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日朝の大学生が交流、国交のない国で生まれた出会い

北朝鮮をめぐる動きが活発になる中、再開された取り組みがあります。日本と北朝鮮の学生による交流イベントです。ただ、平壌(ピョンヤン)でのイベントに密着すると、学生たちは互いの国に対して「怖さ」を抱いていたようです。こうしたイメージを乗り越え、若者たちは両国の架け橋となれるのでしょうか。(ニュース23 9月5日)


 「きっと会えるよ」
 「会える、会える、絶対会える」

別れを惜しむ2人。ここは、北朝鮮・平壌です。

抱き合っているのは、日本の大学生、田尾紗衣(たおさえ)さんと、北朝鮮の大学生、ハム・ジニさん。

2人とも、会う前は不安でいっぱいでした。

「こっち(北朝鮮)に来ること自体、周りの人がやっていないことだし、すごく不安だった」(国際基督教大学 田尾紗衣さん)

「敵対国家というか、国交のない国から来る人々なのに(日本人が)本当に交流のために来るのか、とにかく不安だった」(平壌外国語大学 ハム・ジニさん)

一緒に過ごした3日間。2人はどのようにお互いの心をかよわせていったのでしょうか。

2人が出会った場所は、平壌外国語大学。日本語専攻のクラスです。

「ハム・ジニと申します。交流を通じて、私の日本語の実力を高めたいです」(ハム・ジニさん)

「田尾紗衣と申します。 皆さんの日本語を聞いて、もっと朝鮮語を勉強したいなと思っています」(田尾紗衣さん)

田尾紗衣さんは、他の大学生5人とともに、日本のNGOなどが主催する大学生交流のため、平壌を訪れました。

平壌外大の学生8人のうち、女性はハム・ジニさん1人。田尾さんは、離れて座っていた同世代の女の子、ハムさんが気になりました。

でも、交流は1時間足らずで終了。初日は話せませんでした。

交流2日目。この日の予定は市内観光です。

交流には北朝鮮側の当局者も同行していますが、話す内容は自由とされました。

ここで、田尾さんは、ハムさんとの思いがけない共通点をみつけました。

 「2000年の何月生まれ?」(田尾紗衣さん)
 「5月」(ハム・ジニさん)
 「5月、じゃあぴったし1年(違い)。私も」(田尾紗衣さん)

田尾さんのほうが1歳年上ですが、同じ5月生まれで、日付もたった1日違いだったのです。

「偶然、誕生日もわたしとピッタリで。だからもっと親しくなった」(ハム・ジニさん)

2人の仲は急速に縮まりました。

最初に訪れたのは、金日成(キム・イルソン)主席の生家。

「切るものです」(ハム・ジニさん)

田尾さんのために日本語に訳してくれるハムさん。こうした交流の中、2人はお互いの本音を初めて語り合いました。

「やめときなって言われたし、家族も最初すごく反対していた」(田尾紗衣さん)

田尾さんは今回、北朝鮮を訪問することに対し、実は不安や怖さもあったと打ち明けました。すると・・・

「もちろん、私は日本語を専攻しているから(日本に)行きたいよ、ぜひ。でも、なんか怖いんですね。お互いさま」(ハム・ジニさん)

この時、田尾さんには、本音を言い合えた安心感もありました。

食事中、2人で夏休みの話をした時、田尾さんにとって驚くような話がありました。

「証明書があって、(検問を)通過する場合はそれを見せてから」(ハム・ジニさん)
「じゃあ水泳とか水泳場に行く時も許可もらってから行くの?」(田尾紗衣さん)
「水泳場というか海」(ハム・ジニさん)
「海とか」(田尾紗衣さん)

平壌の外に出る時は事前に申請し、検問所で書類を見せる、という現状。田尾さんが知った初めての事実でした。

2日目の交流は、およそ4時間で終了。2人はずっと話し続けていました。

そして交流最終日。平壌郊外の山にも2人一緒にのぼりました。

その先では、「日朝間の信頼関係をつくるために何が必要か」というテーマで議論もしました。

「経済封鎖・制裁策動が続いている中、交流はあり得るか」(ハム・ジニさん)

「きっと(日本人が)朝鮮に思ってる感情があまりよくないのは、本当に知らないから。みんなが暗い顔してて、笑える環境がなくて、と思っていた。こうやって、みんなが笑いあえるカジュアルな部分がもっと見えるといいのかな」(田尾紗衣さん)

交流最終日は、朝から夕方まで、ほぼ1日一緒に過ごして終了。

田尾さんは、ハムさんへの色紙に、朝鮮語で「必ずまた会おう」と綴りました。

「次いつ会えるのかが分からないことが、気付きたくなかったけど気付いちゃった部分。実際こっちに友達ができちゃうと、ジニも(日朝関係の)仕事について仕事で会えるかもしれないから、朝鮮半島と日本を結ぶ仕事につけたらいいな」(田尾紗衣さん)

「紗衣さんとか一緒に日本人に会って、お互い話し合って仲良くして、日本への遠い感じがちょっと薄くなって近くなった。別れ、つらいと思うんです。でも、国交が正常化したらたぶん会えるし、希望を持って、私の成長した姿を見せたいです」(ハム・ジニさん)

2人は、離れていても、1日違いのお互いの誕生日を祝いあう約束を胸に、再会できる日を待っています。