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成果主義の終焉?今後の人事評価は?

はじめに

人材版伊藤レポート2.0が発表され、2023年からは上場企業にも人材活用に関しての開示が義務化されます。
岸田政権の人への投資という言葉から人的資本投資の重要性が増々高まっています。また、日本は先進国の中でも少子高齢化のスピードが速く人口減少で国内市場の現象は目の前に来ているので、今後いち早いグローバル化が重要になってくるため、人材の多様化は待ったなしです。
一方で企業の人材に関する制度や仕組みは画一的な物が多いように思います。特に評価制度に関しては、公平性を担保する観点から画一的になりがちではないでしょうか。しかし、人材の多様性を求めるのであれば人事制度や採用基準等も多様化していく必要性があるのではないでしょうか。
バブル崩壊から失われた30年と言われていますが、10年前は失われた20年と呼ばれていました。つまりこの10年間は何も変わっていないどころか平均賃金は下がり、生産性は大きな向上をしていません。生産性を高め平均賃金を上げていく為には人事制度の抜本的な変更が必要なのではないかと思います。つまり成果主義の終焉が来ているのではないかと思います。

失われた30年と成果主義

失われた30年とは、1990年に株価が下がり始めた時を言います。いわゆるバブル崩壊です。そこから2012年のアベノミクスまで株価は下落の一途をたどり、ようやく現在はある程度株価を戻してきています。バブル崩壊により大手企業でも倒産してしまう現実を目の当たりにして景気後退が始まっていきます。
ちょうどそのころから「成果主義」というのが注目され始めました。きっかけは1990年前半富士通が行った人事制度からだと言われています。
そこから主に役員に対して行われた年俸制と目標管理制度(MBO)が導入されました。背景は評価の透明性や公平性を担保する必要があり、①評価基準の仕組の公開、②成果の測定が容易、③評価者と被評価者が直接話すことで不満がでにくいという3点があると言われていたそうです。
そしてコンピテンシー評価というハーバード大学の教授が提唱した手法を取り入れる企業が増え、評価対象者も役員から一般社員まで同じ手法で行われるようになりました。
そして、2000年代にはITバブルとともに日本で、ファンドによる企業の買収劇が始まり「モノ言う株主」と言う言葉が出てきました。このころの外資ファンドは短期的な利益を求め、株主配当を出すように要求したりするケースが増えました。これを契機に特に上場企業では短期的な利益を追求する流れが出来上がり、そこに目標管理制度を普及させる要因があるのだと思います。
でも実は、このモノ言う株主の要求は時代の流れで変わってきています。2013年には短期利益や株主配当を求める株主は減ってきており、現在ではESG投資などと呼ばれる環境やガバナンスの評価による投資や、企業の人材や研究開発への投資に関する評価で選ばれるという時代になってきました。それにも関わらず大手企業の多くは20年前の敵対的買収という衝撃の後遺症なのかいまだに短期利益を重視する制度設計をしているように見えます。
だからこそ、人材版伊藤レポートでは、企業の人材への投資促すために投資家(主に機関投資家)の声を聴くように促しているのだと思います。

労務行政研究所発行の「人事労務諸制度実施状況調査」によると、目標管理制度の導入率は、2010年1月で約74%となっており中小企業も含め今では数多くの企業に導入されています。
私の会社にも中小企業の経営者様から「成果評価をしたい」「目標管理制度を導入したい」と言うご相談をよく受けます。その理由を聞くと概ね下記のような理由です。
・頑張った社員を評価してやりたい
・できる社員、できない社員を区別してモチベーションに繋げたい
・評価に公平性を持たせたい
しかしパーソル総合研究所が2021年に行った調査では目標管理制度の企業の課題は以下のような結果になっています。

株式会社パーソル総合研究所「人事評価制度と目標管理の実態調査」 の資料から抜粋

100名以上の規模の会社で何らかの目標管理制度を実施している会社での結果です。目標管理制度では社員のモチベーションや成長にはつながっていないことがわかります。
従業員の目標管理制度への不満の上位項目は以下の通りです。

株式会社パーソル総合研究所「人事評価制度と目標管理の実態調査」 の資料から抜粋

主に目標設定や公平性に不満があるようです。
当初の目標管理制度の導入には、「公平性が高い」、「測定が容易」という理由がありましたが実態はかけ離れた状況が生れている。
これは主に制度だけでなく評価者の評価能力に原因があるようです。
これは評価者の評価を評価する仕組みがないことに要因があると思います。
結果として成果主義や目標管理制度が導入され30年が過ぎましたが、いまだ課題が多く、企業成長や生産性向上、エンゲージメント向上にはつながっていないことが様々な調査から明らかになっています。
ある意味、企業の低成長率の要因の一つはこの成果主義にあるともいえます。

成果主義が機能しない理由

それでは理論的にはうまく行くはずの成果主義が上手くいかない理由はどこになるのでしょうか。
主には下記のような要因があると思います。
・評価者が適切に評価できない
・目標設定自体が難しい
・成果は運が左右するケースが多く、上がり下がりがある。
・成長を図れない
・短期の結果に集中してしまう

まず、評価者の評価能力に関しては50%程度が研修を受けているようですが、上手くできていないのが現状です。また評価者の評価を評価する仕組みがないので、評価者は自身の評価が正しかったのかどうかを知ることができません。
また、職種・業種によって目標設定自体が難しいという点がアンケート調査等で判明しています。
また、私の営業や管理職経験から考えると、”成果は運”という部分があると思います。特に最近は事業環境の変化や商品サイクルが短くなってきたことで成果に占める運の要素も大きくなっています。例え大きな成果を出してもたまたま良いお客様に当たった、たまたま市場が活性化してきたなど必ずしも成果はその従業員の実力を示しているわけではないからです。そのため、前年度は成果が良かったが今年度は成果が悪いなどと安定しづらいケースが多くあります。
また職種によって定量的な目標設定がしづらい場合などは定量的に測りやすい職種との不公平感が高くなるので当初の目的は果たせないでしょう。
さらに、目標設定の仕方にも問題はあると思いますが、成果が成長に繋がっていかないことも問題としてあります。その中の一つの要因がどうしても短期的な成果を出すことに集中してしまう為、成長機会を失ってしまっているケースも多いと思います。
そこでこの問題点を解決できる方法としてMBOに変わってOKRを使う企業が増えているのだと思いますが、どちらにしても成果によって評価する限りは問題が解決することはないと思います。
実は、MBO(目標管理制度)を提唱したピーター・ドラッカーは目標管理と報酬を連動させるべきではないと言っています。
つまり現在の人事制度の在り方自体が本来の目標管理制度から逸脱してしまっており、人材の多様性や人材育成を逆に阻害していると言えるかもしれません。そう考えると失われた30年を創り出した要因は成果主義にあるのかもしれません。

成果主義に代わる人事評価制度とは?

それでは成果主義的な目標管理制度をどうすれば人材育成、人材投資になっていくのでしょうか。
私が企業でマネジメントをしていた時に少し視点を変えた目標管理をすることで、離職率を下げ、自走型組織にした方法をお伝えします。
それは目標設定の目標を”成果”ではなく”成長”にすることです。
例えば、一般的な目標管理制度では部門に求められる成果をメンバーに振り分けて目標設定をすることが多いと思うのですが、それは一切せず、どう成長をしたいのかを元に成長をするための目標を設定してもらいます。
すると、自分の成長のために自分で考え行動をし始めます。
初めは1部署から始めた取り組みですが、私が見る部署が増えるごとに同じ方法を導入したところどの部署でも離職率が低下し、指示待ち社員は減りました。
しかも成長と言うのは成果と違い悪くなることはありませんし、運に左右されることもありません(一部上司ガチャはあると思いますけど)。一度覚えた業務は同じ業務であれば基本的にはできるはずです。
しかも可視化されていて上司部下共に追いかけやすく部署毎に基準を作れるので不公平感も少ないです。目標設定もシンプルなので上司の目標設定スキルは成果を目標設定にするより簡単です。
部署内でも自分の実力が可視化されるのでその点でも社員同士の公平感は担保されます。

たまに、研修や事業の相談でこの話をすると、「成長を見えるようにするのは難しい」「気局成果で判断するしかないよね、だから同じじゃない」と言われることがあります。
そう、この方法を行う為には少し前準備が必要になります。
別記事「部下を成長させたいなら結果だけで判断せよ!」に詳しく記載していますが、まずは部署の業務を一覧化し、ランク付けを行うことが必要です。そのうえで今その業務をできる人とそのできるレベル感を記録しておく必要があります。また、新たに業務が追加された場合はその都度この一覧に追加しておく必要があります。
この準備ができれば、あとは期初に何の業務をできるようにするのか(すでにしている業務のレベル感を上げるでも可)を決めてもらうわけです。そしてマネージャーはそれができるようにサポートをするだけです。
期末にはできるようになったかそうでないかははっきりわかりますので、この一覧を用いることで成長度合いは図れるようになります。
また、この方法だと、部下の成長度合いが可視化できるので、マネージャー毎の力量を図ることもできます。

少し業務一覧の作り方や、ランクの付け方、目標設定の置き方などに関しては導入時点で経営幹部層でのすり合わせが必要ですが、一度ランク付けの定義を決めてしまえばあとはそこまで難しくありません。
また、実はこの方法の良い点は、次のマネージャーに移行する際にも同じレベルの評価がしやすい点にあります。
”成果主義”から”成長主義”へ少しの変化で運用が可能なのでOKRを導入するよりは簡単ではないでしょうか。
また副次的に業務一覧ができることでマネジメントもしやすくなります。
成果主義は捨てて成長を軸の人事制度を広めていきたいと思います。




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