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質問096:左利きになおした方がいい?

質問
ペンや文字を書くときは、左ですがテニスは今まで右でやっていました。今高校2年ですが、テニスを左利きになおすのは、やっぱり遅すぎなのでしょうか?

回答


▶現役を引退してから非利き手で練習するプレーヤーもいる

 
遅すぎる、ということはないと思います。
 
実際プロ選手でも、現役を引退してから左右のフィジカルバランスを整える目的で、左手(非利き手)で練習するプレーヤーもなかにはいたりします。
 
コチラでもご紹介しましたが、ゴルフでは片山晋呉プロは生来右利きながら、左利き用であるレフティのクラブセットを使用しても、80台でラウンドできるといいます。

恐らく脳への刺激ともなり、フィジカルバランスを整える以上の恩恵もあずかるでしょう。
 
ですから日常生活でも、支障のない範囲内で食事や皿洗いなどを非利き手でやってみたりするのは、実験として面白いと思います(ただし歯磨きなどはそれだと磨き残しがあるかも知れませんので、シーンに即したバランスしだい)。
 

▶頻度や取り組み方にもよるが、1~2週間もあれば

 
もちろん左打ちにスイッチしたからといって、今すぐ実戦で使えるレベルにはなりにくいとしても、頻度や取り組み方にもよりますけれども、1~2週間もあれば、そこそこ打てるようになると思われます。
 
その理由は、現実に対する正確なイメージを実装したうえで、ボールに集中しさえすれば、体がオートで反応してくれるからです。
 
あとは、今まであまり通っていなかった左手へ、脳からの指令がよく行き届くように神経回路を目覚めさせて情報伝達スピードが速まる反復練習をすれば、右であろうと左であろうと関わりなく、打てるようになります。
 
特にご自身の場合、筆記は左というから、なおさら早いと思います。
  

▶常識的な「フォーム矯正」では逆効果

 
ただし、常識的なフォーム指導、フォーム矯正でスイッチしようとすると、上手くできないでしょうね。
 
たとえば左打ちにした場合、「ストロークは右手をボールに向けて距離感を測ろう!」「スマッシュはロブが上がったらすぐに右手を上にあげる!」などなどでしょうか。
 
片手を上にあげたまま走るのは、運動として不自然ですから、ボールの落下地点へ素早く移動しにくいのです。
 
「片手を上げたまま走ったほうが100メートル走は速くなる!」というのなら試してみるのも手かもしれませんけれども、そのような話は聞いたためしがありません。
 
「形」に囚われるあまり「時間」が犠牲になる。
 
常識的なフォーム指導、フォーム矯正は、利き腕側ですでに「逆効果」が実証済みのはずですから、右打ちであろうと左打ちであろうと関係なく、頭打ちが早くなります。
  

▶時間との競争

 
非利き手へのスイッチにトライする場合、あとは時間との競争だと思います。
 
左利きに直してそのメリットを享受できるレベルに昇り詰めるまで時を待てるか、あるいは右利きのままで今のスタイルを磨き上げたほうが、目標とされているステージに到達する早道かどうか。
 
今高校2年生で、引退したらテニスを辞めるというのであれば、右利きのままやり切るほうが無難かもしれません。
 
「無難」などというと「リスクを取らない弱虫」と言われそうですが、そこはアセスメントして方向性を見極めるのが「本当のチャレンジ」だと私は思っています。
 
何でもがむしゃらにリスクを取ればいいわけではない。

客観的に見極めたうえで、その後も長くテニスを続けるのであれば、どこかでタイミングを見計らって、後述する希少性の高いレフティへ切り替えるのもアリでしょう。

▶苦渋の選択

 
かくいう自分も、元は左利きでした。
 
しかし物心つかないころに親が矯正に励んだらしく、今では日常生活の所作にいくつか左利きだったころの名残りはあるものの、メインは右利きが定着しています。
 
その血を継いだ娘の一人は、左利きです。
 
「将来テニスをやるなら、希少な左利きのままがよかったのに!」と今思えば、親を逆恨む気持ちもなきにしもあらず(!?)ですが、右利き用に多くのインフラが整備され始めたそのころの(今も)社会環境を鑑みると、親も、私の将来を思いやった苦渋の選択だったのだと顧みます。
 
母がもともと左利きのため、彼女もその苦労が身に沁みていたのかも、知れません。
 
普段、右利きで生活しているとあまり気づかないだけで、ハサミやマウスや駅の改札機なども、恐らく基本的には右利き想定なのでしょうね。
 
ギターのタブ譜を読み解くのも大変だろうと慮るし、そもそもギターの構造も、きっと右利き想定ですよね。
 

▶せめぎ合いが始まるとき(笑)


しかし今こそ、マイノリティも生きやすいダイバーシティ(多様性)が求められると思います。
 
食卓の配席も、右利きの右横に左利きが座ると、ヒジとヒジとのせめぎ合いが始まります(笑)。
 
あぁ、そういえば『究極のテニス上達法』が説明している「右脳・左脳」の表現も、左利きの人には逆さになるのでしょうか?

それに気づかないなんて、ほかのだれでもないこの私こそ、多様性への配慮を欠いているのかもしれません。
 
※詳しい方がいらっしゃったら、もしよろしければ教えていただけると助かります!
 

▶ラファが右利きだったら、どんなにやりやすかっただろうか


テニスに話を戻すと、左利きは希少なだけに、相手にとっても、対戦できる場数を踏める経験が右利き相手に比べて相対的にかなり少なくなる。
 
スライスサーブなどは、逆曲がりしてきますからね。
 
回り込んで逆クロスへフォアの強打を打ち込んだとしても、それがまた相手にとってのフォアになる。
 
そうなるともう、1球1球の対応がやりにくいという以前に、戦術からして見直さなければなりません。
 
相手にとって力の入りにくいハイバックボレーへの配球(のつもり)が、打ちごろのスマッシュとして、叩き返されるかもしれないのです。
 
シーンに応じて、いちいち逆に逆に、変換する必要がある。
 
そして、ロジャー・フェデラーは言います。
 
「ラファが右利きだったら、どんなにやりやすかっただろうか」と。

▶テニスの歴史は変わっていた


ラファエル・ナダルが、全盛期とまったく同じレベルのショットが打てて、フィジカルもメンタルもまったく同じだとしても、彼が右利きだったら、テニスの歴史は変わっていたに違いありません。
 
こんなにたくさんものグランドスラムタイトルを獲れなかったかもしれないし、実際のところは分からないけれど、もっと多くのGSタイトルを手中に収めたかもしれません。
 
では、フェデラーが左だったら!?
 
ノバク・ジョコビッチが左だったら!?
 
タラレバですが、想像するだけでもワクワクします。
 

▶イップスのころは左手でプレーした


ちなみにこの話はどこかでした記憶がありますけれども、私がイップスだったころ、よく左手でテニスをプレーしたものです。
 
もちろんパワーは健常な右腕で打っていたころに及びませんが、前か横か上か下か(たまに後ろも?)、どこへボールが飛んでいくか分からないイップスの右より、「発病」していない左のほうが、遥かにコントロールが効くのです。
 
ただし、もしもこの話を参考にしてくださる場合の注意点として、やはり非利き腕は筋力が当初は少なめだから、すぐに打てるようになるからといって調子に乗ってバンバン打ちすぎると、痛めかねません。
 

▶絶対に後悔しない方法


改めまして、自分が生来より左利きのままで、そうだとしたらテニスはどうなったかを想像すると、ワクワクします。
 
だけど、後悔はしていません。
 
それでどうなったかは、ナダルのGSタイトル獲得数が減ったか増えたか分からないのと同じように、逆の人生を経験していない以上、絶対に分からないからです。
 
ですから万事、「ああしておけばよかった」「こうしておけばよかった」という後悔には、何の意味もありません。
  

▶「できない後悔」を手放して今日を生きる


テニスの利き手に限った話ではないのです。
 
「あっちの大学にしておけば……」
 
「あのとき我慢して会社員を続けていたら……」
 
「彼と結婚していたら……」
 
「離婚していなかったら……」
 
逆を経験していない以上、絶対にどうなったかは、分からない。
 
それがあって、今があります。
 
ですから後悔というのは、本当は「できない」ものなのですね。
 
というか、しても何の利もないのです。
 
むしろ、後悔するだけ時間を無駄にし、ストレスを溜めて心をすり減らします。
 
ですから初期仏教では、後悔は「悪」として戒めます。
 
悪にはもともと「下手」というニュアンスが含意されていて、「後悔して生きるなんて、下手(悪)な生き方だよ」と意訳できます。
 
私は、イップスになった過去を、後悔していません。
 
イップスに、なったからこそ受け入れられる悩み苦しみも、なったからこそ分かち合える悲しみも、あると思います。
 
改めまして、右利きでしかできないテニスを今は楽しめていると思って、今日を生きています。

即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero