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私信 どんな言葉も届かない

前の連絡から半年が過ぎた頃
あなたから
「教えてもらいたいことがある」
と、メールが届いた
 
且く画面を眺めている間に着信が鳴り
受話器のアイコンをスライドすると
あなたは
「少し専門的なことだけど」と一言置いて
「これは何?」
「これの意味は?」
「これはどうして?」
と、問いを並べた
 
私は
あなたの手元にある本を尋ね
あなたが質問するに至った個所を読んでもらった
そして
ウキペディアを眺めながら答を返した
 
あなたは
「書き留めるからゆっくりと」
と、喜々とした口調で忠告を入れ
「ウキペディアにあるよ」と伝えると
「ウキペディアは信用できない」と切り返し
復唱しながらメモを続けた
 
あなたは
時につけ、
気分に応じてメモした内容を私に聞かせた
「日本で初めての・・・」
「日本人ならではの・・・」
「日本人だからこそ・・・」
・・・
どんなにシンプルな単語でも
あなたの琴線に触れた一語には
あなたが聞きたい言葉が付与され
あなたが一瞬一瞬に思いつく
あなただけの「日本の精神」に変貌していた
 
あなたは
歴史も社会も宗教も
どんな入り口にも目を向けず
基礎も置けない空間に
あなたの牙城を建てようとして
地上で応える私を労い
「これ以上の説明は難しいということですね」
と締めくくる
 
そうして
言葉を散らかしたまま
問うた事実だけを引き上げて
通信を断った
 
何がなんでも讃えられたい
あなたの皇国史観には
どんな言葉も届かない

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