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私の読書日記~『雨月物語』:2021/10/12

今日もまたメモ書きのような読書日記。

上田秋成『雨月物語』

ひさびさに『雨月物語』を読んでみた。驚嘆するのは、ジャンルの広さである。恋愛物もあれば滑稽話もあり、仏教説話のような物語や、能の演目になりそうな話もある。一人の作家がこれだけ多様な話を書くというのは珍しいことかもしれない。

「青頭巾」

特に「青頭巾」は面白かった。筋としては現代でも通じるものがあるように思う。美少年に、カニバリズム……澁澤龍彦の世界に繋がっているのではないか、とも感じさせる。

「青頭巾」のあらすじ
美少年の死を儚み、遺体が朽ちることを惜しんだ高僧が、彼の肉体を喰らうことによって食人鬼になる。快庵和尚がその食人鬼(元・高僧)から直接話を聴くことによって、彼を調伏する。成仏した後、遺ったのは骨と生前に彼がかぶっていた青頭巾のみであった。

耽美の雰囲気が偉大な文筆家・上田秋成によって綴られる、というのは贅沢なことである。内容を鑑みるに、古典の教科書には載せられない。が、それゆえに秘められたような気がして、興味をそそる。

「貧福論」

また、「貧福論」も視点や書き方として面白いものがある。ふつう、歴史小説では、偉人の人格や人生観、道徳観、対人関係の妙といった要素に焦点があてられる。そして、経済観や金銭感覚といったものは、書かれはするものの、脇に置かれてしまう。

だが「貧福論」では、武将の金銭感覚そのものを話題にしている。黄金の精霊という存在が登場して、織田信長や上杉謙信などの経済観・金銭感覚をアレコレ評するのだ。

「貧福論」のあらすじ
倹約に努める(ケチな)武士・岡左内と、彼の吝嗇家りんしょくかぶりをたたえている黄金の精霊が、過去の武将の金銭感覚について議論する話である。

黄金の精霊が、様々な武将の金銭観を引きながら、①自身は神仏ではなく精霊であり、よって善悪の判断や断罪をしないこと、②人の富貴は必ずしも善悪に依らないこと、③金の徳を軽んじてはならないこと、を説く。

黄金の精霊にとって、大事なのは「金銭を大切にするか、否か?」であり、「人徳は関係ない」と言い切ってしまうのが実に面白かった。また、現代では書けなさそうな小説である。寡聞にして存じ上げないが、このような形式の歴史小説は本屋に並んでいるのだろうか? 

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