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いつの日か

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いつの日か、君に会いたい。あと5分。僕たちは病室のベッドにいた。 恋愛小説です。
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いつの日か #4(完)

いつの日か #4(完)

僕はプロのカメラマンになっていた。あと1分。パリの白い太陽が欠けていく。皆既日食がはじまっていた。太陽がダイヤモンドリングを発する。

佳奈は僕には内緒で、CANONのR5を買っていた。佳奈が亡くなり、代々の墓に佳奈の骨壺を入れて、その後、近親者だけが集まって会を開いた。僕がそこでビールを飲んでいた時に、佳奈の母親がそっと僕にカメラを手渡した。50万円のR5は、僕には高価で、扱えないと思っていた。

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いつの日か #3

いつの日か #3

佳奈の心臓はやはり悪くなっていった。石化した心臓は血液を送る力を失っている。「佳奈」と言って、僕は佳奈の上半身を起こし、佳奈の顔を僕の胸にもたせかける。だらりと落とした腕を僕は持ち上げ、握る。「ねえ。佳奈」と言うと、佳奈の唇は微かに動く。
「好きよ」
佳奈は言う。僕だって。そうだよ。僕は言う。ねえ。結婚式しないか。と僕が言うと、佳奈は驚き、その後、微笑む。「あと、2分」僕が言うと、そうね、と佳奈は

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いつの日か #2

いつの日か #2

佳奈の顔は青ざめている。僕は佳奈の心臓に手をやって、心臓の音を確かめる。血液は体中に回っているのだろう。音は確かだ。でも、時折、何秒か止まっている時間がある。その間、僕は佳奈が死んでしまったんじゃないかと不安に駆られ、佳奈を起こそうとする。佳奈はうっすら目を開けて、「信二。どうしたの?」と言う。僕は、「なんでもないよ」と誤魔化す。
佳奈は笑って、「また、止まっていたのね。ポンコツの心臓」と言った。

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いつの日か #1

いつの日か #1

佳奈の閉じられた瞼がぴくぴくと動いた。
僕は佳奈の細い手を握る。まるで、骨のように細い指は少し動かしただけで、折れそうだ。
佳奈の薄い紅の唇に僕の唇を合わせる。冷たい唇は「死」を感じさせる。僕は生きていて、佳奈は半分死んでいるようだった。もし代われるなら僕が死んだ方がましだった。

あなたの夢は? と佳奈が聞いたが、僕は答えなかった。なんで答えないの? だって恥ずかしいから。いいじゃない。夢は? 

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