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晩秋の上州を、格安宿で巡る⑤最終話【有難き4千円台の宿】

<前回はこちら>

 沼田市と片品村の境に、一件宿「幡谷温泉 ささの湯」はある。以前からこちらの湯は気に入っており、何度か日帰りで訪れていた。

 通り沿いに小さい看板はあるものの、その存在は知らなければ素通りしてしまうだろう。湯巡りを始めた頃、片品エリアを物色していた際にこちらを発見したのは僥倖だった。


 国道120号沿いを中心にいくつか点在する日帰り浴場には、正直かなり駄湯が多かった。道の駅や食堂などが併設された温泉施設には消毒液臭が漂い、浸かって数分で退館を余儀なくされることも。


 そんな中で「ささの湯」は別格だった。
源泉温度は43度、毎分300ℓの湧出量。民家と見紛う小さな宿の浴場を満たすには、余りにも贅沢過ぎる湯量だ。

 内湯と露天では2~3度温度差があり、冬場の外気に触れた露天は不感温度(37度)ほどに感じられる。交互浴を始めると収まらず、1時間などすぐに経過してしまう。


 2年ほど前から日帰りで訪れると、若いスタッフ数名が受付に見受けられるようになった。どうやら内側の運営をオーナーより任されたようだ。FacebookやBooking.comなどの予約サイトにも予約の間口を広げられており、いつからか宿泊欲が沸々と。

   1拍素泊まり4,000円台。2食付きで8,800円。
湯は間違いない。あとは、客室とWi-Fi環境がどうか。ちなみにポケットWi-Fiは老神ですら圏外で、おそらくこちらも同様だろう、宿のルーターに頼るしかなさそうだ。

   15時半にチェックイン。見慣れた一階フロントで、料金は前払い4400円(消費税等込)。やはり若いスタッフが対応してくれた。

   
 二階客室は予想以上に小綺麗だった。廊下も塵一つ落ちていない。まだこちらの宿自体の歴史は浅く、湯を当てたのは平成10年。猟師であった館主が熊に襲われ大傷を負い、畑から湧く水を汲み、沸かし湯で入湯したところその傷が完治したのだとか。

 一念発起し掘削すると、良質な源泉が当たりこちらの宿の開業に至っている。障子を張り替えるなどのメンテナンスは若手スタッフがハンドメイドで行っているようだ。

 一人には十分すぎるほどの8畳間で暫し休息。呼吸が落ち着いたところで源泉へ。
 
 飲湯も可能なあっさり系の源泉は、今日も変わらず見事にオーバーフロー。ph8.7のアルカリ性単純温泉の湯触りは非常に優しく、いつまでも入っていられそうだ。

  身体が少々火照り出すと、今度は露天風呂へ。この時期の露天は清掃を怠ると、簡単に湯底が落葉で埋もれてしまう。
 だがこちらは毎日湯を入れ換え清掃をしているようで、湯底もヌメりがない。露天の湯口はちょうど肩口の辺りから落ちており、誰もいないタイミングを見て打たせ湯状態に。   

  首肩に適温のかけ流し源泉を浴びせると、凝り固まった筋肉が解れていくのが分かる。宿泊なので時間を気にすることなく、菩薩の如く胡座を組み暫く効かせた。

   夕食は片品村の人気店「芳味亭」へ。ロケット盛と称されるデカ盛りご飯と、唐揚げが評判の名店だ。 

   素泊まり旅の楽しみかた。2食付きの宿の食事に縛られず、地元で評判の名店で好きなものを食べる事だ。こちらの方が自由度は格段に高く、旨い地の物を格安でいただける。

 18時過ぎ、宿から10分ほど車を走らせると芳味亭に到着。だがまさかの臨時休業で食逸。仕方なく帰り道にあった中華屋で済ませることに。
 残念ながらここで食した野菜炒めはハズレだった。旅にトラブルは付き物だ。


 日曜のこの日、宿泊客は私一人しかおらず終始独泉状態だった。
入浴は22時まで、トータル2時間以上は浸かったか。最後は受付の方と同浴となった。
 
 元々近くのキャンプ場で勤務をしており、度々この宿に日帰りで訪れていたのだというこの方。オーナーから内側の運営を託され、友人数名でこの宿を切り盛りしているそうだ。


私  「いい湯ですね」
男性 「この辺りの湯はみんな入ったのですが、ここが一番良かったです」
   「みんな旅館業はド素人で、手探りで始めたんです」
   「今は口コミで客数が増えて、手ごたえを感じています」
私  「そうでしたか。部屋が綺麗で気に入りました。是非、長く続けて下さい」
男性 「ありがとうございます。では、私は上がります。お休みなさい」


 部屋には少々弱いがWi-Fiも飛んでいた。web会議はちょっと心もとないが、検索や動画閲覧するには全く問題はなかった。

 
 翌朝は道の駅かたしなで購入した新米の赤飯(400円)をいただき、昼には昨日食逸した「芳味亭」で唐揚げカレー(1,200円)を喰らう。味も盛も豪快。ちょっと後半苦しかったが無事完食。


 弾丸2泊3日、旅の総括。


1泊目:老神「楽善荘」 6,000円(朝食付き)
2泊目:幡谷温泉「ささの湯」4,400円(素泊まり)

立ち寄り湯
1湯目:白根温泉「加羅倉館」 440円
2湯目:片品温泉「旅館うめや」600円
3湯目:片品温泉「みよしの旅館」500円


 豪華な懐石料理などは食していないが、名産の舞茸を使った炊き込みご飯に片品そば、地元の人気店で快食。隠れし名湯との出会いは欣快だった。

 極めて上等な2泊旅。値段以上の満足度。貧乏旅行は続く。


                   『晩秋の上州を、格安宿で巡る』  
                             おしまい
      
                          令和3年11月10日

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