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子ども向けアプリの開発が教えてくれる「ユーザー理解」の大切さ

「ユーザー理解」は大切。そんな当たり前のことを、我々が改めて実感した実績に「小学校の低学年」向けアプリの開発があります。

UXに気を配ったWEBサービスやアプリのデザイン開発を得意とする我々ですが、小さな子どもがユーザーとなるケースはそれほど多くありません。今回はそんな貴重な機会に携わった実績について、プロジェクトの進め方や各フェーズでの気づきなどを紹介し「ユーザー理解」の重要性について改めてお伝えしたいと思います。
※関係者への配慮から、アプリの詳細については伏せてお話をいたします。

プロジェクトの背景・概要

このプロジェクトでは、ユーザーが「小学校の低学年」であること、内容が「規則正しい日常生活を送るための支援」ということは事前に決まっていましたが、それ以外は白紙の状態でスタートしました。

そのため、ユーザーである小学校の低学年と当該アプリとの「基本的な関係(媒体=スマホかPCか、アプリ種類=ネイティブアプリかWEBアプリか、操作者=自分か親か、メインのインタラクションは何にするか、など)」を定めるところから議論を始める必要がありました。

実際はもっと細かいですが、以下は当時のアプリ開発の大まかなプロセスです。

1- アイデア出し
2- インタビュー(仮説検証)
3- プロトタイプ作成
4- 家庭での実証実験(仮説検証/課題発掘)
5- 実装
6- 学校での実証実験(仮説検証/課題発掘)
※ 以降、5 
⇄ 6 の繰り返し

ここからは、各プロセスで大事にしたポイントや気づきをお伝えします。

1- アイデア出し

カジュアルに「初期仮説」を作って、早くユーザーからフィードバックを受ける

まずはユーザーと当該アプリとの「基本的な関係」について、アイデア出しを行うことからはじめました。この段階でのアイデア出しはカジュアルなもので「ネイティブアプリにすると、セキュリティ面の課題が大きいね」とか「すでに使い慣れたメッセージアプリなら使いやすいね」といった話し合いを通じて、ライトな「初期仮説」を作りました。
 
実は当時対応していたスタッフは、未婚者、子どもがいない者、かなり前に子育てを終えた者といった小学生やその親に対して「リアルな理解」を少し得にくいチーム構成でした。そのため、ある程度アイデアが出たところで、早めにユーザーである「子ども」や「親」に初期仮説についてフィードバックをもらうため、小学生の子どもを持つ自社社員へのインタビューを計画しました。

2-インタビュー(仮説検証)

インタビューの回答が複雑にならないように、インタビュー項目の設計では目的を絞る

限られたインタビュー時間で仮説の検証ができるように、以下のようにインタビューの目的をある程度絞って設問の設計を進めました。

・親が子供に対してどのような考えを持っているかを知る
・スマートフォンへの入力に対する親の反応を知る
・ユーザーにとって利用するハードルが低い方法を探る

まずメンバーが上記の目的に沿って聞きたい質問を持ち寄り、その後、質問のカテゴライズや抜け漏れや追加、掘り下げるべき内容を肉付けします。さらに(制限時間等もあるので)質問の優先度を付けてインタビューシートに落とし込むという流れで作業をしました。

実査では、普段、親がどんな考え方や気持ちで子どもと接しているかを確認しながらヒントを得ていく

インタビューをしてみると、アプリの内容については好評で、かなり手応えを得ることができました。ただ、ほとんどの家庭では小学校低学年の子にスマホを持たせていない(持っていてもキッズスマホ)ということがわかりました。

そこで親のスマホを使用する前提でインタビューを続けることにしました。目立った意見としては、スマホを触って誰かにメッセージやスタンプを送られても困るという趣旨で「既存のメッセージアプリは子供に触らせられない」というものがありました。「使用するなら専用の独立したアプリの方がいい」というのが、ほとんどの親が持つ共通意見だとわかりました。

よく考えれば、例え自分の子供であっても何か勝手に触られたり見られたりするのは嫌ですよね。このように仮説立てしたことに対して目的を持ってインタビューを実施することで、方向性がより明確に見えてきます。

インタビュー時の面白い話として「ご褒美がないと子供はアプリを続けられないと思う」という意見がありました。こういった当事者の参考意見には、はっと気付かされることも多いです。

仮説検証だけでなく「軌道修正」や「発見」という意味でも、適切な内容やタイミングでインタビューができると大きな収穫を得ることができます。

4- 家庭での実証実験(仮説検証/課題発掘)

「規則正しい日常生活を送って欲しい。でも、毎日アプリを使うのはハードルが高い」という継続性の壁にぶつかる

ほどなくしてプロトタイプの作成まで進み、実際に複数のご家庭での実証試験をさせてもらえることになりました。親が子供にスマホを貸して利用させる家庭もあれば、親が代理で入力するようなご家庭もあり、実際の利用方法についてはご家庭によってさまざまであることがわかりました。

実験をしばらく続けるうちに、共働きの家庭が多いこともあり、「決まった時間にアプリに入力ができない」「そもそも入力自体を忘れてしまう」というケースが見られるようになりました。

このことで「家庭の事情で左右されない使い方はあるか?」「継続的に使い続けてもらう方法はあるか?」というような新たな課題感が発掘されます。

6- 学校での実証実験(仮説検証/課題発掘)

「学校のタブレット」を利用するというアイデアの発見

無理なく継続的に使ってもらうための検討を進める中で、「小学校のクラスで実証実験」を行ってみるというアイデアがあり、実際にその機会を得ることができました。

この小学校での実証実験を繰り返すうちに、家庭での実験で得た課題感(家庭の事情で左右されない使い方や継続的に使い続けてもらう方法)の解決への道筋が見えてきます。

それはクラスのホームルームの時間に「学校で配っているタブレットを利用して生徒自身にアプリ入力をしてもらう」というものです。これにより子ども達が使うアプリの媒体についても、「学校のタブレット」を利用するという前提で本格開発を進めることになりました。

最後に:「ユーザー理解」が最も大事

このアプリは現在も各地の学校に繰り返し実証実験をさせてもらっており、毎回、実際にアプリを使った生徒さんやその親や先生の声を聞き、「追加機能の検討」や「ユーザビリティの向上」に役立てています。

前述のインタビューで得た「ご褒美がないと子供はアプリを続けられないと思う」という意見に対しても、「日々アプリに入力するとアイテムを集められる」という実装をしたところ、子ども達に大好評で「楽しみに続けられる」というたくさんの声をいただきました。

サービスデザインやUXデザインでは、様々な仮説をユーザーにぶつけて検証したり、追加の課題を発掘したりしながら、改善を繰り返すことがとても重要です。そして、これは「ユーザー理解」を深めながら、ユーザーの体験品質を高めていく行為であると思っています。

持続的な良い(善い)サービスは、必ず深いユーザー理解が下支えになっています。その意味で、ユーザーの解像度を高めることは、素晴らしいサービスを生む王道であり、近道だと考えています。

素晴らしいサービスの誕生やグロースに立ち合っていくために、「ユーザー理解」にこだわり、価値あるデザインを作り続けたいと思います。


気になる点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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