青々

日記のような、短編のような。 青々と書いて「とと」と読みます。

青々

日記のような、短編のような。 青々と書いて「とと」と読みます。

最近の記事

火曜日

彼女の笑い声が廊下に響いている。その楽しそうな笑い声に嫌悪感を抱いているのは、きっと私だけだろうなと思う。 この職場には、毎週火曜日にヤクルトレディが来てくれるのだが、健康のためにとヤクルトを購入していく人が結構多い。奥さんに頼まれて購入する人もいるくらいだ。 今日も「こんにちはー」という明るいレディの声で、ぞろぞろとみんな席を立ち始める。彼女も同僚と話しながら楽しそうに列に並ぶ。私も例外なく、今日は何を購入しようかと席を立った瞬間、電話が鳴った。 取引先から、来月に行われ

    • 「『なにもない』じゃなくて『なんでもない』なんですね」 水瀬にそう言われたとき、なぜか胸がぎゅっと苦しくなった。ふと口から出てしまった本音を、こぼさずにすくい上げてくれた気がして少し泣きたくなった。 外回りから帰ると、デスクの上には新たに積み上がった書類で山が出来ていた。その横では上司に媚びを売る奴らが、一生懸命に部長を持ち上げては下品な声で談笑している。 こんな茶番、飽きもせずによくできるよなと毎回思う。笑い声が耳に障って吐き気がする。 自分が汗水垂らして信頼を勝ち得た

      • 空が一面白く光っている。遠くの方では重たそうな雲が黒く垂れ下がって、ひどく心地が悪い。見えない重力に押しつぶされそうな気分だ。上空に溜まった湿気が今にも落ちてきそうな天気。そういえば傘を持ってきていなかったが、職場に着くまで持つだろうか。 行き交う人と賑わう大通、スイーツ店の前の行列と待ち合わせる男女の群れ。その全てが耳障りで、全てが自分とはかけ離れたところにあるように思えた。 「水瀬」 皐月さんが俺を呼んだ。心地のいいハスキーな声が耳をくすぐる。その先を辿って、数歩先

        • 月曜日

          精神を病み、休職している先輩が、私の部署にいる。 私の勤めている会社は比較的寛容で、そういう方々に対して、無理に仕事をしろなんて言わない。 明るくて気さくな先輩だったが、はたから見ていて、自分で自分の首を絞めてしまうような追い込み方をしていた。特に多くの仕事をしているわけでもなさそうだったが、自分のキャパ以上のことをしようとしていたのか、いつも余裕がなかった。でもとても人懐っこい性格だからか、人間関係は良好なのだと思う。 体調と相談しながら来れるときに出勤してくればいい

          休日

          あたたかな微睡みは、すぐに消えてしまった。 耳元でけたたましく鳴り響くアラームは、十分毎に鳴る設定にしているせいか、止めても止めてもしつこく俺を起こそうとしてくる。もう何度鳴ったかわからないそれを止めて、ようやく上体を起こすが、身体が重たくて縦になっていられない。頭では起きなければと思っていても、身体が起き上がることを嫌がっていた。低血圧な上に、寒さのおかげで、しばらくの間ベッドに潜っては起きてを繰り返していた。毛布の中のぬくもりが恋しい。 ようやくカーテンを開けると、街の