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消退・ノスタルジア・相転移点(山尾悠子『飛ぶ孔雀』/第46回泉鏡花文学賞)

『飛ぶ孔雀』が『不燃性について』に続くのに象徴されるように、というか本編で描かれていることだが、山尾悠子は「火を継ぐ」ことを契機として登場人物が火のモチーフのあるあらゆる道具を対象化したときに火種のようなものが喪われていくような世界を描いている。貨幣や情報が自己増殖のために人間の目的を事後的に捻じ曲げるのとは対照的に、人間が道具を使うと火としては縮減していく。火の喪失と並行して貨幣の交換が籤によって阻害されることと会話や噂話を素地としてコミュニケーションがなされることが描かれ、全体として自己製作する《道具》という今日的な光景が消失する。その過程を描くことそのものがノスタルジアを描くこととパラレルであり、綺麗な軌跡として作品(郡)を成しているのが本作である。

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2,376字
2018年文学賞受賞作についての文章を8本、実作を1本、収録しています。

1.文学賞受賞作8作品をめぐって書かかれた文章 2.作品たちから影響をうけて書かれた文章 が読めます。 〔書評〕 石井遊佳『百年泥』(芥川…

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