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内定式と5か月間

10月1日木曜日、午前9時30分。

広島の天気は快晴。

心地よい秋風を感じつつ、前日にアイロンをかけた真っ白なシャツを手に取った。

しわひとつないシャツはやっぱり気分が上がる。

ネクタイは悩んだ挙句、去年の誕生日に頂いた落ち着きのあるグリーンのストライプのものにした。

これを付けるのは最終面接ぶりで、あの時の緊張感がよみがえってくる。

あれからもう5か月も経ったのか。

そんな感傷に浸りながら、ゆっくりとスーツカバーに手をかける。

就職活動のために買ったリクルートスーツだが、着用したのは両手で数えられるほどだった。

ジャケットに袖を通し、フロントボタンを留めて鏡の前に立った。

最後に着た時とは異なる緊張を感じて少しだけソワソワした。

そんな焦る気持ちを落ち着かせながら机の引き出しを引く。

最後の準備だ。

大切にしまっているHAMILTONの時計を手に取り、日付と時刻を合わせた。

店長から「今の自分よりも少しだけ背伸びしたものを身に付けていると、気が引き締まるし、それが似合う人になれるよ。」と言われたことをふと思い出す。

いつか本当に似合う日がくるのだろうか。

そんなことを考えながら左腕に目をやると9時55分。

いよいよだ。

午前10時00分、オンラインにて内定式が始まった。

社長、副社長、取締役、会長。

それぞれの祝辞を頂きながら、社会人の始まりが目前に迫っていることをひしひしと感じて鳥肌が立った。

それと同時に、この5か月間で自分がまた変わったんじゃないかと思った。

というのも、正直なところこの5か月間の中で、自分の決断を疑ったり、来年から社会人として働き始めることに不安を感じたり、広島を離れることに対して寂しさを覚えていた。

それ故に未来に大きな希望を感じている周囲と話すことが億劫だったし、引け目に感じていた。

ただこんな気持ちで上京したくはないし、今の時間を無駄にしたくなかったから、必死にもがいた。

今まで読んだことが無かった自己啓発本の類を読んでみたり、周囲の人たちに相談してみたり、ひたすらに自己分析をし直してみたり。

とにかく思いつくことにはなんでも取り組んでみた。

そうやってもがいているうちに少しずつ自分と未来が繋がってきて、そのために今何をしないといけないのかが分かってきた。

そして着実にそれを実行しているからこそ、今も不安は勿論あるけれど、半年後の自分にワクワクし始めているんだと思う。

残り半年間の学生生活、今一度行動と振り返りを行いながら自分にとって有意義なものにしよう。

次にまたスーツを着る日が楽しみだ。

あとがき

祝辞の中で、一つ強烈に印象に残った話があった。

今年度の採用に当たり、3000近くの人がエントリーしてくれて、その中からマッチングを重視した結果11人が内定を獲得した、という話だ。

僕はこの話を聞きながら、あるときと同じ感情を抱いていた。

それが過去の自己紹介でもふれた、アダムエロペでのアルバイトだ。

あの時も店長、副店長、アルバイトのアルバイト1枠をかけて5人がエントリーしていた。

そしてその1枠に偶然僕が入れたためアルバイトをすることが出来たわけだが、残りの4人だってきっと本気で働きたかったはずだ。

そう思うと、せっかく選んでいただいたからにはやりきるしかない。

選ばれた期待と責任を果たすんだと強く思った。

そして今回。

同じように最大2900人以上が、この会社に入りたくても入れなかったんだと思うと、絶対にその気持ちを無下にはできないし、選ばれた期待と責任を果たしたいと心の底から思った。

人事の方からは「就職活動は勝ち負けとかではないし、甲子園みたく『負けたチームの分まで!』と意気込みすぎないでね」、という優しい声をかけて頂いたが、この気持ちは忘れずに持ち続けていきたい。


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