週一で上げます。

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  • 友だち億人できるかな

    ゾンビの短編集。

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固定された記事

1. ハロウィン(平成30年10月31日)

ゾンビなら誰でもできる、と言われて来たものの、やっぱりガチな人たちは違う。 佐藤大輝は思い知った。 交差点を徘徊する数体のゾンビ達。破損した体から覗くどす黒い血…

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5年前
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フラッシュモブ

妻と2人の娘たちが買い物をしている店に背を向け、両腕を柵の上に乗せて寄りかかりながらぼおっとしていると、吹き抜けの下からふいに「君の瞳に恋してる」のイントロが聞…

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ブリおこし

玄関のチャイムが鳴る音で目を覚まし、音に導かれるままドアを開けると、大きくて細長い箱を渡された。発泡スチロールだ。 「あの、サインか印鑑を…」 そうか、宅急便だ…

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5年前

時空間のちぢれ

一見すると炊飯器のようだが、これが世界初のタイムマシンである。正確には本体の大半はその背後、隣室との壁をぶち抜いて作った空間でうごめくマシンの数々で、炊飯器はタ…

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5年前
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出会いはスローモーション

男は今日も今日とて、バイト先の倉庫へとちんたらママチャリをこいで向かっている最中だった。いつも通り環状道路をまっすぐ進んで、いつも通り国道との交差点で信号を渡れ…

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5年前
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全員桃太郎

昔々、あるところに、川が流れていました。何の変哲もない小さな川は、何千年、何万年、山から海へ、只々止めどなく流れていました。ある日、その川に突然、桃が流れてきま…

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14. 初鰹(2019年5月1日)

「おっ……おお、サバっ」 「サバですね、今日は」 「いやぁ、サバだなあ」 「せめて酢があるとねえ…」 「しめサバ?好物だったなあ…」 「『だったなあ…』って…」 「だ…

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5年前
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13. シャバの空気(平成31年1月23日)

私は泳げない。三十八年間、温泉に入ったこともない。 一番古い記憶のひとつは、幼稚園の先生に詰め寄る父の姿と、今にして思えばきっと二十代前半の女の子であったであろ…

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5年前
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12. 倉庫③(平成31年4月17日)

正直な所、月島保はこの生活がそこまで嫌いではなかった。不満は腹が減ること、風呂に入れないこと、電気がないこと、性欲の行き場がないこと、音楽が聴けないことくらいだ…

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11. 最強の男(平成31年1月9日)

すずめが一羽、109のてっぺんから滑空しながら下りてきて、一人の男の頭に止まった。彼は渋谷で活動していたアダルトビデオのスカウトマンであり、道行く女性に声をかけ…

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10. ラブリーデイ(平成31年4月3日)

春の匂いに誘われて思わず荷台のドアを開け放ち、たまらなくなった田沢孝宏は野外での自慰行為を決行した。配達物の中に入っていた有名アイドルグループのメンバーの写真集…

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9. 田所ちひろ、歩く。(平成30年12月26日)

流血した肩を押さえながら高井戸駅方面からよたよたと歩いてきた中年のサラリーマンは、狭まっていく視界の端に、駅方向に歩いて行く人影をかろうじて捉えた。ゆっくりと立…

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8. 倉庫②(平成31年3月20日)

月島潤は、暗闇の中で自分の手首を握ってみた。ずいぶん痩せた。ここに立てこもって約三ヶ月。幸い、まだ食料は何とかなる。今のペースなら二ヶ月くらいは保つだろう。でも…

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7. 必要至急の外出(平成30年12月12日)

二子玉川駅のホームは一時、騒然となった。 臨時休業や在宅業務の動きも見られ始めてはいたものの、朝のラッシュ時における利用客数の大幅な減少には至らず、むしろ例年を…

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6. チェーンソー(平成31年3月6日)

警備報告書 2019年3月6日 むさしのホーム西八王子店様 勤務時間:0時0分~23時59分 人員:1名 勤務者氏名:荒井義隆 特記事項: 連続勤務がちょうど一…

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5. ワイドショー(平成30年11月28日)

司会「こんにちはっ!十一月二十八日、『      』の時間です。え~、まずは驚きのニュースが飛び込んできました…」 (スタジオのモニター画面切り替わる) 司会「…

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1. ハロウィン(平成30年10月31日)

ゾンビなら誰でもできる、と言われて来たものの、やっぱりガチな人たちは違う。

佐藤大輝は思い知った。

交差点を徘徊する数体のゾンビ達。破損した体から覗くどす黒い血肉や、破れた衣服、口元に付着した鮮血、生気を失った目つきや社会性の欠片も見受けられない歩き方に至るまで、大輝は圧倒され、自分の姿が少し恥ずかしくなった。

バイト仲間の奈緒ちゃんに言われるがまま、奈緒ちゃんの友達の美大生「もっさん」に顔

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フラッシュモブ

妻と2人の娘たちが買い物をしている店に背を向け、両腕を柵の上に乗せて寄りかかりながらぼおっとしていると、吹き抜けの下からふいに「君の瞳に恋してる」のイントロが聞こえてきた。ボーイズ・タウン・ギャング。なんて懐かしい曲なんだ。思わず4階下の催事スペースを見下ろすと、曲に乗せて踊り始めた数人の客の姿が見えた。

若い女性とビジネスマン、そこに同じ制服を来た男女の学生が加わる。呼吸の合ったその動きが、い

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ブリおこし

玄関のチャイムが鳴る音で目を覚まし、音に導かれるままドアを開けると、大きくて細長い箱を渡された。発泡スチロールだ。

「あの、サインか印鑑を…」

そうか、宅急便だ。差し出されたボールペンを手に取った。ペン先があっという間に伝票の上で迷子になって、ぐちゃっとした線が描かれる。

「ありがとうございました」

ドアが閉まってはじめて、自分がガニ股で箱の重さを支えていることに気づいた。かなり重い。米の

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時空間のちぢれ

一見すると炊飯器のようだが、これが世界初のタイムマシンである。正確には本体の大半はその背後、隣室との壁をぶち抜いて作った空間でうごめくマシンの数々で、炊飯器はタイムスリップさせる対象物をいれ、行先を設定するデバイスに過ぎない。

タイムマシンとは言っても、まだ対象を狙った時間や場所に正確に飛ばせるような代物ではない。タイムスリップがこの世界に与える影響も未知数である以上、生物、まして人間を遥か昔へ

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出会いはスローモーション

男は今日も今日とて、バイト先の倉庫へとちんたらママチャリをこいで向かっている最中だった。いつも通り環状道路をまっすぐ進んで、いつも通り国道との交差点で信号を渡ればもう倉庫は目の前だが、問題はいつも通り少しフライング気味に渡り始めたところに焦って右折してきた車がどんぴしゃで突っ込んできたことである。今までに、このタイミングで右折してくる車はなかった。その事実に慣れ切って、何の確認もせずに渡り始めたこ

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全員桃太郎

昔々、あるところに、川が流れていました。何の変哲もない小さな川は、何千年、何万年、山から海へ、只々止めどなく流れていました。ある日、その川に突然、桃が流れてきました。地球史に残るほどの大きな桃でした。さらに驚くべきことに、桃はひとつ、またひとつ、上流から次々と流れてきたのです。何十個もの大きな桃たちは、小さな川をひしめき合いながら、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れていき、やがて海へ出ました。波にさら

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14. 初鰹(2019年5月1日)

「おっ……おお、サバっ」
「サバですね、今日は」
「いやぁ、サバだなあ」
「せめて酢があるとねえ…」
「しめサバ?好物だったなあ…」
「『だったなあ…』って…」
「だってもう食べらんないでしょう」
「酢か…」
「酢ですよ」
「…………」
「…………」
「あ!こっちもきた!」
「サバかな?」
「いや、これでかいですよ……っっと!」
「うわあ、でかい!」
「サバだ!」
「りっっぱなサバ!」
「立派なサ

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13. シャバの空気(平成31年1月23日)

私は泳げない。三十八年間、温泉に入ったこともない。

一番古い記憶のひとつは、幼稚園の先生に詰め寄る父の姿と、今にして思えばきっと二十代前半の女の子であったであろう先生の、怯えた瞳である。迎えに来た父に、みんなでパンツ一丁で水遊びをしたことを話してしまったのは私だった。不思議なもので、水遊びの時の記憶自体は残っていない。

それが男手ひとつで娘を育てることになった自身の境遇に対する過度な気負いだっ

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12. 倉庫③(平成31年4月17日)

正直な所、月島保はこの生活がそこまで嫌いではなかった。不満は腹が減ること、風呂に入れないこと、電気がないこと、性欲の行き場がないこと、音楽が聴けないことくらいだ。結構ある。結構あるが、別にいいじゃないかという気持ちが常にどこかにある。こうして屋上で一人、朝焼けの空を見てる時には、特にその気持ちが強くなる。ひと冬、毎日のように拝んできたことで、今ではその中にある日々の小さな変化まで楽しめる域に保は到

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11. 最強の男(平成31年1月9日)

すずめが一羽、109のてっぺんから滑空しながら下りてきて、一人の男の頭に止まった。彼は渋谷で活動していたアダルトビデオのスカウトマンであり、道行く女性に声をかけて近づいた所をあっさり噛みつかれて今に至る人物であるが、そんなことはどうでもいい。渋谷の群衆の中で一人ただ立ち止まっていたので、すずめに木か何かと間違えられた。それだけのことである。立ち止まっていたのも偶然に過ぎず、そこには何の意図もない。

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10. ラブリーデイ(平成31年4月3日)

春の匂いに誘われて思わず荷台のドアを開け放ち、たまらなくなった田沢孝宏は野外での自慰行為を決行した。配達物の中に入っていた有名アイドルグループのメンバーの写真集。当初はこの女性の名前も顔もよく知らなかったが、山の上でひと冬を共に過ごした今、もはや恋人も同然の存在となっていた。ズボンを下げ、草花の芽吹く地面に膝を付き、暖かな風を纏った手でちんこを握り、田沢はこの冬の悲しみを昇華するように全身で春を感

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9. 田所ちひろ、歩く。(平成30年12月26日)

流血した肩を押さえながら高井戸駅方面からよたよたと歩いてきた中年のサラリーマンは、狭まっていく視界の端に、駅方向に歩いて行く人影をかろうじて捉えた。ゆっくりと立ち止まり、制御を失っていく体を何とか動かし、じりじりとそちらに向き直った。ああ、そっち、に、行っちゃ、いけ、ないと、もっと、思いま、丼、です、べき…

半ば制圧されかかった彼の脳は、その思考を声帯や舌、口周りの筋肉の運動に的確に反映させるに

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8. 倉庫②(平成31年3月20日)

月島潤は、暗闇の中で自分の手首を握ってみた。ずいぶん痩せた。ここに立てこもって約三ヶ月。幸い、まだ食料は何とかなる。今のペースなら二ヶ月くらいは保つだろう。でも、二ヶ月保ったから何だって言うんだ。立てこもりを選択したのは、素人が訳も分からず東京脱出を図ることよりも、生き残ってプロによる救出を待つことの可能性に賭けたからだ。この屋上での見張りも、様々な不測の事態を避けるためでもあるが、どちらかと言え

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7. 必要至急の外出(平成30年12月12日)

二子玉川駅のホームは一時、騒然となった。

臨時休業や在宅業務の動きも見られ始めてはいたものの、朝のラッシュ時における利用客数の大幅な減少には至らず、むしろ例年を遥かに超える規模のいわゆる「着ぶくれラッシュ」が大きな問題となっていた。例年通りの気温の低下。そして、外出時の感染対策としての重ね着のエスカレート。

噛みつき対策のカーボンファイバー製プロテクターは一躍ヒット、品薄、粗悪な模造品の氾濫と

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6. チェーンソー(平成31年3月6日)

警備報告書 2019年3月6日

むさしのホーム西八王子店様

勤務時間:0時0分~23時59分 人員:1名

勤務者氏名:荒井義隆

特記事項:

連続勤務がちょうど一ヶ月、この報告書がただの日記になってから三週間くらいか。どうせ誰も読まないんだから知ったことか。おまんこ。真夜中にガラスが割れたような音で起きた。あわてて窓を開けると、雨が降っていた。駐車場のやつらはまた増えてたが、ライトを当てて

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5. ワイドショー(平成30年11月28日)

司会「こんにちはっ!十一月二十八日、『      』の時間です。え~、まずは驚きのニュースが飛び込んできました…」

(スタジオのモニター画面切り替わる)

司会「え~、CM契約社数〇〇社を誇る若手清純派女優    さん〇〇歳と、      賞主演男優賞など数々の賞に輝いた実力派俳優    さん〇〇歳の年の差不倫交際疑惑が今週発売の    で報じられました…」

(VTR)

司会「いや~、驚きま

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