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大河「いだてん」の分析【第32話の感想】 “オリンピックはただのお祭りですよ?”の重要性

いだてんの全話感想ブログです。今回は第32話「独裁者」の感想と分析を書きます。

※他の回の感想分析はこちら↓

〜第32話「独裁者」のあらすじ〜
銀メダルを獲得し帰国した前畑(上白石萌歌)を待っていたのは、東京市長・永田秀次郎(イッセー尾形)らによる落胆の声だった。田畑(阿部サダヲ)は選手をかばって激怒するが、国民の大きすぎる期待に前畑は苦悩する。満州事変を非難する国際世論に反発した日本は国際連盟を脱退し孤立しはじめるが、治五郎(役所広司)らは粘り強くオリンピック招致を目指す。熊本の金栗(中村勘九郎)のもとにはマラソンで九州一周を目指すという青年が現れる。

1、次につなぐ“詰め込み”の第32話

長く丁寧に描かれたロサンゼルスオリンピックが終わり、今回はオリンピックからオリンピックへの“つなぎの回”ではあるが、いろいろと描いておかないといけない“変化”があるので、“詰め込み型”の第32話だった。

主要なものだけでも挙げてみよう。

1、オリンピックが昭和天皇への御進講するほどになったことは感慨深いと喜んでいた岸清一の急逝。

2、永田市長の失言に奮起して次のオリンピックを目指す事となる前畑秀子。

3、田畑の結婚。そして御祝いにきた河野一郎はたった1年で政治家になっている。

4、1933年、満州事変が問題視され日本は国際連盟を脱退される。事務次官をしていた嘉納塾出身、杉村陽太郎が体協に合流。

5、ヒトラーが第一元首に。オリンピック無用論を一転翻し招致賛成派に。1940年はムッソリーニのイタリアローマが候補地として抜きん出ている。

6、ヨーロッパ視察など元気に飛び回っていた嘉納治五郎が、体調不良に。

7、40歳を越え、志ん生がやっと食えるように。この頃からラジオで落語をかけるように。

8、熊本の四三の元に、小松勝が登場。冷水浴びの洗礼。続けて1960年代の五りんが水浴びするシーンに切り替わる。

「これは今後物語上、重要なことにつながるよな」と思われる要素だけでも8つも思いあたった。詰め込みすぎである。

なのに、読後感はそんなに重くなくて、サラサラーっと視聴できた回に感じられる。よくこんなに詰め込めたな。すごい技術だと思う。

2、オリンピックは“ただのお祭り”

いだてんでは、“日本のスポーツの歴史”を振り返るのと同時に、日本の政治、日本のマスコミ、この“3つの要素”が絡まり合う日本近代史を描くことをテーマにしている。

今回は天皇御進講まで進めた「1940年の東京へのオリンピック誘致活動」が、ドイツヒトラーの予想外の動きもあり、イタリアローマに誘致合戦で勝てそうにはないというムードに。

その時に田畑はこう語り出す。

「ロサンゼルスオリンピックは、楽しかったなー、また行きたいなー」と。

ふざけるな、マジメに考えろ!と注意を受ける田畑が、くるりと飛び跳ねて、口上をはじめたシーンが見どころである。画面キャプチャで紹介する。

「オリンピックなんて、ただのお祭りですよ」「軍がどうの、国がどうの。もっと簡単に考えましょうよ」

田畑は宙に浮いているようにつかみどころがない。泳ぐのほうがいいか。
宙を泳いでいるかのように、つかみどころがない人物である。

オリンピックがこんなにも“国家の期待を背負う一大事業”にまで育ったのは田畑たち水泳の影響だ。あのメダルラッシュがなければこんなことにはならなかった。
そしてそれは田畑自身も望んでいた夢だ。「スポーツで国民を明るくしたいんだ」と田畑はロスで同僚に打ち明けた。

でも、その田畑本人が「ただのお祭りですよ」と言ってのける。ここが重要である。だれよりもオリンピックにこだわりのある田畑なのに。

田畑は、水泳を愛している。
スポーツが純粋に好きなのだ。

スポーツを見てるとワクワクする、感動する、興奮する。勝ったらスカッとする、負けるとくやしいっと感じる。

それだけ、なのだ。
その“楽しさ”を国民みんなで“楽しみたい”と
、田畑は思っているだけなのだ。

しかし、“水泳”自体をそこまで愛しているわけではなく、抽象化されたスポーツ競技を通しての“競い合い”“1着争い”の部分にだけワクワクして、諸外国相手に完全なる勝利をしたオリンピックに興奮をした国民。
このふたつのあいだには、小さなようでいて、とてつもなく大きな“感情の隔たり”が感じられる。見ているものが違うというか。

ここをきっちり田畑は、体協は、議論して突き詰めないといけないが、やりきれないまま違う話題に変わってしまう。田畑やそしてもちろん嘉納治五郎のように、“スポーツを純粋にスポーツとして愛している想い”を、“オリンピックの意義”を、あらためて整理して発信し直さなければならない。それに気づいていないように思える。

冷静で客観視ができていた岸さんがいなくなった今こそ、それが重要ではないか。心強い仲間が増えた体協ではあるが、杉村陽太郎も副島道正も元は政治家である。その重要な問題を理解できるか。

「オリンピックはただのお祭り」。
これはいだてんにとって重要なキーワードになる。

そのことを念頭において1936年のベルリンを待ちたいと思う。

(おわり)
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