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理想のチームになるために ~アンコンシャス・バイアスの視点から


一緒に仕事をする人とのコミュニケーションをもっと円滑にして、よりよいチームをつくりたい。自分の組織をもっと理想的なチームにしたい。

企業や団体などの組織で働いていると、そんな思いを持つことはありませんか?

理想のチームといっても色々な定義がありそうですが、私はこのように考えています。

目的とゴールを共有しているリーダーとメンバーが、多様な意見を集めてよりよい意思決定を行い、トライ&エラーを通じて学んでいくチーム

チームとは単なる集団とは異なり、組織として存在する目的とゴール(目標)を持っています。よいチームとはリーダーとメンバーがこれにしっかりと腹落ちして共通認識を持っていることが前提になるでしょう。その上で多様な知見をもつ一人ひとりが真剣に意見を出し合って知恵を集め、皆が納得のいく意思決定がなされる。そしてそれぞれが自律的に活動しながらトライ&エラーを繰り返し、個人としてもチームとしても学び成長していく。

そんなチームを想像するとわくわくします。

しかし、現実にはなかなか難しい。

目的やゴールを共有していたはずなのにいつの間にかそれぞれの解釈によって異なったイメージができている。他人と異なる意見を出すことに躊躇したり、相手の決めつけるような言葉使いにモヤモヤしたり。

これにはさまざまな原因があると思いますが、そのうちの一つが「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」ではないでしょうか。

今回は私が「アンコンシャスバイアス」について学んだことをシェアしたいと思います。

アンコンシャス・バイアスとは


アンコンシャス・バイアスとは例えば次のように定義されます。

「人が無意識のうちに偏ったものの見方をしている状態、つまり無意識の思い込み」

具体的にはこんな例が挙げられます。

・ 「親が単身赴任」と聞くと、父親のことと思う
・ 「普通は○○だ」という言葉を使うことがある
・ ついつい、「これまでのやり方」や「前例」に固執してしまう

「アンコンシャス・バイアス」マネジメント (守屋智敬 著)

改めて振り返ってみると身の回りには他にもたくさんあると思います。アンコンシャス・バイアスは誰にでもあるもので、日常にあふれているものなのです。

ではなぜ、アンコンシャス・バイアスは起こるのでしょうか。

脳科学の観点から検証すると、アンコンシャス・バイアスは、過去の経験から培われた思考の癖といえるもので、「反射的に思い浮かぶ直感」とも言い換えることができるそうです。

毎日は判断の連続です。でも実際にはその都度、自分の置かれている状況を理論的に検証し、どう判断して行動すべきかを考えるようなことは難しい。

夜道を一人で歩いている時に挙動不審な人影を見ると「これは危険だ。気をつけたほうがよい」と感じて避けようとするのは自然なことと思います。

直感的にものごとを判断することは、基本的にはとても有益で効率的に行動することにつながるし、自分の身を守ることもできるものです。

しかしながら、時にはその直感は誤ります。


こんな問いがあります。


問A
シマウマのシマ模様について聞きました。どちらの答えが多いでしょうか。

① 白地に黒シマ模様
② 黒地に白シマ模様



いかがでしょうか。

私は直感的に、「普通は、①「白地に黒シマ」だろう」と思いました。

でも実はこれは日本人に多い答えなのです。肌の色が黒いアフリカ系の人に質問をすると、②「黒地に白シマ」という答えが返ってくるそうです。

「普通」とはその人がこれまで生まれ育った環境での経験から思う主観的なもの。したがって個人や社会が異なれば「普通」は全く異なったものになる。考えてみれば当たり前のことなのに、脳は自分が培ってきた感覚を唯一の正解と思ってしまうのだそうです。

しかも、脳の活動は超高速。こんな実験があるそうです。

☆    ☆    ☆ 


被験者が両手にボタンのついたレバーを握っています。そして好きな時に左右どちらかの好きなボタンを押してもらいます。

すると、被験者が「ボタンを押そう」と思う7秒も前から、実は脳は左右いずれかのボタンを押す「準備」を始めているのだそうです。

つまり、ある行動の意思決定をする前から脳が判断しているのです。

私たちが自分自身で「意思決定」し、それに基づいて行動したと思っていることも、実は無意識の間に脳活動によってコントロールされているということになります。

脳の勘違いによって自分が誤った行動をしている可能性があるとしたら少し怖くなります。なぜなら、その自分の行動によって周囲の人が違和感を覚えたり、時には傷ついたりしているかもしれないからです。それはチームメンバーの関係性をぎくしゃくさせ、組織としてうまく機能しなくなる原因にもなるでしょう。

☆    ☆    ☆

そこで理想のチームの要素のうち、①多様な意見を集める ②よりよい意思決定を行う の2つのシーンについて、アンコンシャス・バイアスの観点から考えてみたいと思います。

多様な意見を集めるために

前項で書いたことは次の2点です。

  • アンコンシャス・バイアスは脳の活動から生じるものであり、それ自体はなくならない

  • でも、時に脳は間違える

したがって、一人ひとりが「反射的に」言葉を発したり行動することを一瞬こらえて、自分の脳活動を疑ってみることがとても大切だということになります。それは自分のアンコンシャス・バイアスに気づくチャンスにもなります。

でも24時間365日、自分の脳を疑い続けることは難しい。ではいつ疑ってみるのがよいでしょうか。それは例えば自分や相手が「もやもや」した時です。

誰かの言葉や態度にもやっとする時があります。時には怒りや悲しさを感じる時もあるでしょう。そんな時はなぜ自分はそんな気持ちになったのかと自身に問いかけてみる。

一方で、自分が発した言葉に対し、相手が「何か腑に落ちなさそうだ」、「何か言いたそうだ」と感じることがあります。そんな時は相手が「もやもや」している可能性があります。「何か引っかかっていることはありますか?」などと声をかけてみる。

そうすることで自分の思い込みや、思い込みにもとづく言動に気づくことができるというのです。

☆    ☆    ☆ 

以前、チームミーティングをしている時にこんなことがありました。

そのチームは心理的安全性が高く、誰でも自由に意見を言える雰囲気がありました。したがって、ミーティングの場では意見を聞くために誰かを指名することはあえて避けていました。

ところが、チームに入って間もない人が、後でこんなことを話してくれました。「自分はどのようなタイミングで意見を出したらよいのかについて自信がない。自分から手を挙げて意見を言うことに躊躇してしまう」

その人は外国籍の方ですがとても日本語が流暢。ミーティングでも自由に意見交換ができるだろうと思っていました。しかしそれは私の思い込みでした。言葉を話せることと、大勢の人が参加する対話の流れに「乗る」こととは違う。文化が違うと対話のあり方も異なるので慣れるには一定の時間がかかるようです。その人にとっては「○○さんはどう思いますか」と声を掛けられるほうが意見を言いやすいということが分かりました。

自分の意見を言うことはよりよい意思決定をするための大前提となります。

一人ひとりと向き合って、自分のアンコンシャス・バイアスに気づくことは自分の振る舞いを変えるチャンスでもあります。

互いに自分の意見を言えるためには、一人ひとりへの声の掛け方を工夫する必要があると感じた出来事でした。

よりよい意思決定を行うために


では、躊躇なく自分の意見を言えるチームでありさえすれば、多くの知恵が集まってよりよい意思決定はできるでしょうか。

答えは否です。なぜなら、チームの全員がアンコンシャス・バイアスの罠にはまってしまうこともあるからです。それを避けるためにできることは色々ありそうですが、特に次の二つのことが大事であると思います。

  • 思考の枠を広げること

  • 情報をオープンにすること


次のような問いがあります。


問B
下の図の9つの点のすべてを通過する線を一筆書きで描いてください。ただし線は直線でなければならず、曲がっていいいのは3回だけです。つまり4本のつながった直線で9つの点をつないでください。

行動意思決定論 バイアスの罠(M.H ベイザーマン / D.A ムーア 著、長瀬勝彦 訳)




いかがでしょうか。ヒントは「思考の枠を広げる」です。(ちなみに私はわかりませんでした。答えは最後につけておきます)

人は誰でも、無意識のうちに思考の枠組みをつくってしまうもの。チームでも同じだそうです。例え大勢のメンバーがいたとしても全員が同じような枠組みにはまると、誤った意思決定を行ってしまいます。

☆    ☆    ☆

30年以上前の話になりますが、1986年のスペースシャトル チャレンジャー号の爆発事故は、想定以上の気温の低下による部品の劣化が原因だったそうです。

打ち上げ前のミーティングでその懸念が指摘され、技術者たちは手元にあったデータを検証しました。それは過去の打ち上げ時に「劣化した」部品と、当時の気温の関係性についての情報でした。その結果、相関関係はないと判断されて、打ち上げに踏み切ったとのこと。

しかしながら、実は「劣化しなかった」部品も含めて気温との関係を調べていれば、明らかに低温での打ち上げはリスクがあることが分かったのだそうです。

つまり、誰もが「劣化した」部品だけに思考を限定してしまい、「劣化しなかった」部品を検証しなかった。その結果、「一定以上の気温の時は部品は劣化しない」という事実に気づけなかったということになります。

優秀な技術者たちが全員そのような思考に陥ってしまったのは、全員の手元にあったデータが「劣化した」部品に関する情報のみであったからのようです。

そう考えると、日頃から情報をオープンにしておくことも大事であると分かります。

 ☆    ☆    ☆ 

次のような実験が行われたそうです。

大学生の参加者が3人の候補者から学生自治会の会長を選ぶように求められた。全候補者に関するすべての情報を検討すれば候補者Aが最も望ましいことが分かるようにデータがつくられている。実際にすべての情報を得た個人を集めて議論した結果、集団の83%が候補者Aを選んだ。

一方で、異なる実験も行われた。それは一部の情報は集団の全員に与えられたが、残りの情報は集団の中のひとりのメンバーにしか与えられなかった。複数の集団での実験の結果、集団の18%しか候補者Aを選ばなかった。

集団にはあらかじめ共有されている情報を議論することに時間を費やす傾向があるとのこと。したがって一部の者のみが知っている情報は例え議論の中で伝えたとしても重視されないリスクがあるということになります。

☆    ☆    ☆ 

したがって、日ごろから一人ひとりが持っている情報を共有し、誰もがアクセスできるように共有し、議論の際にはすでに共有されている状態にしておくことが必要なのです。

大切にしたいこと

世の中にはたくさんのチームが存在します。その存在目的はさまざまな言葉で語られますが、多くの企業や団体の掲げるミッションやパーパスには「社会をよりよくする」というメッセージが読み取ることができます。

それであればこそ、世の中のそれぞれのチームが、多様な意見を集めてよりよい意思決定を行うことはとても大切だと思います。人生100年時代、社会がますます多様化していく中では今後もその重要性は増してくるはずです。

今回はアンコンシャス・バイアスの観点から、多様な意見を集めること、そしてよりよい意思決定を行うことについて書いてみました。ですが、まだまだ他にも意識すべきこと、工夫してみることはありそうです。

例えば、過去に行った意思決定について振り返り、環境変化の中で今後もその決定に基づいた行動を継続すべきなのかどうかを検証することも必要でしょう。その際にはこれまで行った投資の大きさに目を奪われず、未来の影響にこそ目を向ける必要もありそうです。

しかしながら、それらの大前提にあるものは、チームに集う誰もが躊躇なく互いに自分の意見を言えること、そしてオープンな環境の中で思考の枠にとらわれずアイデアを出し、議論を尽くして意思決定していくことであると思います。

理想のチームになるための道のりは終わることのないジャーニーのようなもの。あらゆるチームが自分たちのこれからの学びと成長を楽しみに、日々試行錯誤を続ける社会でありたいと思います。


参考


問Bの答え

答えは次の通り。6つの点を見ると思わず自分で線を引いて正方形の中で答えを探してしまいがちですが、その枠を広げて自由に思考してみることが大切だということがわかります。

行動意思決定論 バイアスの罠(M.H ベイザーマン / D.A ムーア 著、長瀬勝彦 訳)



参考文献


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