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記事一覧

御本拝読「不安なモンロー、捨てられないウォーホル」クラウディア・カルプ

 大学時代、法学部に在籍していて、卒論のテーマは「プライバシーに関する権利の成立と今後」だった。もう十五年以上前の話だから当時と今では状況も法制度も変わっているが、あの時から今まで変わっていない私の感覚がある。「有名人の私生活はほっといたれよ」である。いや、卒論の軸は実は個人情報保護法とか自己に関する情報のコントロールについてだったのだが。
 パパラッチ的な意味でもそうだし、ネットであれこれ憶測や

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御本拝読「シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット」モーリーン・ウィテカー

 二十年来、私はシャーロッキアン。基本的に正典信者だけど、ここ数年はパスティーシュもパロディもオマージュも楽しめる雑食性。そんな私が本書を一言で言うと、「愛……」の一言に尽きる。読み終わるのが惜しくて、読み終わってもずっと目に入る場所に置いておきたくて、この本は愛の具現化だとすら感じる。それほど、たくさんの愛が詰まった一冊。
 おそらく最も有名なホームズ俳優・ジェレミー・ブレットとイギリスのグラナ

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御本拝読「ナマケモノは、なぜ怠けるのか?」稲垣栄洋

 もともと稲垣先生の本が好きだ。植物への愛と、クールな視線と語り口。淡々と、時にユーモアや皮肉を交えながら、植物たちの生き方や様子を教えてくれる。そんな稲垣先生の、主に中高生に向けたちくまプリマ―新書の一冊。いわゆる、「ティーンズ」コーナーの本である。
 さて、私はナマケモノガチ勢である。十年ほど前のNHKの番組でナマケモノの特集を見て以来、彼らに夢中である。人に尋ねられれば、軽く一晩は彼らの魅力

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御本拝読「女の友情と筋肉」KANA\

 たくさん読もうと思って図書館で楽しみに借りた本がことごとくダメ(内容が、ではなくて私個人の好みに合わなくて)で途方に暮れた年末年始。2023年に売れたり賞獲った人のものを中心に借りていたものの、売れ筋と自分の琴線は違うのですね。で、結局は昔から好きな本や漫画を読んで過ごしたという長期休暇。1日に大災害もあり初売りという気分でもなく、そもそも家族もいないし帰る場所もないから一人じっと家で……と、ほ

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御本拝読「レイモン・サヴィニャック フランスポスターデザインの巨匠」

 図書館で読んで、何回も借りなおして、とうとう古書店やデザイン展を探し回って手に入れた本。手に入れるまでの道のりが長くて、それでもどうしても欲しくて頑張る。自分のものになって、ゆっくりうっとり何度も愛しく読み返す。何年かに一回、そういう本がある。それが本書。フランスのポスター画家、レイモン・サヴィニャックの作品集。
 小説やエッセイの本、そして漫画やイラスト集だと、古くても割とすぐに手に入る。チェ

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御本拝読「おみやげに選びたい!ときめくローカルパッケージデザイン」

 全国津々浦々、駅をはじめとして、各地で「名物おみやげ」とされるものが販売されている。その多くはお菓子や真空パックの日持ちする食品で、具材や味付けが地方や県、地域によって異なっている。たとえば職場や知人同士の集まりなどで「先日旅行で○○に行ってきて……」と渡されるそれら。この時期、「帰省したので……」とそっと差し出されるそれら。それ自体はもう何十年も前から繰り返されてきた光景で、おそらくこの後も連

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御本拝読「東慶寺花だより」井上ひさし

 白状すると、井上ひさしさん自体に興味や好意があったわけではなくて、映画「駆け込み女と駆け出し男」の原作本として読んだのがきっかけ。以下、映画版と原作の比較を中心に。
 まず、映画の方は120分越えなのにその長さや重さを感じさせない面白さだった。役者さんが実力派揃いなのはもちろん、やはり脚本の上手さが抜群だった。セリフの長回し、早口(特に前半)が気になっていたが、それも含めて伏線であり、原作を読ん

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御本拝読「よちよち文藝部」久世番子

 大きい版のコミックスとして既刊されていた二冊を文庫で合本にした本書。日本・世界の著名な文学者や作品を、漫画で解説していく一冊。前半は日本の近代文学、後半は世界の古典を中心に。文庫版はぎゅっと凝縮された感が加速して好き。
 「漫画で解説!」「漫画で分かりやすい!」と謳った本って、大概あんまりおもしろくない(※偏見です)理由は多々あれど、描いてる人間のエゴや自己アピールの方が前面に出ちゃったり、漫画

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御本拝読「雨だれの標本」吉永南央

 「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの最新刊。七十代後半の珈琲屋店主・杉浦草が町や人に関する謎を解く、毎年楽しみに待っているシリーズのひとつ。謎解き、ではあるが、いくつも死体が出てきたり壮大なトリックや陰謀があるわけでなく、家族や友人という小さいコミュニティの関係のもつれや秘密を解いていくシリーズだ。
 失礼を承知で、それでも忌憚のない言い方をすれば、このシリーズは巻によって好き嫌いがはっきりと分かれ

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御本拝読「いきもののすべて」フジモトマサル

 今現在も普通に過去の作品の再版や改版・合本などが新しく出ているから、生きているんだと勘違いしてしまう。あ、そうだ、亡くなっておられるんだ、と気付いてその度に寂しくなる。そんな作家さん・漫画家さんの一人、フジモトマサルさん。ありきたりだが、もっと作品を拝見したかった方だ。
 私は、所謂「シュール」「トガっている」というものを好む人間ではないと思っている。めっちゃベタにコウペンちゃんやシルバニアファ

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御本拝読「新宿二丁目のほがらかな人々」新宿二丁目のほがらかな人々

 ゲイだから○○、というのは、A型だから几帳面とかみずがめ座だからエキセントリックとかいう迷信めいた言説と同じだと思っている。占いは統計学、という論にも一理あるが、基本的には成育歴や職種などの外的要因から成る「個人による」だろう。が、本書が面白くて読みごたえがあるのは、間違いなく本書に出てくる御三方がゲイだから、である。それは、単純に「ゲイだからこう考える」ということではなく、ゲイという性質と付き

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御本拝読「作家超サバイバル術!」中山七里・知念実希人・葉真中顕

 作家の生活や来し方を書いたエッセイや自叙伝は星の数ほどある。そこには大抵、自分の生活習慣や趣味、思い出や主義主張、本人の心や脳の中身を適度にラッピングして読者が読みやすいように書き下してある。もちろん面白いのだけど、実は「モノを書く」という仕事についての話は案外少なくて、本書ではそこのみを抽出してさらりと、しかしかなり真摯に丁寧にさらけ出してくれている。
 当たり前の話っちゃあそうなのだが、まず

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御本拝読「好きになってしまいました」三浦しをん

ばらばらの「好き」

 三浦しをんさんのエッセイ集。ハーバーやVISA等、種類の異なる業界や会社の関連誌に掲載されたエッセイをぎゅっと集めた本書。巻末の初出一覧を見ると、およそ10年間分のたくさんのエッセイを収録。
 テーマや書かれた年は、見事にばらばら。縦にも横にも守備範囲というかトークテーマが広がっており、幅も高さも大変広くて大きい。なのに、ちゃんとまとまっている。最初から最後まで読みきっても

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御本拝読「パッケージデザインのひみつ」公益社団法人日本パッケージデザイン協会監修

包装の向こう側

 市販されているものはほとんど全て、何らかの包装を施されている。紙、プラスチック、特殊な素材や形状、実に様々な包装が店にも家にも溢れている。何の気なしに眺めているそれには、ちゃんと一つ一つ意味がある。
 一時期、シンプルライフに憧れて100均で買える透明なジャーや容器に調味料や食品を全部詰め変えたことがある。確かに同じ容器やガラスで揃えると見た目はすっきりして見えるのだが、品質管

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