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[読書記録]「コンビニ人間」(村田沙耶香) / 読後感と向き合う

芥川賞受賞作、ということで読んでみました。
コンビニエンスストアの店員さんがどうやって動いているのか、具体的に考えることがこれまでそんなになかったので、はじめは新鮮に、店員さんの気にかける部分や感覚の使い方に感心しました。


他者とのやりとりの中で、自分を「なおす必要がある」と思っている主人公「恵子」が、スマイルマート日色町駅前店でオープニングスタッフとして働いて、

「お客様」がこんなに音をたてる生き物だとは、私は知らなかった。(略)
私は客の出す音に圧倒されながらも、負けじと、「いらっしゃいませ!」と繰り返し叫んだ。

コンビニ人間(村田沙耶香)より

そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。

コンビニ人間(村田沙耶香)より

コンビニでの毎日を、何千日も過ごして行くお話なのかと思いました。

これがまた違うのです。コンビニと恵子の切実な関係、マニュアルに対する絶大な信頼と、信仰にも似た切実なつながりにだんだん胸が締め付けられるように。
この奇妙な膠着状態が永遠に続くのではないか、それならむしろ面白いかも、そしてその状況をどう飲み込むのか、と思っていたところで思わぬ展開がやってきます。

多様性ってなんだろう、と心から疑問に思いました。人の悲しみは、その状態にあることではなく、他者にそれを自覚させられる時に生まれるのだと強く思います。
このお話の恵子は、「異物」だと認識されて、静かに削除されるのを恐れ、試行錯誤を繰り返して思わぬ方向に行動を移し、おお………となります。
でもただ、そこには恵子の切実さだけが純粋にあることを思うと、とても、とてももどかしく悲しいのです。
世の中ってこんなに不寛容で、救いのないものと私は思いたくないし、このお話の続きを考えてなんとか自分で納得するところまで持って行きました。

どうか、恵子が恵子のままで、誰にもコントロールされずにそのままの恵子で受け入れられる日が来ますように。恵子が生きていることを誰にも邪魔されませんように。

まとめると、読後感を引きずって、いろいろと思考をめぐらせながら現実の作業を悶々とこなし、納得するためにアレコレ想像してやっと落ち着いた私は、村田沙耶香さんの思い通りの読者にきっとなったのだろうな、ということでした。
問題提起として成功なのだと思います。

皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。私にはそれが迷惑だったし、傲慢で鬱陶しかった。

「コンビニ人間」村田沙耶香

人の評価は本当にそれぞれだなぁ、と思った一冊でした。
村田沙耶香さん、他の作品もこんな感じなのかな。

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