を失った君の影 意味を失った明日の僕 たとえば僕のひとことが 喉から出ずにいたのなら

    • 雨雲と蛍光灯の間

      しとしと降る雨は、梅雨が始まったことを見せつけるようにいつまでも続く。 わたしはと言えば、今日もいつもと寸分違わぬ見栄えのしない1日を終えようとしている。 雨はすべてを洗い流すなんて言うけれど、この国の6月の雨はどうもそんなものではなさそうだ。 しとしと、しとしと降り続けて、地面に、コンクリートに、植物に、己を染み込ませている。 出来ることなら雨と一緒に、抱え込んでいるこの不安も洗い流したかったのに。 うじうじ、じめじめ。 悩んでも仕方のないことを考えては考えては、

      • 「忘れないで」

        君のことを思い出した。 そういえば、去年の今頃は一緒に出かけていたっけ。 思い出したかったわけじゃないのに、嫌でも脳裏に君が浮かぶ。 君に教えてもらったお店、ふたりで使った近道、奥手な君が初めて手を繋いでくれた交差点。 秋の風が、空気が、あの頃の記憶を連れてくる。 今年の秋はまだからっぽで、より一層去年の鮮やかさに縋ってしまう。 君は今なにをしているんだろうか。 私の知らない女と、あのお店でケーキを食べているんだろうか。 その記憶の片隅に、少しでも私は存在してい

        • その赤を僕のものに

          時間が止まる。 言葉も失う。 君が少し気まずそうに笑う。 きっと君はこの時間の使い方を知らない。 僕が君の頬に手を添え、そっと唇を重ねる。 君は驚いて、ほとんど反射で瞼を伏せる。 固く、ぎゅっと目を閉じる。 少し離して、もう一度重ねる。もう一度。 ……もう一度。 君の顔がどんどん赤く染まっていく。

        たとえば

          日没

          日が沈みはじめていた。 ビルの中に閉じこもったままの普段は見ることがない真っ赤な空は、どこか別世界のようだった。 綺麗とかロマンチックとかそんな言葉は出てこなくて、ただただあの赤く鮮やかな空を君に見せたいと思った。 君が綺麗なものをみたとき。 君が美味しいものを食べたとき。 1番に伝えたくなるのは誰だろうか。 どうか、わたしであって欲しかった。 この空の下で、わたしと同じことを考えていて欲しかった。

          君の隣で

          お洒落とは少し遠い生活をしている君の、SNS。 みんなはお洒落な写真を載せているけれど、君の写真は居酒屋で飲んだお酒とか、偶然見つけた猫とか。 それはそれで君らしくて可愛らしいなあ、なんて思ってても言えないけれど。 そんな君の投稿欄に、僕との思い出が増えていく。 2人で行ったカフェのケーキや、君が好きそうだと思って突然プレゼントしたお菓子。 恥ずかしくてあんまり2ショットが撮れないから、いつも食べたものばっかりになっちゃうね。 君はきっと何の気なしに投稿しているのだ

          君の隣で

          ほんとうは

          言えなかったけどね。

          ほんとうは

          寝室にて

          「ねえ、狭いわ」 「充分詰めたよ」 「あなたが大きすぎるのよ」 「ほらこれでいいだろ」 「髪踏まないでよ」 「長すぎるんだよ」 「短い方が好きなの?」 「そうは言ってないだろ」 「じゃあ長いのが好き?」 「君ならなんだって似合うだろ」 「そういうところ、好き」 「知ってる」 「ねえぎゅってしてよ」 「わかったよ」 「……おやすみ」 「おやすみ」

          寝室にて

          僕の君だった

          僕の君だった 僕の君のはずだった 僕の君だと思い込んでいた 僕の君だと思っていたのは僕だけだった 君はいつだって縛り付けられることなんか許さなかった 君はいつだって軽やかで、淡く浮かれた春のようで、同時に冷たく遠くの見えない冬のようでもあった 去年より暑い10月から動けない僕は君が眩しかった 君の僕になりたかった 君の僕になれたら、僕もあんな風になれると思い込んでいた 君の僕にはなれなかった 誰のでもない、ただの僕だった

          僕の君だった

          叶うなら

          君に会いたい。

          叶うなら

          君はやさしい。

          会いたい、なんて言ったら君はどんな顔をするだろう。暇人だなって馬鹿にして、少し困った声で笑って、それでも迎えに来てくれるんだろう。 君のその中途半端な優しさにいつまでもしがみついてぶらさがって、離れられないのはわたしだ。 いっそこの糸を思いきり切って、地の底に落としてほしいとさえ思う。 でも君はきっと知ってるんだ。この糸を失ったあとのわたしのことを。 わたしが怖くて怖くて想像することすら拒んでしまうわたしのことを。 ほら、君はやさしい。

          君はやさしい。

          鈍いナイフ

          「いっそのこと思いきり拒んでくれたらいいのに」 中途半端に優しい君はそんなことできないってわかってるけど、つい吐いてしまった言葉。 君は狐みたいな目を少し丸くして、「だってお前俺のこと好きなんだろ?」と当然のように言う。 君の優しさが私に突き刺さってることに、君は一生気づけない。

          鈍いナイフ

          その先に

          君と同じ世界が見たくて、君と同じ世界に暮らしたくて、覗き込んだファインダー。 覗いた先に君がいないなんて、想像もしていなかったよ。

          その先に

          背中

          いつだって忙しない君は、隣の僕より小さな画面の向こうにいるみんなに夢中だ。 そんなの仕方ないってわかっているけど、気持ちはそう簡単に割り切れない。 しとしと降り出した雨が僕の気持ちに追い打ちをかけるようにのしかかる。 僕ばかりが君を想っているようで、君にはそれがちっとも届いていないようで、苦しくてたまらないんだ。

          絵が描きたかった。

          絵が描きたかった。 けれど手元には、インクの切れたペンしかなかった。 新しいペンを手に入れることもできず、ただただその掠れたペンで掠れた絵を描く。 いつか色がつくことを夢見ながら。 いつか美しい絵が完成することを夢見ながら。

          絵が描きたかった。

          目の前にいくつもの扉がある。

          目の前にいくつもの扉がある。 それは様々な色をしている。 頻繁に開け閉めされる扉もあれば、ずっと閉ざされたままの扉もある。 綺麗に塗装された扉もあれば、古びたままの扉もある。 けれど、たった扉1枚を目にしただけで一体何がわかると言うのだろう。 部屋の中がわかるのだろうか。 住人の性格がわかるのだろうか。 扉は開けられるためにあるのであって、見られるためにあるのではないのだ。

          目の前にいくつもの扉がある。