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「一年限りの結婚」(下) 小説

前回

休憩室の自販機に100円を入れ私が
選んだのはつぶ入りコーンスープ。
真冬に自販機といえばこれだ。

点滴を引きずっている右手は使えない
ので左手を自販機に入れ取り出した。
熱い缶を持ってお婆さんのふたつ隣の
真ん中あたりのベンチに座った。
たった今開けたばかりのコーンスープが
口をつけたら想像よりもぬるくて残念に
思った。

ふと向かいに座るお婆さんと目が合った
が気まずいのでスマホに目を落とす。
だがまたしてもそちらを見てしまった。

お婆さんはニコニコしながら
「明日手術なの?」と聞いてきた。
あれ…? 少し疑問に思ったが
-あ、はい。そうなんです。
ちょっと緊張してるんですよね。
と軽く答えた。
すると、
「そうだよねぇ。お子さんも小さいし
余計不安でしょうね。でも大丈夫よ。」
と言ってきた。

-え? どうして分かるんですか?
失礼ですが私お話したことありますか?
咄嗟に聞いてしまった。

驚いたことにこちらの情報を全て把握
している様子なのだ。

お婆さんは

「わたしはあなたにこれを伝えるためにここにいて
運命であり必然なのよ。
あなたもそういう力があるから
分かるわよね?」

えーっと…分かるんです、はい。
私もそういうスピリチュアル?霊感的
なそういうのあります。いやいや
でもそれにしても、え??と一瞬
パニックになったが私の口から自然と
出てきた言葉はこれでした。

-はい。これから何を仰るかは
未知ですが教えていただけますか?

お婆さんは良かった、とホッとしながら
ぽつぽつと話し始めた。

その殆どが戦争で亡くなった
私の前世の夫であるひとの話だった。
途中で涙が溢れてきてしまい
これが夢なのか現実なのか、
それすら分からなくなった。

彼は私と結婚して、一年も経たずに
赤紙が届き、若くして戦死をしてしまったそうだ。
(前世の)私と生き別れてしまったため
何十年も私のことを気にかけていて今も
近くで見守っているとのことだった。

前世の私は夫と死に別れてしまったこと
で何十年も未亡人だった。
その時代で未亡人ということは
それはそれは苦労をしたそうだ。

私は亡くなってすぐに魂がこの体に宿り
生まれ変わったが、前世の夫は少しだけ
生まれてくるのが遅かったという。

…そう。2年前に生まれた

私の息子が前世の夫

だというのだ。

「本当は旦那さんとして生まれようと
タイミングを見計らっていたんだけどね。少し生まれてくるのが遅かった。
だけど息子さんとしてあなたのそばで
ずっと見守ってくれてるのよ。」と。

涙がとまらなくなった。

「あなたは前世でとてもとても苦労して
当たり前の小さな幸せを願っても
なかなか叶わない人生だったのよ。
でも念願叶って今世で幸せになりなさいということなんです。」と。

今思えば普通に結婚して、普通に子供が
できて、子供ができた途端にお金が
たくさん入ってきて…不自然だった。
まるで何かに守られているかのような。

普通は当たり前ではない

普通は幸せなこと。

私が今幸せなのは、前世の私が
とても苦労したからなんだと思った。
未亡人で居続けた私。そこには強い
愛があった。亡くなった夫への愛が。

一年限りの結婚

たった一年だったけれど一生愛した夫。
そして彼は私から生まれて今、
隣にいる愛しき息子。

これから何百年も何千年も

この愛を守り続けたい。

END

翌日の手術は無事に終わり
ガンはあっという間に消え
何事もなかったかのような日々。
再発のリスクも少ないそうだ。
ちいさな元夫に見守られている。

退院する日にお婆さんにご挨拶したが
また会うのか、二度と会わないかも
分からない。ただ感謝の気持ちだけ。

#一年限りの結婚

長めでしたが読んでいただき
ありがとうございました。
自分で書いて自分で感動しました。笑

今後ともよろしくお願いします!

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