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雰囲気を飲む ビールがおいしくなった日

仕事終わりのビールが、美味しい。

そう思うようになったのは仕事を始めて半年くらい、下っ端が任される飲み会の幹事に慣れてきた頃だった。全く好きでなかったが、先輩たちと違うものを頼むのもめんどくさいから、とりあえずビールを頼む。

苦さを覚悟して飲んだが、あれっと思った。冷たさが、ほてった体に染み渡る感じがした。あれを「のどごし」というのだろう。とにかく、味がどうこうというのではなく、紛れもなくうまかった。ただほんのちょっと苦くて、冷たいビールが、仕事の疲れや気遣いを洗い流してくれる、贅沢。

夏、汗だくになった部活終わりのサイダーのような、味自体ではなく、シチュエーションが美味いと感じさせてくれる飲み物だと知った。
もちろん、手元にあるビールには、サイダーのような甘みも、背景となるうだる暑さも若さもない。そこはただの、疲れたサラリーマンが集まる賑やかな酒場だった。

味そのものではなく、雰囲気を楽しむ。
これまで知らなかった感覚に出会えた日。

嬉しいのか寂しいのか、少し、大人に近づいた気がした。


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