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【展覧会取材】泉屋博古館


 こんにちは。手のひらに和をです。今回は六本木一丁目の泉屋博古館東京にプロジェクトメンバー4人でお邪魔して来ました!

 泉屋博古館は、江戸時代から続く大阪の商家・住友家が所蔵して来た品物を中心に保存・研究・公開している美術館で、京都・鹿ヶ谷に本館があり、六本木にある東京館はその分館として2002年に開館しました。今回は2/25が最終日となっていた【うるしとともに くらしのなかの漆芸美】という展覧会で主に漆芸品が公開されていました。普段は大学生による取材は受け付けていない様ですが、特別に学芸員による解説を頂きながら見学しました。なお、当記事で取り扱っている写真は、許可を頂いた上で撮影しています。

泉屋博古館東京webサイト(2月23日アクセス)

展示内容

第一展示室

  • 宴のなかの漆芸美

住友家が使っていた漆器

 第一展示室は、住友家がハレの日の宴席で実際に使っていた食器・酒器が展示されていました。客人をもてなそうという主人の意向の沿った漆器類で、物凄い量の漆器が並べられている姿は壮観でした。

扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具から丸盆

 👆名前が長いですが、こちらは能をモチーフにした蒔絵の盆です。名前の通り扇の中のデザインが謡曲に取材しており、伊勢にある阿漕浦の由来として伝わる伝説の【阿漕】や平家物語の【敦盛最期】を題材として新たな世界観が生み出された【敦盛】など15種類が展示されていました。これは住友家15代目の当主住友春翠(しゅんすい)が能を好み、それらをテーマとした会食膳を江戸時代より続く京漆器の老舗・象彦に注文して制作されたものです。春翠はかなりの能好きだったためマイナーな謡曲も題材として使われていた様です。👇は使用されている謡曲の一覧です。

使用されている謡曲の一覧

👇こちらは象彦のHPです。



第二展示室

  • 茶会のなかの漆芸美

  • 香りのなかの漆芸美

  • 檜舞台のうえの漆芸美

香道のセット(吉野山蒔絵十種香箱)

 第二展示室では主に日本の伝統文化である茶道・香道・能楽の道具が展示されていました。👆の写真は香道で使う道具セットですが、学芸員によると数種類の香木を使い、香りの種類を当てるゲームに使用していたとのこと。右下の銀葉盤は菊花形の貝殻を貼り付けたもので、この上にプレパラートの様に薄く雲母でつくられた銀葉を乗せて使い、右上の香札は、組香の答えを出す際に使っていた様です。

武蔵野蒔絵面箪笥
描かれたススキ

 こちらは武蔵野蒔絵面箪笥。ススキと月が描かれた物は武蔵野をイメージさせるらしく、この二つはセットで描かれることが多い様です。また、月を表す銀の円相が箱の下辺ぎりぎりに表されており、観る者に地平線の存在を想起させます。古来、武蔵野は歌枕として月が出入るする山も見当たらないほど茫々たる広がりあるイメージで語り継がれてきており、そのことを想像させる意匠と言えるでしょう。側面のススキはブレが無い綺麗な曲線ですが、1本1本が蒔絵筆で手描きされており、職人技でしか成すことができない美を感じました。また、気になる中身ですが、中には能面と能面袋が入っていました。写真には収めていませんが、鏡を使って能面の裏を見ることができる素晴らしい展示もあり、漆と文化の繋がりを一層感じ取ることが出来ました。前回の記事でも能面の展覧会について記述していますので、そちらも併せてご覧ください。



第三展示室

  • 漆芸の技法ー彫漆・螺鈿・蒔絵

  • 書斎のなかの漆芸美

  • うるしと友に ー漆芸品を贈る

3種類の漆芸品

 漆芸の技法には中国で生まれた彫漆, 日本で発展した蒔絵,中国で生まれ、琉球などの島々を含む周辺国に広がった螺鈿などが有ります。時代とともに漆文化がアジア諸国で広がり、独自に発展して来たことやそれぞれの技法が東アジアの交流圏で互いに影響を及ぼし合ってきたことから、人によっては歴史的かつ地理的な視点で捉えることも出来るでしょう。この第三展示室では、技法に着目した特集がされていました。
 展示室に入って最初に見えるのは①の蒔絵コーナー。緻密な表現がなされた茶箱、香合、文箱などが並んでいました。絵に注目すると、金粉あるいは蒔絵粉を使用して緻密に描かれており、いかにも日本ならではの表現だと感じました。蒔絵の起源は未だ不明ですが、多種多様な蒔絵作品が残されていることから歴史的に日本で発展してきたことが判明しています。漆の歴史と文化については👇の記事で詳しく紹介されていますので、こちらを参照ください。


 お次は貝殻を使用した②の螺鈿コーナー。皆さんは螺鈿がどの様にして加工されているかご存知ですか?螺鈿はアワビや夜光貝などの貝殻を使用して光の反射で様々な色を出す工法です。詳細は東京国立博物館が出している下の動画をご覧ください。

 ③の彫漆は、何層にも塗った漆の層を刀で彫ってレリーフ状に文様を表す漆工技法です。ここでは五本爪の龍が彫られた盆や筆,鎌倉彫の銅鑼掛けが展示されていました。筆者は鎌倉の住民なので何故に鎌倉彫?と思いましたが、鎌倉彫も中国の彫漆を、見た目の上で模倣しようとしたところから始まったということを知り納得しました…。しかし、鎌倉彫には他の漆芸品とは全く異なる特徴を持っています。それは、陰影をつけて古めかしくて奥行のある作品に仕上げるためにイネ科のマコモの茎に付着している黒穂菌を使用していることです。実際に学芸員に質問すると、一般的な彫漆ではそのような過程は無く、また彫漆と鎌倉彫を持ち上げて比較すると、鎌倉彫の方が重たいとの説明が有りました。


 奥へ進むと書斎で使う物として彫漆の盆,蒔絵の文台・硯が展示されていました。

高砂蒔絵硯箱

 👆は高砂蒔絵文台・硯箱のうちの硯箱です。題材となっている「高砂」はとても有名な謡曲で、特に婚姻の場で昔から謡われてきた謡曲なので、ご存じの方は多いかと思われます。老松に鳥居や波,描割の松・付描きの松の葉・彫金した金具片などで繊細な表現がなされており、見所が満載の展示物でした。題材が能の「高砂」なので、内容を知ると更に工芸品を楽しむことが出来るでしょう。以下にあらすじを載せましたので、こちらも併せてご覧ください。


 ぐるっと展示室を回って反対側には贈り物として使われた漆芸品が展示されていました。漆芸品は長持ちする・軽いといった特徴から贈答品として選ばれることが多かった様で、住友コレクションで残っているのは、住友家とお付き合いのあった所から贈られた漆芸品とのこと。


 ここまでは暮らしの中で使用されてきた物、個人の趣味で集められた物、贈答品として贈り・贈られた物を見てきましたが、全体を通して思ったことは、工芸品ひとつから暮らしという身近な場に込められた様々なエピソードを感じ取ることが出来るんだということでした。


第三展示室・第四展示室・ホール

伊万里・染付大皿の美

染付恵比寿大橋文大皿

 本展示は漆芸品がメインでしたが、寄贈された伊万里焼の大皿も同時に展示されていて、これは染付大皿も宴の中で使われて来たアイテムで、宴という共通点から一緒に展示することになったそうです。大皿にどの様な料理が盛り付けられていたかがとても気になりますね。


PJメンバーの質問と学芸員の回答

Q透漆と生漆の違いは何か.
A:生漆をさらに精製したものが透漆.

Q:なぜ大阪の漆器はデザインが派手ではないものを好んだのか.
A:幕末維新の動乱によって焼野原となり、街の復興において新しいものを求める気運が高まった京都に対し, 大阪の風土は保守的だったため, 昔ながらの伝統的なデザインのものを好んだ.

Q:作家さんが工芸品に描く模様や絵は多くの場合,何の影響を受けているのか?描かれたものに関して,作者はその意味をどこかに記載しているのか?
A:特定の作品を指さない限り,「○○の影響を受けている」と言うことはできないが,ほとんどの場合,何らかの先行するものに影響を受けていると言える。例えば,図案集や同ジャンルの完成品などが挙げられる。一方で,絵画や染色などの別ジャンルから影響を受けている場合や,文学や音楽がインスピレーションを与えたことも考えられる。
作品の意味・解釈を作者自ら記入することは無い。そのうえ,現代美術と異なり,古美術の世界では「必ずしも作者が作品に作品名を与えるわけではない」という特徴がある。作品の持ち主ですらない,後に作品を見た人が命名することもよくある話であり,またその後に解釈が変更され,名前が変えられることも珍しくない。しかし,その作品名には名付け人の解釈が反映されていると考えられるため,箱などに書かれた作品名はその作品がどのように鑑賞され,解釈されたのか窺い知る重要な資料となる。
インスピレーションのもととなった作品が存在すると仮定し,作品名を始めとして,解釈し追い求めることは人文科学分野の一領域の基本姿勢の1つとなっている。

Q:蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱の側面についている金具の役割は?
A:装飾,あるいは紐を結びつける用ではないか

Q:螺鈿を施す際,螺鈿を固着させるために漆の塗り重ね,その後,螺鈿の上にある漆の塗膜のみを取り除くとあるが,どのように取り除くのか?全体が漆で黒くなっている状態で螺鈿をつけていない部分とどのように見分けるのか?
A:ぺりぺりと剥すように取り除く。漆も螺鈿を完全に覆う訳ではないので,微かに螺鈿が透けている部分を選んで剥ぎ取る。そのため,このような技法が用いられた細工は螺鈿の部分が少し凹んでいる。象嵌のようにあらかじめ貝殻を求めている形に切り取って張り付ける方法もあるが,形の調整が難しいという面もあるので,両方法を組み合わせて一作品が作られる。

Q:彫漆に機能的なメリットはあるのか?
A:贅沢な装飾性が圧倒的な「機能的なメリット」と言える。それ以外ならば木に比べて軽量なこと。彫漆部分を木を彫って作ろうとするともっと重くなってしまうところを,彫漆ならば軽いままで抑えることができる。

Q:螺鈿で使う貝殻はどのように取り出されているのか?
A:砥石で削り出したり(摺貝法)、貝を煮込んで剥離させる手法(煮貝法)が用いられている。手作業で小刀で切り抜いたり、鏨(たがね)で打ち抜いたりして取り出していたが,その後塩酸を使うようになったことで、 厚さ0.1mmほどの薄貝を作り出すバリエーションが増えた。貝殻の面積が大きければ取り出せる真珠層も大きくなり、また貝の種類によって真珠層の輝き方が異なる。カラフルな光を放つ真珠層を持つだけでなく大型であったヤコウ貝は人気を集めたとか。

Q:毛彫はどんな手法のことを指すのか?
A:”毛彫”という名前から、削ったりして彫っているイメージを持ちがちだが、貝殻に細く線を彫り出すことで模様を出す手法。

Q: 展示物からどの様なことを感じ取って欲しいか?
A: 様々な見方があるため、それぞれの人に合った見方をして欲しい。
 ➤作品が使われている場面・作品に用いられている技法・描かれている内容とその背景や元となっている文学や美術作品に着目し、蒔絵作品と日本文学作品は切っても切り離せない関係であるということ。自分に一番響く視点から漆芸品を見つめ直してほしい。


PJメンバーの感想

M.K 
 今回の企画展で私が最初に感じたことは「モチーフがかわいい」ということである。落ち着いた,少し格式の高さも感じさせる美術館でなぜ?と思う方もいらっしゃるかもしれない。しかしながら,私は今まで訪れた伝統工芸展の中で1位2位を争うほど展示物が親しみやすく,知識の少ない学生でもそれぞれの楽しみ方ができる展覧会だと感じた。まさしく「くらしのなか」が体現された内容であった。 例えば,展示物のジャンルが挙げられる。今回取り扱われていたものには「文房具」や「趣味の道具」など,「使っている場面」を想像しやすいものだった。もちろん触れることはできないのだが,四季折々の草花や蝶,動物がモチーフとして描かれた漆芸品は思わず自分が使う場面を想像してしまうほど魅力的である。「蒔絵」や「螺鈿」,「彫漆」などの技法を使って描かれるもの,と聞くと,私たちに馴染みのない,なんだか高尚なものが題材になるのだろうなぁと思いがちだが,決してそうではなかった点が印象的だった。作品キャプションの冒頭を飾る,粋な一言をヒントに展示物を観察すると,私たち日本人が普段楽しんでいる自然が表情豊かに道具の360度を飾っていることが分かる。その美しさ,かわいらしさは私たちのような若い人にも刺さるものであった。特に,文学や謡曲など古い演目を掘り起こし,それを漆芸品の「元ネタ」として使う点は,漫画やアニメなど物語作品のグッズ制作,二次創作の文化にも繋がっているように感じ,以前よりも身近な存在として関わることができると思った。また,香道など,伝統工芸を入口に他の文化を学ぶことができた点も大きかったと感じる。
加えて,今回の展示会では漆芸品の説明,紹介だけに留まらず,その技法についても展示があり,取材させていただいた内容も含めて,大変勉強になった。特に私は螺鈿に関して以前から疑問に思っている点がいくつかあり,キャプションや取材をさせていただく中で発見が多くあった。特に,貝殻の厚さによって加工の方法や見た目が異なる点,貝殻ごとに螺鈿として使える面積が大きく変わってくる点などは好奇心を存分に満たしてくれた。さらに,本展示のおかげで,私は漆芸品が「どのように作られるのか」だけではなく「どのような経緯で制作されたか」という視点を持つことができた。そのきっかけとして,「椿の棗」の制作内容に関する確認用紙が掛け軸となり,実物とともに展示されていたことが挙げられる。かつて使われていた道具がぽっと突然出現したものと思っていたわけではないが,作られるまでの具体的な経緯を目にしたのは初めてだったので,かなりの衝撃とときめきを覚えた。好きな作品の絵コンテを見た時の感覚に似ているかもしれない。実際,このようなものが残っていることは珍しいケースであり,イラストでイメージを共有するものは貴重だそうだ。
その他にも,焼き物にはユニークにデフォルメされた人物・動物が描かれていたりと,学生の私でも様々な視点で楽しめる展示会であった。技法や作品の背景について学べたことはもちろんだが,香道を始め,今まで縁のなかった文化に興味を持つこともできた。そして何よりも,普段は学生の取材登録をされていない中,私たちが取材を通して疑問に思ったことについてお答えいただき,多くのお話をしてくださった学芸員の方々に心より御礼申し上げたい。

C.C
 私たちの生活に沿った展示で、とても見やすく理解しやすかったです。 今まで工芸品などの企画展は、終始「よくわからない」で終わっていましたが、今回は身近な食器から始まり、素人目にも漆の良さ、面白さを感じられて楽しかったというのが最初の感想です。文具や香道、贈り物などにも分類して展示されていてたりして、「伝統工芸品を使っていた人たちも我々と同じような生活をしていたんだ」「その生活の中にこの艷やかな漆があったんだ」と何度も感じました。 漆の使い方によって、蒔絵、彫漆、螺鈿の3つに分類されていて、それぞれがわかりやすく解説されていたり、国や地域ごとの違いも見られたりして、新たに知ることも多かったです。
今までこのプロジェクトの一環で様々な工芸品に触れる機会を頂いていましたが、展示などでは終始「よくわからない」なんてこともありましたし、自分は良さを適切な方向から味わえていないと感じていました。 しかし今回の展示会は、私たちの生活に沿った展示で、イメージがしやすく、とても見やすかったです。 身近な食器から始まり、素人目にも漆の良さ、面白さを感じられて楽しかったというのが最初の感想です。文具や香道、贈り物などにも分類して展示されていてたりして、「伝統工芸品を使っていた人たちも我々と同じような生活をしていたんだ」「その生活の中にこの艷やかな漆があったんだ」と何度も感じました。 漆の使い方によって、蒔絵、彫漆、螺鈿の3つに分類されていて、それぞれがわかりやすく解説されていたり、国や地域ごとの違いも見られたりして、新たに多くの興味深い知識も得られました。 個人的には螺鈿がとてもキラキラしてわかりやすく鮮やかで、とても好きでした(( 国や地域の植生により発展した手法が異なっていることなどを知れたりして、時代や文化は全て繋がっているんだなぁと当たり前のことを感じたりもしました。 また、制作者がどんなつもりで描いたのかわからない、現代人が推測するしかないというのも、ロマンがあって素敵だなと思いました。

N.S
 暮らしの中で使用されてきた漆芸品に焦点を当てた展示は、大変意義のあるもので、住友家が所蔵して来た豪華なお膳セットや文具,箪笥などの生活の中に感じられる歴史を垣間見ることが出来てとても良かったです。また、漆芸品は彫漆,螺鈿,蒔絵の3つに分類して展示されていて、時代的・地理的に感じやすい展示でした。1度訪れていましたが、学芸員による解説や展示で浮かんだ質問に対する答えを聞けることは滅多にないので大変意義のある機会でした。大学生による取材は普段受付ていないとのことでしたが、今回は私どもに貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました。
作品のネタになっている物は、これまでに見てきた物と結びついていて、このネタは何処どこでこんなのを見たなと思い出しながら見ていたので、新たな解釈が出来たし、質問でお聴きした「展示を見て何を感じ取って欲しいか」は、学芸員課程を履修していたからこそ聞きたかった物だったので、答えとしてお聴きした「作品が使用した場面作り方ネタ」を他の人にも感じ取って貰えるように記事を書き、発信していくと共に自身も注意して様々な博物館で展示物を見て考えたいと思いました。

S.D
 今まで, 自分自身が煌びやかな漆器を自主的に見にいくことが無かったため, とても有意義な時間になった. また実際に展示物を見て, それに関する説明や, ふと感じた疑問をその場で学芸スタッフの方にお聞きできると言う事は滅多にない機会であった. 対応して頂いた学芸スタッフの皆様, 貴重なお時間をありがとうございました.
 さて, 展示内容についての感想を書いていこうと思う. どうしても骨董品のような手の届きづらいモノのように捉えられてしまいがちな漆芸品が, 暮らしの中での使用というところに着眼され展示されているため, 非常に身近に感じることができた. また, 蒔絵や螺鈿, 彫漆といった漆芸品の展示はなかなか見られる機会が多くなく, その解説までしっかり聞いて読んで学ぶことができ, 新たな気づきを多く得ることができた. 個人的に染付大皿にも大変興味があり, じっくり見るることができて大変満足だった. 私は漆器や陶磁器の高価・貴重なものと安価・大量生産品の違いはパッと見た時になんとなく判断することができる. もちろんそれは祖父の影響もあるのだが, その判断の基準や根拠といったものは感覚に頼っている部分がほとんどで, 言語化するのがとても難しく曖昧であった. ただ今回の展示物を見たときに, 良い意味での模様の不均等さや線の細かなブレ. 焼き色や染め色の鮮やかさや濃淡を見ることができた. 手で作るからこその良さや, 時代を感じる雰囲気. 大量生産では出せない味といったものを強く感じることができ, こういった部分が自分の中で判断する基準の感覚なんだなと思った.
 漆器職人の祖父がいるから当たり前に日常にある漆器. 現代では中々馴染みが薄れてきていると説明がある度に, 少し寂しい気持ちになる自分がいる. ただそれは事実であり, こうした展示会があるからこそ, また再注目されたり新しくこの漆芸に興味を持たれる方もいるかもしれない. 自分自身もこういった衰退していく伝統工藝に対し, 誰かが興味を持つきっかけ作りになるような, そんな活動をこれからもこのプロジェクトで行って行けたら良いなと改めて感じることができた時間だった.

おわりに

 今回の取材は、pjメンバーによる個人的な訪問に始まり、縁が有って学芸スタッフにお伺いすることが出来る運びとなりました。取材にあたり時間調整をして頂いた関係者の皆様、この場を借りまして深くお礼申し上げます。
 また、本文に記載した通り、工芸品の見方は様々であるため、来館者それぞれに見合った見方を探してみては如何でしょうか?作品の場面・作り方・題材に着目すれば、この記事を読まれている貴方もきっと新しい気付きを得ることが出来るでしょう。


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