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子供を産む

 子育て支援金や、男性の育休取得などの制度を整えても、出生率が上がらない、というニュースを聞いた。
働き方改革が必要なんですよ、という人がいた。子供を産むと、会社では産む前のポストには戻れなかったりするでしょう。
男性の意識改革が必要なんですよ、という人がいた。家事や育児を男性がやるのはカッコ悪いという考え方がまだあるから、制度を利用する人も少ないでしょう。

 それもそうだな。と思うと同時に心に浮かんだのは、「母親になるのに向いていない」、あるいは「向いていないと思い込んでいる」女性も多いかもしれない、ということ。

 私自身が、そうだった。
独身時代、子供が苦手だったし、仕事が楽しかったから、自分はお母さんにはならないと思っていた。
その頃は毎月のように海外出張があり、学んできた英語を活かす仕事ができ、興奮していたと思う。
大学を卒業してから2回目の転職で見つけた、理想の仕事。
終電近くまで残業することもあったし、帰宅後、アメリカが朝になる時間に電話をかけ、交渉することもあった。そんな日々の中、子供に合わせて生活を変えるなんて、想像もできなかった。

 ご縁があって今の夫と結婚した後も、仕事のやり方は変えず、長男の妊娠が分かった時は、数日後にイギリス出張を控えていた。
結婚前に「子供がいても仕事はできる、子供は作ろう」と話し合っていたにも関わらず、私は取り乱した。
 楽しみにしていたイギリスに行けない、上司にプレゼンを交代してもらわなきゃいけない、あちこちに頭を下げなきゃいけない。あの仕事はどうなる? あれももう二度と、できない? 頭がグルグルして、急に自分が無力になったようで、情けなくてたまらなかった。

 「子供を産んでお母さんになるなら、私はこれまで何のために一生懸命、勉強してきたの!?」と、夫に八つ当たりした。
 「ただのお母さんになる」
それがあの頃の私には、恐怖だったのだ。

 なのにいざ子供を産むと、私は変身した。想像を遥かに超えて、我が子が可愛かったから!!
ぼうやが「おかしゃん」と私を呼んだ日、「私はこの体験をするために産まれてきたんだ」と、全身が震えたのを覚えている。
とてつもない幸福感と愛おしさに包まれながら、毎日赤ちゃんのことばかり考えている私は、「ただのお母さん」になっていた。

 仕事に対する情熱は「いずれ子供が手を離れた時に、戻る場所がないと寂しいから続けていよう」レベルに激変。
子供が熱を出して、どうする!? という場面でも、100%子供を取った。ありがたいことに、取らせてもらえる環境だった。
もちろん、「あの仕事どうしよう」とか「同僚に悪い」とかいう気持ちは毎度湧きあがり、苦しんだけれど、「この子の側にいたい」が常に本音で、「今仕事を取ったら、自分の一生の傷になる気がする」とまで感じたから、子供が寝てから無給で翻訳を片付けたりしつつ、無理やり子供を取った。

 でも私の周りにはその本音が「仕事に行きたい」の人も、いた。家事や子育ては自分でなくてもできる、今の仕事は自分にしかできない、という考え方。より苦しいのは、そういう人たちの方かもしれないなぁと思う。

 出産後、会社で元のポストに戻れないことは、実際にある。積み上げてきたキャリアが、そこでいったん途切れることになる。それをつらい、理不尽だと感じる人は、多いだろう。

 私も産後しばらくして役職を外れ、手当がなくなった。能力が落ちたわけではないのに、という悔しさはあったが、同僚と同じペースで働ける自分ではなくなっていたし、もうこれで期待されないんだ、とホッとした部分もある。
だいぶ泣いた後、「子供と遊ぶ時間が増える、ラッキー♪」と切り替えることができた。会社がその判断をするような働き方をしてきた結果だ、と半ば自分に言い聞かせながら。

 でももし、これが出産後も仕事への情熱が変わらない人たちの身に起こるなら、レベル違いに納得できないだろうと思う。
「お子さんが熱なら休んでね。お母さんの代わりは誰にもできないもんね」なんて、周りに言われるのも嫌かもしれない。
「なんで!? 病院に連れて行ったり、薬飲ませたり、熱が下がるまで寝ている子供の側にいるなんて、私じゃなくてもできる。夕方、家に帰れば、抱きしめてあげられる。このプロジェクトは私のアイデアで、私がここまで形にしてきたんだから、私が最後までやり遂げたい!!」って、思うかもしれない。そんなことを言えば非情な母親だと思われそうで、きっと言いづらい。

 「子供も仕事も大事!」と、両方取る人もいる。私の先輩は勤務時間を短くする分、結果を出す!と、信じられない馬力で努力していた。

 妊娠がきっかけで、仕事を辞めた友人もいる。「もともと、そのつもりだったから」と、お母さん業に落ち着く人もいれば、家事育児だけの生活がつらく、働きたい、でもこの状況で…と自信がなく悩む人も。

 自分の子供をあまり可愛いと思えない、という人もいる。既婚者なら子供を持つのが自然、という流れがあるから出産した結果、がんじがらめで苦しむ。

 生まれながらにして家庭的な男性も、いる。そういう男性が子供を産む機能を持っていればいいのに、と思う。出生率も上がるだろうに。

 なんでだろう。なんでこんなに、絡まり合ってしまうんだろう。

 一人一人の考え方をアップデートしていけば、何か変わってくるのだろうか。
子供を産んだら、子供を優先。
そうしたい女性もいれば、そうしたくない女性もいる。一人一人、ちがう。

 家庭的な男性は、本当にいる。
「男の人が家事や育児を手伝うなんてエライ」なんてレベルではなく、それに向いている人。
おむつ替え、離乳食作り、掃除、洗濯、ぜんぶ一般女性より丁寧にテキパキこなす男性を、何人か知っている。

 家事育児が仕事、の方がうれしい男性もいるだろうから、それが経済的に可能な仕組みがあって、身近な人々も社会全体も、それを喜ぶ風潮になれば、変わってくるのかもしれない。

考え方をアップデートするって、新しい制度を作るより遥かに時間のかかる、難しいことかもしれないけれど。

色んな人がいるよね、全体的にはうまくいくようにできてるね、って、だんだん緊張が解けて。
絡まり合った道が、自然な姿へ、すっと戻るといいなと、思う。















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