“給与振込先”を制する者が、キャッシュレス戦争を制する?    【マーケティング戦略の観察】

「デジタルマネーで給与、19年にも解禁」という18年10月の日経の記事をとりあげる。これ、けっこう衝撃的な出来事で、ビジネス上ではとてつもない地殻変動を起こしそうだ。
そのあたりの理由を整理して、まとめてみる。(2019年3月現在)
(画像:『J-Coin Pay』より 本文に参照元URL表記)

1、キャッシュレスには、相反する“便利さ”と“安全さ”がキー

雨後の筍のように決済手段が生まれているが、思ったほど日本の“現金利用者”が減らないのは、「①現金でもまるで不便していないから  ②金銭感覚が狂って無駄遣いしちゃいそうで怖いから」と、前回のブログ記事では2つの課題に整理した。


日本は他の国に比べて「電子マネー」が人気だが、それは「プリペイド式で、使っていい金額しか入れておかないので、想定以上に使っちゃうようなお金のリスクが防げるため」という心理的な安心感にあるようだ。このプリペイド式ならば、②の「金銭感覚が狂うのを不安がる」日本人に好まれるわけである。

でも、それって、キャッシュレスの魅力が半減しているように僕は感じる。
いちいち入金しないといけないし、人によってはその入金方法も“現金をつかって電子マネーに交換”したりしてると、結局“現金”を経由しちゃうことになる。

僕の電子マネーはJRのSuicaだが、ビュークレジットカードのオートチャージ設定にしてあるので、Suicaの残高が1万円を切ったら、給料振込口座から自動的に1万円をチャージしてくれる。これだと現金を見ることはないし、ストレスフリー。これが“キャッシュレスの醍醐味”だと思う。

でもそれって「②の使い過ぎ不安」の人からすると、天井がないので、不安な状態といえる。

「便利さ」か「安全さ」か。
このふたつの相反するニーズにどう応えるかが企業側の腕の見せ所だ。

2、【安全さ】天井がわかりやすいメルペイ

「メルペイ」の思想のいいところは、“メルカリで自分が販売した売上金がアプリ内に溜まっている”ことだと思う。
これならわざわざ入金しないでいいし、“毎月の給料とは別の臨時の収入”が元金なので、そこまで消費に不安がる必要がない。
意外と「メルペイ」の強さは、ここの“不安さ抑止”にあるんじゃないかなと僕は思う。

3、【便利さ】 給料振込先という源泉を誰がおさえるか

それで最近いろんな企業が注目してるのが、給料振込口座。

結局のところ、すべての社会人の生活資金の源泉は、“給料振込先”にたどりつく。

根っこの給料振込先から、消費者はいろんなルートを使って出金したりお金を移動させたりして生活をしているが、この“給料の根っこ”と直接太いパイプを確保しておくのが、一番“お金の流れはスムーズ”と言える。

あらためてこの給与振込先に注目が集まったのは、2018年10月に厚労省が「給与をデジタルマネーで支払い解禁」の方針を示したことだ。

2019年にも銀行口座を通さずにカードやスマートフォンの資金決済アプリなどに送金できるようにする。
給与の支払い手段は労働基準法で規制され、銀行口座が事実上、独占的な地位を占めている。
この規制緩和によって、市中から預金を集めて貸し出すという商業銀行の伝統的なビジネスモデルに変革をもたらす可能性がある。

国民生活の“お金の上流”は、給与支払いされる銀行口座から始まるので、そこをおさえている銀行はいまだ強い。

給料がそのまま電子マネーで入金されたなら、この既得権益が崩れる。
いまは銀行口座入金だから、“お金を使う”には、なんらかの方法で出金しないと街で買い物ができないから、現金引き落としも残る。
でも、電子マネーのカードに直接給料の数十万円がはいってくるとしたら、そのままその電子マネーで決済するのが自然だろう。だからキャッシュレスは進むはずである。

給与支払い額は、とても大きな金額である。
その額がそのまま“電子マネーの流通額”になるポテンシャルがあるため、デジタルマネー各社は是が非でもここのポジションをとりにいくだろう。

4、給与振込先認定への難関と、一歩リードする『LINE PAY』

でもこの「給与振込先としてデジタルマネー解禁」には、ハードルがある。
振込先としての許可がおりるには「電子マネーから現金に変換できること」や「払い戻し手数料が発生しないこと」や「一度の入金額上限が給与額に耐えられること」などの条件がつく。

これらの条件が実はなかなか難関で、現時点でクリアできてるデジタル決済はないし、根本的に設計思想が異なるサービスさえ多い。
だいたいの電子マネーはそもそも現金に戻せる機能がない。

そんな中、『LINE PAY』のサービス設計がもっとも実現に近そうだ。資金移動業者登録が承認されており、現金への換金も現時点で可能。銀行口座に吐き出したり、セブン銀行ATMで出金したりできる。

LINEは、銀行業への参入意志も発表している。
これで『LINE PAY』に給与振込まで進んじゃうと、LINEユーザーの若者は、メガバンクをわざわざ使う理由はなくなっていくだろう。

とはいえ、まだ「給与のデジタルマネー化」は少し先の話だし、LINE PAY も換金時の手数料が現時点では有料などクリアすべき条件は残るので、当分は各社の動きを見守ることになるだろう。

5、みずほの逆襲、『J-Coin Pay』最強説

さて、独占的な既得権益を守ってきた既存の銀行業、メガバンクたちは、だまって傍観しているのか。

特にみずほ銀行は積極的に動いており『J-Coin Pay』の提供を開始。
3月1日からはQRコード決済アプリもリリース。このときの記事を引用する。

J-Coin Payの基本決済機能は、銀行口座から必要金額をチャージし、QRコードを読み込んで支払う仕組みをとる。全国の地銀を含め約70の金融機関と連携を進めており、みずほ以外の銀行口座を登録できる。
他の決済サービスにはない“出し入れの自由さ”も大きな特徴だ。いちどチャージした電子マネーを無料で口座に戻せる。もちろんチャージ時の手数料もかからない。“無料ATM”のようなイメージで自由に預金を扱える。
個人間送金にも対応する。QRコードを介したやり取りに加え、SMSおよびLINEでの送金も可能。無料の個人間送金は「世界を変える」と、みずほFGの山田専務は(後略)

「無料で現金と電子マネーのあいだを出し入れ自由」で「個人間送金も無料」。
きちんとは調べていないから欠点も隠れているかもと思うが、この記事だけ読むと現時点では“最強”じゃなかろうか。

ただし、僕個人としては「給与振込先がみずほじゃない、みずほの通帳を持ってない」というのが残念。もともとみずほユーザーだったらお試しでさっそく使いはじめていることだろう。

あとは、利用加盟店の豊富さだが、これが使えないと結局現金にして使わざるを得なくなるが、みずほが自ら加盟店を開拓するというよりは、各社の電子マネーや決済アプリの裏側に連携して電子マネー交換とか進めてくれたほうがユーザー側としては便利になるような気もするが、とはいえ時代をリードし続けている王様企業だし、そこのあたりはあんまり言及しないでおきます。

『J-Coin Pay』、どれくらい評判になるか楽しみにして見守っています。


と、まあ、
キャッシュレス化や決済サービスアプリが盛り上がっている中、背景には「給与振込先の陣取り合戦も絡んでいる」という話しでした。

※前回の記事「だれがキャッシュレス化を遅らせるのか?」はこちら↓


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miyamoto maru

本業がマーケティング系で、時事ニュースにおけるマーケティング戦略や市場構造を分析する記事を書いてます。アート系やエンタメの分析評論も。2019はいだてんの全話感想が目標。

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