見出し画像

毎週ショートショートnote「戦国時代の自動操縦」


「戦国時代に自動操縦ができればどんな風だったろうか。」
嗄れた声で友人が僕にそう言った。
「なにそれ?」
友人の突然の妙な例え話しに僕は戸惑いながらもそう聞き返す。
「おおよそ、500年前の戦国時代において、自動操縦なんてものは存在しない。分かりきったことだろう?」
僕は再度困惑した顔を浮かべて、とりあえず頷いた。
「もし、その時代に自動操縦が開発されていれば、人は自分の手で刀や銃を握らなくて済んだんだよ。」
そう語り出した友人の目線の先は、電車に揺られる人々にある。
僕と友人は電車に乗って遠く離れた街へ向かっていた。
「文明は人の倫理観さえ変えてしまう。」
穏やかな時間が流れる車内に、友人の鬱々とした溜め息が混じった。
「一体どうしたんだ?何かあったのか?」 
僕の発した言葉は友人には届いていない。それが友人の虚ろな目を見てはっきりと分かった。
「俺は人間が恐ろしいんだ。時代が違えば簡単に殺し合うことのできる人間が。そして俺自身も。」
停車した駅から人が電車の中へなだれ込んできた。その群衆へ促されるように友人は
「この先どうなっていくんだろうか。俺は最近そんな事ばかり考えている。」
と呟いた。


#毎週ショートショートnote


この記事が参加している募集

#私の作品紹介

95,715件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?