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『上流階級 富久丸百貨店外商部』(高殿 円 著)

【内容】
デパートの優良顧客専門部門である外商部で働くこととなったバツイチ女性、静緒の奮戦記。

※多少ネタバレします。

【感想】
日本の富裕層とその相手とするデパートの外商部についての話…
普段の自分には相当縁遠い世界の話なので、楽しめるか不安でしたが、実際に読み始めると、情景が生き生きと描かれていて、すいすい読むことが出来ました。

デパートの外商員とは、デパートに所属しながら、基本デパート内では商売しない販売員…しかし、デパートの利益の3割を叩き出し、経営を支える精鋭達。
高額商品がやり取りされるその現場では、様々な無理難題や、欲望や嫉妬が渦巻いている様がよく描かれていました。
社会状況なども話に沿って自然と説明されているのも良いなあと…
職業ものの小説は、こうした報道番組やドキュメンタリーを観ているような視点から、社会を眺めることが出来るのも、魅力の一つだと思います。
この小説自体初めて触れたのですが、以前竹内結子主演でスペシャルテレビドラマ化もされていたみたいです。斎藤工や竹中直人、田中哲司などかなり豪華なキャストのドラマだったようで、あわよくば人気ドラマシリーズとかを狙っていたのかも知れないなあと思ったりしました。

まあ、ネタの出し惜しみしない素早い展開と豊富さ…
ドラマや映画化の話が色々とあったんだろうなあと…

現実に取材したと思われる豊富でリアリティーのある面白いエピソードや、濃いキャラクターと、会話の軽妙さ…
小説の終わりの方で出てくるエピソードで、タイ系華僑の顧客の急な死による葬式のシーンなど、かなり調べているはずなのに、そこら辺の描写はサラッと終えて…そこで狙いすましたように今まで仕込んできた人間ドラマのための仕掛けを発動(?)させたりしていたりして、上手いなあと…

この場面以外にも、かなり盛り上がると思われるような場面も、バンバン省いて、外商部の仕事や静緒の人間ドラマに焦点をあてることで、グイグイ読者を引っ張っていました。


情報度の高い説明ゼリフは、濃いキャラが考えられたシュチュエーションでエモーショナルな台詞に落とし込んでいるのとか…
まあ脚本の基本と言えば基本だとは思いますが、そこら辺のことをかなり緻密に考えて描いているのが伝わって来ました。

『小説宝石』で連載していたということもあり、あくまでも気楽に読めるエンタメ小説に徹しつつも、週刊誌のルポや、力作のテレビドキュメンタリーを観ているような気持ちで楽しめた作品でした。

https://www.shogakukan.co.jp/books/09406661

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