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泰安洋行 〜ヨーロッパの旅〜 2


アルプスの真ん中


北に来るに連れてめきめき寒くなってきた。
標高も高いのかもしれない。
もうさすがにバルコニーでだらだらできないくらいには寒い。

オーストリアのインスブルックという街にいる。
チロル地方というところ。
ぐるりをアルプス山脈に囲まれた静かな都市だ。

一粒数センチありそうな羽毛みたいな軽い雪が舞っている。
ドット柄の街みたいですごい綺麗。


オーストリアに入って、きっとこれがドイツの空気感なんだろうなあってノリに変わった。
ワインからビールになったしね。

昨日まで旅してきたイタリアと比べるといくらか静かだし街並みもがらんとしてる。

毎日近所の景色や空気が変わるのはおもしろい。

ここまで、
アブダビからローマに飛んで、バチカン含めイタリア。
そしてオーストリア、インスブルック。

これから鉄道に乗って、ドイツ、ミュンヘンへ。

ひとまずここまで来ることができた。
旅の第二章突入味がつよい。

インスブルックの駅前でビール瓶片手に煙草を吸ってたメンヘラ女子




ミュンヘンの朝

白いのがヴァイスヴルスト
皮を剥いて、ミートソースみたいな色をした甘いマスタードを付けて食べる。


青空マーケットでブレックファースト

この前までブリオッシュとエスプレッソだった朝の定番はヴルストとビールに変わった。


バイエルン州でしか食べられない名物、ヴァイスヴルストは鮮度が命。

朝に仕込まれたヴルストは、
"教会の正午の鐘を聞くことを許さない" と言われていて、
ブレックファーストか午前中のスナックとして
ヴァイスヴルストを食べるのがミュンヘンスタイルらしい。

何事も鮮度が命。
思ったときがやるとき。
やった後のことはやった後に考えればいい。

今こそ愛のうたを歌え


国が変わるとまるっきり勝手も違う。

なんとなくがらんとした都市ミュンヘン。

このタイミングはバールなのになあ、ジェラートなのになあ、とイタリアを当てがうのはアンクール。

受動的かつ能動的な旅よ。

ドイツにはドイツの快適に過ごすコツがあるだろう。
旅はそれを探すことに忙しい。





Paint It Blue



野良犬は吠えるけどキャラバンは続く。
冷めたコーヒー。キャロルキング。

今日の空はまるで全てを知ったような顔をしてるけど
おれはそんなことに気がつかないような振りをして、手持ち無沙汰の煙草に火をつける。

匂いのないこの街では、あまり美味しくない安煙草で充分だ。



物を言わずに地図を切り裂く空色の列車。
一人、ずいぶん遠くまで来た気がする。

あんたはおれの兄弟みたいなもんだろう。
それだけでなにひとつ、
深刻なことなんてなにひとつないだろう。

ましてここが世界の果てでもあるまいし。


" Excuse me, while I kiss the sky "

フランクフルト
マイン川にかかる鉄の橋から



フランクフルトの夜は更けて

あえてフルネームで呼びたい街、
フランクフルト・アム・マイン。

黒人系移民街にある安宿が今日のおれの家。
久しぶりの個室。

好きな時に煙草を吸って、ワインをちびちび飲む。誰にも気を使わない。
いい夜だなあ。

窓からいろいろな人の生活が見える。
表のケバブ屋かなんかからパンジャビな音楽が聞こえてくる。
雑多なビル。

一瞬、今どこにいるのかわからなくなる。

宿から一歩外へ出ると、
ポリスがパトロールするその横で、
そんなのお構いなしに、腕を注射器をブッ刺してる人や、永遠にフリーズしちゃってるおじさん。
体中からあらゆる液体を垂れ流しうずくまってる女の人が、いつでも街中にうじゃうじゃいて、まるでゾンビ映画。

彼らは今日までどんな日々を送ってきたんだろう。

歯のないおばさんにライターを貸したら、
その火で銀紙の上に乗せたケミカルなものを炙って、その空気を思いっきり吸い込むと全身を痙攣させながら両手を広げて、
なんとも気持ち良さそうに笑ってた。

その時の笑顔があまりにも幸せそうで、なぜかおもしろくなっちゃったんだよな。
そんなもの数時間も保たない幸せだってわかってるけど。

いいからいつまでもへらへら笑ってないで、ポケットに入れたおれのライター返せよ。


ドイツってまあまあイメージ通りの空気だなあ。
ネガティブなことではなく、
イタリアよりも少し整然としてて、
本当にビールとソーセージばっかりだし。


実際に来て答え合わせ。

イメージ通りなのも"リアル"になるし、
全然イメージひっくり返されちゃうのもまた"リアル"。

とにかく自分の足で歩いて感じたことこそが本当のこと。
自分の体で感じたことがすべて。




雨のアムステルダム


雨のアムステルダム。
イカした街は、こんなのもまた、いい。

観光の中心エリアの川沿いには、
赤いショーケースに入った売り物の女が、
ランジェリー姿でセクシーなダンスをしながら手招きしているし、
そこら中のコーヒーショップからはいつもウィードの匂いがしてくる。


いかがわしいものが集まっているみたいだけど、あくまでも風通しがいい。

観光客のおばちゃんたちが売春婦面白がって見ているし、
この国では合法のウィードは、仕事終わりのサラリーマンみたいなおじさんが、チルタイムにコーヒーと一緒に嗜んでいる。


売春婦も大麻も博物館がある。
アムステルダムはそんなカオスが健全に共存する観光地。


こっちが勝手に抱いていたイメージの"いかがわしさ"は、後ろめたさみたいなものがないと生まれないのかも。

「煙草1本ちょうだい。」ってお姉さんに
「いいよ。じゃあお姉さん、写真撮らせて。」


風のロッテルダム


ロッテルダムは一日、雨が降ったり止んだりだ。

表に煙草を吸いに出る。

宿の目の前にある"ヴェルヴェット"って名前のレコード屋は夜9時近くなってもまだ開いてる。

殺伐としたドミトリー。
旅行者っぽい人はほとんどいないけど、
みんな何者なんだろう。

一晩20ユーロのベッド。
この街のレストランでのランチ一回分くらいだろうか。

すっとした街でドロっとした夜を過ごすことは、
きっと悪くはないのかもしれない。
ただ、なんだかんだ育ちがいいおれは
やっぱり寝る前くらい一人で、気ままに過ごしたい。



ハイウェイ


バスはただひたすらにハイウェイを走ってる。

やっぱり貧乏旅には格安バスでの移動が付き物で、
電車よりも少し時間がかかること以外は、
とにかく値段も安いし、そんなに悪くない。

バスはオランダからベルギーに入ったみたい。
景色は相変わらず。
広い原っぱの向こうに風力発電の風車が等間隔に並んでる。

今、ここがどこだかわからないし、
言葉が通じる人は誰一人いないけど、
なんとなく心が安らいでいる。

旅をしていると要らないものが多すぎることに気がつく。

日常にも旅のフィーリングを適用しちゃうんだけど、
荷物の多さ=腰の重さ

いつでもどこにでも動けるように、
本当に大切なものだけをしっかりと捕まえられるように。
必要のないものを捨てる覚悟。


グランプラスでフリットを

おいおいブリュッセル。
めちゃくちゃかっこいい街だなあ。

それに久しぶりに少しだけイタリアを感じる。
ナポリのカジュアルさとフィレンツェのかっこよさのいいとこどり、みたいな街。

ベルギーに入った途端にポテトがめちゃ美味い。

もうしょんべん小僧とかどうでもよくなるくらいにクールな街だ。
それなのにゴキゲンでイカれた人が多いのがサイコー。

通り道だし、一応寄っとくかってテンションで来たブリュッセル。

ほんと来てみないとわかんないよなあ。

なんだってやっちゃったやつが優勝


ブリュッセルで一文無し


昼過ぎのグランプラス。
おれは今世界で一番美しいと言われる広場で途方にくれてみてる。

手には1袋のポテトチップスとシュウェップス。ポケットには2.8ユーロばかりのコイン。
これがおれの全財産。



今朝、ホステルで財布を盗まれて、
おれの旅の終わりは急にやってきた。

盗まれるものを盗まれて、今はどこか身軽な気分だ。
お洒落なレストランや、美しい市庁舎の前で写真を撮るたくさんの観光客の横で、
ぼーっとしゃがみこんでポテチ食べてるだけで、どこか少し自由な気持ちになれた気がした。

だって、ランチはどこで食べよう、とか夕方はなにして過ごそう、とか考えなくていい。
なにをするお金もないんだから。

途方に暮れてみる、って時点でどこか深刻じゃないんだろうなあ。

もちろんそれとは別に物理的には超不自由だし、とても悲しい。

予定では明日にはパリ。その後リヨン。
それからバルセロナ、そしてアンダルシア地方からポルトガルまで周ってパリに戻る。
そこからユーロスターで夢のロンドン。リバプールへ。
と、まだまだこれからの旅が強制終了。


お金が盗まれた、ということよりもこんなにサイコーであろうこれからの旅がそっくり盗まれたこと、
そんなことを想像する余裕もなく盗むことができる人がいること、がめちゃくちゃ悲しい。

こんなことになるまで全く実感はしなかったけど、ヨーロッパから帰りたくなさすぎる。

すぐにでもお金を工面して、もう一回戻ってこなきゃ。旅を完走したい。

だから残念というよりは一回東京に帰るって、
すごくめんどくさいことになったなあという感じ。


お金もやることもなく、街をほっつき歩く。

こんな状況のおれにもジプシーはお金をせびってくる。

「ご飯が食べたい。」というジャスチャーをしながら手のひらを差し出してくるので、

「おれは財布を盗まれて、いま全財産はこれだけ!おれだって一緒だよ。何か食べたいよ!」と言うと、
同情はおろか、呆れたような顔をして行ってしまう。


2.8ユーロって言うと、400円くらい。
ぎりぎりコーラが買えて、それで終わりくらい。
おれは今ブリュッセルで一番お金がない人だろう。


ワッフル屋の前でアイスクリームにチョコレートソースたっぷりのワッフルに齧り付く子供。一口くれないかなあ。

ブリュッセルといえばワッフル。
この街に来た旅行者でワッフルを食べないで帰るのは、後にも先にもおれくらいだろう。




嫌なことは続く。

ホステルの前で煙草吸ってたら
いきなり抱きついてきてスマホパクってきたやつもいた。

「お前スマホとったろ?もうまじで勘弁して。(もう日本語)」

抱きついたままとぼける奴をホールド。
ホステルの兄ちゃんに助けを求める。


あまりにも暴れるので奴のジャンパーが裂ける。
ホステルの兄ちゃんが走ってくると、奴はおれにスマホを差し出してどっかいった。

スマホまで盗られたらいよいよ一人、ブリュッセルで路頭に迷えってことかよ。



夕方、腹を空かせて歩いていたら
ベーカリーのおじさんと目が合った。
挨拶をされたので、返事をしながら恐る恐る店に入る。

「あのー、今朝財布を盗まれてお金がなくて、なんでもいいから食べ物をもらえませんか?」と小声で尋ねると、
おじさんは無言でパンを2つ入れた紙袋をポンとカウンターに投げた。


見知らぬ誰かに助けてもらった。
見知らぬ誰かを助けてくれた。

バスの乗り方を教えてもらうとか、ホテルの場所を教えてもらうとか、
旅をしていると毎日、
誰かに "手伝ってもらう" ことは数えきれないくらいある。

でも幸い、今まで旅でお金や、食べるものに困るようなトラブルはなかった。
だからそんな、人に物を乞うということ。
そんな気持ちが新鮮だった。

こんな状況にならなければ感じることのなかった"人のまごころ"に、今日がいい日だったとも少し思えた。

陽の落ちてきた道端で一人、パンを齧りながら少し涙が溢れそうになった。



ホステルの兄ちゃん。

「2ユーロしか持ってないけど、これでエアポート行く方法ないよね?笑」

「うーん、それは無理ですねえ。。。」

「だよね。まあ大丈夫!頑張って歩いていくわ。」
とか言ってたら、

「それはだめだ。私がチケットを買います。」ってソッコーで電車のチケットを取ってくれた。


スマホ取られかけたときも、彼はまずおれに謝った。

「ごめんなさい。ここは日本みたいには安全ではないけど、気をつけて旅をすれば、とてもいい街です。」

当たり前だけど、ナニジンでもどんな街にもいい奴も悪い奴もいる。

ただ、悪い奴のせいで自分の街や国を嫌いになって欲しくないよな。

おれも、楽しいことしたいってはるばる日本に来た人たちが、
自分の国で悲しい思いしたって知ったら、想像するだけでも胸が痛いし、絶対謝っちゃうと思う。
なんなら美味しいご飯をご馳走して励ましてあげたいくらいだし、そのくらいの責任を感じてしまう。

ホステルの兄ちゃんは自然に人を思い遣って行動してくれた、とてもホットな人だ。

サイテーなことが起きたブリュッセル。
だけどトラブルとは別に、ブリュッセルはめちゃくちゃイカした街だし、また来たいとすら思ってる。

そう思えるのは街が楽しげなこと、名物のワッフルを食べ損ねたことだけじゃなく、
パンをくれたおっさんや、チケット買ってくれた兄ちゃんがいたから、かもしれない。

他人のちょっとした言葉や態度で、
なんとなく嬉しくなったり、なせがハッピーになったりする。

自分がそうだからこそ、どんな時にも愛を持って人と接したいし、ただ自分が思う美しい行動をしていくだけ。

腹を空かせた訳のわからない外国人に、
パンをくれたおっさん、電車のチケットを買ってくれた兄ちゃん。

当たり前のように美しい心を持った人たちは、
みんなお願いだからいつだって幸せであってくれ。

愛すべきバカになれ



イタリア、ローマから入って南へ、サレルノ、ナポリ。
そこから北上してフィレンツェ、ボローニャ、ヴェネツィア。

オーストリアはインスブルック。
アルプス山脈を抜けてドイツへ。ミュンヘン、フランクフルト、ケルン。

オランダはアムステルダム、ロッテルダム、
そこからベルギーのブリュッセル。

次はいよいよパリへ。
フランスの旅が始まろうってタイミングでの強制終了。

ローマからスタートしてちょうど3週間。
ここまでやれたこともラッキーだとは思うけど、
ここで終わりにしてみても、この旅を終えれない。

ここで中断してしまったけど、なんとか早く戻ってきて旅を再開したい。

できるだけ旅が新鮮なうちに、なんとかしてパリに戻ってこよう。

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