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『板上に咲く-MUNAKATA:Beyond Van Gogh』(原田マハ 著)

※ネタバレ(?)します。

【内容】
版画家の棟方志功が、極貧状態から世界的な名声を得るまでを、妻からの視点で描く。


【感想】
この間まで開催されていた棟方志功の回顧展を観に行って、棟方本人のことが気になっていたので読んでみることに…

今とは比べ物にならないような過酷な状況下で、画家を目指した棟方は、貧困と弱視に悩ませながらも、忍耐と様々な幸運に恵まれ、世界のムナカタになっていくという成功譚を、しっかりとした構成と文章でまとめた作品だと感じました。
妻の視点という構造をうまく利用して、テンポよく棟方の人生を編集して、わかりやすく提示していました。
東北弁を喋る東北の貧しい家庭で育った泥臭いキャラクターを描いているし、かなり苦しい状況を描いていながら、変にエモーションナルにしたりせずに淡々とした筆致で書くことで、読みやすく、物語にも入り込みやすく感じました。

それから、棟方の活躍やその後の作品作りに、民藝運動の提唱者であった柳宗悦の影響が大きかったことも、よくわかりました。
そもそも、柳宗悦が出版していた文藝雑誌『白樺』で、当時そこまで評価の固まっていなかったゴッホの絵のヒマワリを紹介したところから、棟方が画家を目指す訳で…
(というか、そもそも日本の芸術家達に与えた影響も大きかったのでしょうし)

そう考えると柳宗悦が、その後の日本の現代アートからデザイン分野まで、多大な影響を与えた人物であったということを、改めて感じることが出来ました。
評論や展示などでなんとなくは知っていましたが、ストーリーとして読むとよくわかりますね。
柳宗悦の作った日本民藝館に久しぶりに行ってみたくなりました。

小説終わり近く、空襲の東京からの直後に、帰って来た妻と棟方志功が再会の場面は、この小説の山場ともなっていて、このシーンに辿り着くために、書かれた小説だったようにも感じました。
棟方と妻とのドラマを描くことで、棟方の人間性と作品世界を描き出していくという選択をしたことによってしか描けない物語になったのだと感じました。
太陽である棟方と、その太陽を追うヒマワリである妻…そんな比喩表現を読みながら、こうした表現は小説ならではの表現だなと感じたりしました。
ゴッホが棟方の太陽だったように、いつしか棟方が妻や他の誰かの太陽になっていく…

題名の『板上に咲く-MUNAKATA:Beyond Van Gogh』は、その先の棟方を指し示したものとして、循環構造として完結するのだと思いました。
『板上に咲く』、版画という表現を昇華させて芸術の花を咲かせる…
つまり、ゴッホのヒマワリを超えた表現であったのだということを意図したタイトルなのでしょうね。
そのロジックでいくと題名を『ヒマワリ』にするとかってパターンもあったような気もしますが…筆者としては、ゴッホを目指し、それを超えた存在となったということを言いたかったということだと感じました。

そうやって考えていくと、もっとヒマワリというモチーフを小説のてーまとして使って、描き切るという書き方も出来たのかもしれないたとも感じましたが…
小説としてくどくなると判断したとか、あるいはある程度書き上げた後、妻との再会シーンを書き上げたということなのか…どうだったのかなあということが、気になったりしました。

https://www.gentosha.co.jp/s/bansaku/

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