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「たゆたえども沈まず」 原田マハ著

明治時代にパリで浮世絵などを販売する画商として活躍した林忠正と、同時代に生きたフィンセントファンゴッホについて、史実に基づきながら描いたフィクション小説。SOMPO美術館で現在「ゴッホと静物画」展が開かれており、行きたいと思っていたところ、改めてゴッホの生涯について関心を持ち、手に取った。

実在した林忠正とフィンセントファンゴッホ、そしてフィンセントの弟であるテオ。この三人に加えて、架空の人物である加納重吉。この四人が主な登場人物となる。後で調べてみたが、林忠正とゴッホが実際に交流があったのかどうか、記録としては残ってはいないそうである。ただ、同じ時期にパリで生活をしたいたこと。ゴッホは日本の浮世絵にかなりの影響を受けており、自身でも多数の浮世絵を収集していたこと。これらの事実を考えれば、確かに出会っていてもおかしくはない。著者は大胆にも、出会っていたどころか、林忠正がゴッホの生涯に多大な影響を及ぼしていた、と仮定してこの小説を書ききっている。

ゴッホの名前や有名な彼の作品は知っていても、その生涯について理解が乏しい自分にとっては、フィクションであり、脚色されている部分や、事実と異なる部分はあるものの、概ねでゴッホの生涯を知るためにはいい作品である。また、浮世絵を世界に広めた功労者の一人である林忠正について知るためにもいい作品である。

それにも増して、加納重吉という架空の人物を創り出して、林忠正とフィンセント、並びに弟であるテオの歴史を違った視点で斬新に描き出した著者のオリジナリティに感服した。ゴッホが浮世絵に大きな影響を受けていたことに着目し、その視点を中心として描ききっているところが圧巻であると言える。ゴッホ兄弟の生涯、林忠正の生涯、そしてそれを斬新な視点で甦らせた秀逸な作品であった。

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