見出し画像

「インナーブランディング」プロジェクトレポート|(後編)深堀インタビュー

TDSでは、2021年に「企業理念の整理」に着手し、継続的に「社内への浸透施策」を実施しています。この一連のインナーブランディングをリードしてきたデザインコンサルティング部の下山、能藤の2名へ実施の概要やポイントをヒアリングした内容を、2回に分けて紹介します。

前編では、「自社のインナーブランディングの実施概要」を掲載しています。事前に読んでいただくと、より理解が深まると思います。

今回の後編は、クライアントワークとしてもブランディングを得意とする2人に、質問形式による「インナーブランディング深堀インタビュー」を通じて、より実践的な知見をお伝えします。


━TDSで整理した理念体系が、一般的にいわれる「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」という体裁でないのはなぜですか?


能藤:TDSの多くの社員にとっては、MVVはあまり馴染みがありません。一般的なフレームワークだからとそのまま使ってしまうと、「ミッションとは何か?」「バリューとはどういう意味か?」といった、用語の意味について余計な疑問が生じて、それが理解や共感を妨げる要因になる場合もあります。今回は基本的な方針として社員にとってわかりやすいことを優先して、誰が聴いても説明なしで意味が分かる、日常的な日本語の名前にしました。それが「存在意義」や「行動規範」です。

TDSの企業理念を整理する際は、例えば、「デザインに戦略性を、ロジックに創造性を」という言葉は働き方にも提供価値にも捉えられたり、他にもMVVのバリューに相当する言葉が複数あったりと悩ましかったです。


━「デザインに戦略性を、ロジックに創造性を」というスローガンは、提供価値(バリュー)として最終定義をしました。どんな点に苦労しましたか?

下山:このスローガンは、2017年に行ったWEBサイトリニューアルの際、サイトのトップメッセージとしてマーケティング的な見地で作られました。最初は社外向けでしたが、方針発表などインナーのスローガンとしても使われる機会も増えていきました。表現の内容自体がデザインファームとしての事業の道筋を灯すような直観性を備えており、社員にとっても概念レベルでの納得感が高いだけに、立ち位置や意味するところを明確に整理する必要がありました。

能藤:先の説明でもあった「座談会を通して直接経営陣と話して、この言葉の誤解が解けた」と話す社員もいました。メッセージの内容も大事ですが、正しい理解を促す継続的な発信も浸透施策のポイントだと思います。

社内・社外共にブランディングを牽引する2人(左:下山、右:能藤)


━今回のような「企業理念の整理」や「社内への浸透施策」が必要な企業の課題感とは?

下山:トップの交代や周年、時代の潮流変化などのタイミングで、理念やビジョン、スローガンなどを通じて方向性を示したが経営側の体感として社員の理解や浸透が進んでいないと感じていたり、方向性に紐づいた仕事が創出されていないといった相談が多いです。経営層は「みんなついてきてくれる」と思ったが現場とギャップが生まれてしまい、そこを埋めたい。あとは、企業合併など物理的に理念の構築・整理が必要なケースも多いです。

今回、TDSは企業理念の整理から始めているので少しややこしいですが、既存の理念をどのように伝えられるか?、何を補えば社員が働きやすくなるか?、現状の中で有効な浸透具体策は何か?といった、既存のメッセージやコミュニケーション資産ありきでの浸透面での相談も多いです。


━インナーブランディングにおいて数値目標はどう捉えていますか?

下山:今回のTDS社内のプロジェクトの場合は、実はKGIやKPIは置いてないんです。「目指す未来像」はありますが、数値的なものではありません。とはいえ現状理解は必要なので、現在地、1年後、2年後と浸透度合いを測る定期アンケートで「見える化」はしていきます。あとは「評価制度」が理念も踏まえた設計なので、そこで評価されていれば、体現できていると解釈しています。

能藤:私は、あまり初期から肩肘を張ったKGIやKPIは必要ないかなとも思っています。組織なので数値が必要なケースもありますが、そこの設定にいたずらに時間をかけて取組が遅れるよりも、経営層が一貫した意志や戦略を持って信じた方向を伝え、突き進み、社内の変化を見て「何を感じるか」が大事だと思っています。


━ブランディングのプロジェクトは定量目標ありきで進めない、という説明はクライアントにもしますか?

下山:よくしています。私たちは「ブランド」自体の提供ではなく「ブランディング」の提供をしているので、クライアントが本来持ってるブランドを整理したり、磨いたり、自立させたり、継続させたり、仕組み作りをすることが多いです。そのため、我々は何か目に見える数値を約束するというよりは、「クライアント自身に内在しているけれど顕在化させ切れていない魅力や解を発見していったり、確固たるものにしていったりするための支援者です」というお話はよくします。経営層やマネージャー層にとってのブランド文脈のブースターとも言えるかもしれません。


━培った本質を変えずにリブランディングするにはどんな方法がありますか?

能藤:一言で言うと地道にやるしかないんです。こうすれば良いという定型の方法はないです。ただ気をつけるべき点はたくさんあって、大きなところでは、ブランドのアイデンティティやパーソナリティ、要するにトーン&マナーの部分は、企業理念や経営戦略と整合してるはずなので、ブレないよう配慮します。

その際、既存の事業領域と今後伸ばす事業領域の両方を視野に入れて、そのマーケットが受け入れやすい新しいブランドアイデンティティやトーン&マナーとは何かを模索します。


━企業は、自分たちの軸や理想の姿をどうやって発見していくべきだと考えていますか?

能藤:大抵の企業に当てはまる理屈だと思うんですが、市場調査やお客さまヒアリングといった情報を集めて、論理的に推論を積み上げても「ビジョン」は出てこないです。

どんな会社になりたいという目指す姿を決める際、一番大事なのは「感情や意志」で、そこには「経営者の強い想い」が必要だと思っています。それは感情的に決めたものでよくて、その方向で良いかは一緒に働く経営陣や社員と一緒に、論理的にチェックすればいいと考えます。

下山:私たちの業務は「想い」や「やりたいこと」を「どうやって、誰に、どんなコミュニケーションで広げるか」という支援がメインです。あくまで「クライアント自身がどうしたいか」が中心で、それを伝わりやすく、より良くするための提案をします。ただ「経営層としてどうしたいか?」という部分を掘り下げることは、もちろん行います。それがコミュニケーションの質を高めることにも繋がっていると思います。


━経営の意思を社内浸透するのは、かなり難しいことですね?

能藤:例えば、会社が数年後にこうなると宣言したとして、それが嫌だという社員がいたら、無理やり説得するのは難しいと思います。しかし情報が不足していて理解に至っていないケースはたくさんあります。そういう人に情報を揃えて、丁寧に説明することが大切です。それで理解・共感を得られれば、意欲的に推進してくれます。

そういったミスマッチを未然に防ぐためにも、経営は普段からどんな理念を持っていて、どんな方向に進みたいかを発信することが大切です。そうすれば理念に共感する人たちが集まり、後で違ったということも少なくなるはずです。


━理念がもつ「抽象度の高さ」をどう捉えていますか?

下山:上位概念になるほど抽象度が高いですね。抽象度を高くしておかないと、事業のポテンシャルや戦略の余白を狭めてしまいます。TDSを例にあげると「デザインで価値を創出する」が上位にあり、抽象度が高い「デザイン」という言葉の解釈をうまくすることで、いろんな戦略に乗せられるのが良いと思っています。

能藤:文章化した理念は、ある意味、形があるものなので、ハードウェアに例えることができます。でもハードだけじゃダメで、そのハードを動かすソフトの方がより大事だと思います。

言語化できていない雰囲気や、普段の行動や言動といったソフト面は「日頃からハード(理念)について話し合ったり、具体的に何をどうすればいいかを考える」といった風土を、促して作っていくことが大切です。

下山:企業の文化風土によっては、例えば抽象的な理念やメッセージを「社員みんなでブレイクダウンすること」を敢えて明文化する企業もあるかと思います。戦略的に「社内の透明度をどこまで上げておくべきか」など、経営側でデザインしておくと良いと思います。


━クライアントに浸透施策はどのように提案しますか?

下山:ブランディングのセオリーはありますが、施策は企業の状況やフェーズによって変わるので決まった型はありません。ですので、企業文化に沿った提案をすることになります。企業の潜在的なユニークネスを引き出して、本質的にその企業の現状だからできる施策を探す必要があります。

ある意味、クライアントの社員は「その企業の専門家」なので、そこに私たち第三者が入って「専門家だからこそ当たり前になって見落としている価値」を探します。「それって外から見たら実は凄いことですよ」と、指摘することが大事だったりします。


━どうやって情報を引き出すことが多いですか?

下山:月並みですが、消費者や取引先へのインタビューやアンケート、同じ設問を社内に実施してギャップを見ることが多いです。

我々が所属するデザインコンサルティング部は「ブランディング」と「UXデザイン」を大きなテーマとして扱っていますが、こういった定性的な情報収集についてはUXリサーチのアプローチと近い面もあります。ただ、ブランディングの場合は、企業側のwillをきちんと伝えることに、より重きを置くという違いはあります。

いずれにしても、「事業者としての志を明確化するブランディングの考え方」と、「ユーザーのインサイトを事業に活かすUXデザインの考え方」は、経営としては両輪を回すことが重要なのだと考えています。

参考になりました。ありがとうございました。

Interviewee:下山 裕策(写真左)
2008年入社。クリエイティブディレクターとしてブランディング支援を担当。クライアントへの共感とコミュニケーションを大切にし、ブランドのありたい姿をコト、モノ、ルールに落とし込むことを得意とする。趣味:図画/工作/撮影/ガンプラ/釣り

Interviewee:能藤 久幸(写真右)
2020年入社。ストラテジックプランナーとしてブランディング支援を担当。(一財)ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー 2021年、共著で『ブランド戦略ケースブック2.0』(同文館出版)を上梓。同書は日本マーケティング学会「日本マーケティング本大賞2022」準大賞を受賞。趣味:散歩/ 読書 / 料理


気になる点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。


TDSのブランディングサービスについて知りたい方はこちらをどうぞ。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?