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「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」あなたはそれでも復讐を選ぶのか?


 「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」を見ました。
 話題になってから時間が経ってしまいましたが、ようやく全話見ることが出来ました。話題になっていた理由がよく分かりました……凄いドラマだ……。

高校生時代、壮絶ないじめに合っていた主人公、ムン・ドンウン。いじめの加害者の権力により、担任教師、警察、そして母親さえも味方にならず、彼女は自主退学に追い込まれる。そして彼女は人生を掛けて、復讐の実行を決意する――

というのが主なあらすじです。

 「いじめ」と言う言葉を使用していますが、言葉を変えるならばそれは紛れもない「傷害」「暴行」「性加害」の数々。残忍ないじめのシーンには思わず目を瞑りたくなってしまいます。けれどそのようないじめが現実にも存在するということを忘れてはいけません。

 あれだけドンウンを傷つけ、彼女の人生を壊した加害者達は、大人になり、そんなことも忘れたかのように自由で裕福な暮らしをしていています。韓国ドラマで悪役がお金持ちという設定はよくあることです。しかし、このドラマにおいては、ドンウンがどれだけ酷い仕打ちを受けてきたかを知っているのであれば、それはあまりにも許しがたい事実でしょう。

 そしてドンウンによる復讐劇が始まるのです。

 復讐をすることは正しいのか?というのは長らく議論されてきたテーマであると思います。私も途中まで、このまま復讐を実行して本当にそれでいいのか?と思ってしまいます。

 その理由として、いじめの主犯格で今ではお天気キャスターのパク・ヨンジンには家庭があり、幼い子供、イェソルがいるためです。教師になったドンウンは、イェソルの担任になることで彼女へ近づきます。その行動には思わず背筋がひやりとします。母、ヨンジンはあまりにも酷いことをした。けれど娘のイェソルは無邪気な子供で、彼女には何の罪もありません。その後どうなったのかは――実際にドラマをご覧ください。

 しかし見終わった今では、少なくともこのドラマにおいて「復讐は正しかった」と思ったのが私の答えです。
 それほどまでに、パク・ヨンジンら加害者達がどこまでも清々しいまでに「悪役」であるからです。加害者達は、それぞれが数えきれない罪を犯しています。特に主犯であるパク・ヨンジンには、どこまでも堕ちて欲しいと願ってしまう。そして堕ちるべき人間は堕ちていく。罪にはそれなりの罰が伴う。それは仕方のないことです。けれどただ見ていて気持ちの良いスカッとするだけの勧善懲悪だけでは終わらせない。それがこのドラマの魅力であると思います。

 そしてこのドラマ、テーマは非常に重いのに、次はどうなるの!?と続きが気になって続きを再生するのが止まらない。それもドンウンの実行した復讐が、ただやられたらやり返すという単純なものでなく、綿密に練られた計画であるからです。彼女の得意な囲碁のように、先を読み、一手一手着実に。その鮮やかさには感心すらしてしまいます。




※ここからは核心的なネタバレを含みます。ドラマを見た方のみお読みください。



 特に印象的だったのが12話後半の教会のシーン。
 鐘が鳴り響く神聖な教会と、クスリによってトリップする背徳的なサラの対比。そして焚かれる無数のフラッシュ。その光景はあまりにも鮮烈です。これまで点でしかなかった一つ一つの些細な出来事が、線に繋がったこともあり、12話を見終わったときには「とんでもないドラマを見てしまった……」と放心状態になってしまいました。

 ドンウンの復讐の協力者であり、夫からDVを受けている、カン・ヒョンナムについても語りたい。復讐をする中で、二人はある意味で共犯ではありますが、彼女のコミカルな一面は、重いテーマのこのドラマに束の間の優しさを与えてくれます。彼女もまた被害者であることには変わりないのですが、このドラマに彼女がいて本当に良かったと思います。彼女の笑顔には救われた。そして物語の終盤14話では、喜びと悲しみの入り乱れた複雑な感情で魅せてくれます。あのシーンも忘れられません。

 このドラマで好きな台詞は、10話でドンウンが、カン・ヒョンナムの娘、イ・ソナへ掛けたこの言葉。

お母さんはあなたを守る道を選んだ
ひどい世の中だから
あなたは留学しなさい
死ぬ気で勉強を

勉強の合間に旅行をして
美術館にも行き
ゆっくり夕飯を
そんな暮らし

 いじめにより高校を辞めさせられ、建築家への夢を諦め、それでも働きながら高卒認定を取り、大学へ進学し、教師へなることを選んだ。教師を選んだのも、住むところも、付き合う人も、それら全てが復讐のために向けられたもの。ドンウンは文字通り、復讐に人生を掛けてきたのです。その彼女が言うこの言葉には、重みがあります。イ・ソナもまた父親のDVの被害者であり、ドンウンは留学させることで彼女を逃がそうと計画します。その彼女へこの言葉を掛けるその意味。甘ったれた私には非常に強く響きました。

 結末には、少しスカッとしてしまいましたが、もしこの復讐劇に対して報復があるとしたら……と想像すると、恐ろしいですね。

 そして主人公ドンウン。ドンウンのように強くあれる人がどれだけいるでしょうか。ほんのわずかだけ弱さを見せる瞬間がありましたが、彼女は最後まで強かった。復讐するかはさておき、彼女のように、逆境の中でも立ち向かい続ける精神を持ちたいものですね。

 他にも書ききれないほどの思いがありますが、加害者そして被害者、どちらのサイドの俳優陣の演技にも魅せられ、「いじめ」と「復讐」という非常に複雑で扱いにくいテーマについて、巧みに書かれた脚本。どれをとっても素晴らしいドラマでした。

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