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織機の音、胸の高鳴り  「翔工房日記」

他にも書きたい記事はあるが、とにかくこの興奮を留めておきたい。


朝寝坊な今日、朝食の後片付けを始めようかとぼんやりしていた時、足立さんからの着信があったことに気が付いた。すぐに掛け直したところ、「今から織りつけをやる」とのこと。自分の生地が織り上げられるところなんて絶対に見逃すわけにはいかない。と、慌てて私は寝ぼけ眼のまま機屋さんへと車をとばした。

到着すると既に0.5mばかり織りが進んでいた。
(やばい…自分の為に布が織られている…ションヘル織機が動いている…)
とその時点で興奮し口元が緩ませながら足立さんと機屋のおばちゃんに挨拶をする。


緯糸の様子を確認してくれとのことだったが、うーん確かになんだかしっくりこない。クリーム色とブルーの糸を候補にしていたが、色見本で見ていた時と織った時ではやはり様子が違うことを痛感した。折角糸の準備もしてあるところに言うのは気が引けたが、妥協はしたくないという想いから、別のブルーの色の糸を使いたいと申し出た。


足立さんと共に事務所へと向かい、山のように布や糸がストックされている倉庫の中で糸を探した。ブルー…ブルー…と二人して呟きながら探し回る。足立さんが1つの候補を見つけた後、私は絣の糸を見つけた。紺から白のグラデーションが美しいそれを織りつけてもらうと、見事なほどしっくりときた。グランドの色とも相性がよく、一発でその絣の糸を緯糸にして織り上げることが決まった。


私が織ってもらうテキスタイルのソースは、葛飾北斎の描く「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。北斎ブルーの深い美しさを表現するには色は非常に重要である。グランドの紺と青、そして絣の紺から白のグラデーションと生成りは、自分のイメージを遥かに超える北斎の描く波そのものだった。それはまるで、織機に海が広がったようだった


自分の考えたテキスタイルが匠たちによって形を成して生まれる瞬間に立ち会えたことは、言葉には出来ない衝撃と感動に他ならなかった。
ションヘル織機が布を織る速さは人間の心拍数と同じだというが、あの時の私の鼓動はきっとそれを超えていただろう。

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